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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
64/205

第63話〜白羽の矢//彼の為に〜


 道夫とクラウが作戦室へ入ると、既に何人かが席について待っていた。相変わらず地図や図面、駒といった小道具が雑に中心の大机上で散らかっていた。

 オランドやナクは勿論、先程戻ってきたラクリオ達。そして長い柄のメイスらしき得物を携えた見慣れない青年が寛いでいた。


「来たか二人とも。話をするから座っておくれ」


「おぅ、あの方々がうわーさの二人デースね?お初にドーモ、修道騎士長レジョーニ・バンタンですー」


 下手なニホン語を喋る外国人の様なノリでその青年は自己紹介した。

 席に座りながら、道夫達も軽く挨拶を済ませる。ただそれだけなのにレジョーニの表情は大袈裟な程に明るくなっていた。


「それで、俺達を呼んだのは?」


「本題の前に、戻ってきた二人の話を聞くと良い。聞けば教えてくれた物を、自分で調べて感じてみたいと聞かなくてな」


 そう言われたラクリオは街の中で調べてきた事を地図と合わせて説明していった。

 街中に張り巡らされた魔力を持つ謎の液体はこの街では『聖血』と呼ばれ、どこを辿っても最終的には大教会へと繋がっているのだという。


「やっぱり狙いは大教会になるか……」


「そーうデス。なーに大教会といってもただでっかいだけの教会でしーたよ。そこで務めてたのでわかーります」


「更にバンタンからの知らせで、明日の朝に『選別』を行う。上手くいけば潜り込めるだろう」


 選別とは日々の務めを認められた者達が大教会へ異動され、より神に近い場所で祈りを捧げられる様になる。この街に住む人々にとって最大の名誉となり得る物らしい。

 

しかし最近の選別では成人前の少女のみが選ばれ、大教会へ連れて行かれた後は何の音沙汰も無いという。

 怪しさ極まる事態だが、それを疑う者は外の街にはもう居ない。


「潜り込める機会とは言っても、選ばれるのは女の子ばかりかぁ。リリテは……なんかしくじりそうだなぁ……」


「な に か、おっしゃいまして……?」


「いいひぇ、なんれもないでひゅ……」


 頬を万力の如くつねられながらラクリオがぼやいた。彼の言葉もあながち間違いではなく、潜り込むという事は敵の総本山に乗り込むのと同じである。

 リリテも実力が無い訳ではないが、彼女の()()上もしもの事態に対処しきれない可能性がある。


「まぁ、分かっているつもりですわ。でも他にどなたが……」


 察しの良い彼女の言葉に道夫は頷く。ラクリオは頬を一部真っ赤にして机に突っ伏した。余程痛かったのか、ピクリとも動かない。


「私では色々とあちら側にも顔が割れているのと、ある物の準備があって潜入の方には行けそうになくて……」


 頼ろうと思っていたナクも無理となり、道夫もどうしたものかと悩み出す。ふと道夫はクラウの方を見やると丁度左側に座っていた彼の右目が見えた。

 桃と水色の二色で本人は反性の証だからと嫌っているが、相変わらず不思議で綺麗な色だと思って無意識の内に見つめてしまっていた。


「ミチオ、そ……そんな見つめてどうした?」


「……ですわ」


「え?」


 クラウを見た途端、リリテが立ち上がり何かを呟いた。一体何を閃いたのか、その姿からは溢れんばかりの熱意が篭っている。


「クラウさん!潜入には貴方が適役ですわ!!」


「なっ!?」


 リリテがクラウの手を取って、今度は全員に聞こえるように言った。余りの突拍子もない話に流石のクラウも動揺を隠せていない。


「はぁ……リリテさんや、クラウは男だぞ?選ばれるのは女の子……おいまさか本気か正気か!?」


「えぇ!クラウさんなら女性に変装させても疑われる事もありませんし実力も充分であると思いますわ!」


 場の空気がしんと鎮まってしまった。思わず頭を抱えた道夫だが、だからといって道夫にも他の方法が思い付かない。

 確かに彼程の容姿なら誤魔化す事も出来るかもしれないし、学院一の実力を持っている。性別の件を除けばこれ以上の適任者はいないだろう。


「だけどな……」


 彼に危ない橋を渡らせるしか方法が本当にないのか。そう思うとリリテの考えにすぐに賛同は出来なかった。

 本人も含めた誰もが、最後に道夫の判断を待ってくれている。

 堂々巡りな思考が答えを遠ざける中、クラウが道夫の手を握った。暖かい感触とフローラルな花の香りが道夫を思考から引き戻してくれた。


()なら大丈夫、ミチオがやってくれと言ってくれるなら。それともミチオは、私の事を信じてくれないの?」


 手をしっかりと握り「目を逸らさないで」と言わんばかりに二人は見つめ合っていた。

 クラウの表情には確かな覚悟があった。そんな顔を見てしまったら、道夫にはもう逆らう術が無い。


「……すまない。俺は君に危険な事をさせてしまう。他の考えも浮かびやしなかった……許してくれ」


 口から出たのは、只の弱音だった。絞り出す様に放った言葉に、クラウは首を横に振る。


「誰も、ミチオを責めたりしない。みんなミチオの事を信じてる、またあの時の様な奇跡を起こしてくれるって……ひゃっ」


 それを聞いた道夫はクラウを抱き寄せて小さく「頼む」と囁いた。

 クラウはそれに頷いた後、すぐに別の部屋へと向かっていった。本人曰く「化粧直し」だそうだ。


「……勿論、あいつだけに危ない事させる訳じゃないだろ?」


「無論だ。作戦なら……ある」


 オランドは厳かに答え、残った彼等にその内容を伝えていくのであった。

〜次回、第64話〜


 仲間達の協力の下、選別候補者の一人として女装しながら大教会へと潜入する事になったクラウ。

 遂に近づく大教会の外からは、何か異様な気配と気色悪さが漂っていた……。

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