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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
63/205

第62話〜訓練初日//授かる技は漫画から〜


〜地下訓練場〜


「いやァァ!!」


 クラウの真っ向からの兜割りを、津是は力を殆ど込めずに受け流した。既に何時間も打ち合いを続けているが、彼は全く疲労していない。


「呼吸、乱れているぞ。整えろ」


 クラウは一旦後ろへ下がり、津是は次だと言わんばかりに道夫を見る。

 遡って訓練前、彼から教わった事を道夫は思い返していた。


(まずは集中……そして呼吸。今の自分なら、やれる!)


「っ!せぁぁぁ!!」


〜数時間前〜


「こ、呼吸?」


 剣士であるクラウには多少の事は理解できれど、道夫には何故それが吸血鬼に対抗できるのか分からなかった。

 更に詳しく話を聞いてみれば、体内にそれこそ無茶な位空気を取り込んで身体をより強くするという。

 聞けば聞く程、まるで漫画の話の様だった。


「まぁ俺もクタラから聞いた程度だが、少し手本を見せよう」


 人形の前に立ち、津是は木剣を構える。静かな空間に呼吸の音が響く。

 道夫達はそれが津是の呼吸音である事に気付き、そして津是は静かに呟いた。


「練集中……水天、一の舞・羽衣!」


 木剣を真横に一閃、剣は人形をそのまま通り過ぎ斬れない筈の鎧人形は上下に分かれて倒れた。

 その時、道夫にも剣の軌跡を静かに走る水の流れがはっきりと見えていた。


「……俺にも此処までするのが限界だ。要するにお前達に教えるのは二つ、木剣でさえ鎧を断ち切れる『練気』の刃。そして今の技を撃つために使った『呼法』だ」


 額に汗を浮かばせていたが、津是は一回深呼吸をするだけで身体に見えていた疲労感を消してみせた。

 そして先程放った『羽衣』の名前を聞いて道夫は昔に読んだ有名な漫画『屍滅(しめつ)のヤイバ』で主人公が使った物と同じである事を思い出した。

 漫画みたいな話なのも納得である。作中で出た技をそのまま現実で使っているのだから。


「剣士の方は、下手に練気の事を考えるより呼法を重視した方が良い。その闘い方を安易に変えず拡張する為に。だが……」


 津是は道夫の方を見やる。確かに此方は別に剣士という訳ではない事位は自覚している。

 何か厳しい言葉が出てくるかと思ったが、彼はどちらかというと興味深い物を見る様な感じであった。


「鉄の棒を生み出す力。それだけでも興味深いが、切れない得物というのも丁度良い。練気の刃はむしろそういう物の方が相性が良い」


 何やら満足そうに頷いて「早速始めよう」と彼は木剣を構え直した。


〜〜


「…っ!?」


 道夫の放った横薙ぎの一撃こそ止められたが、彼が驚いたのはその後の事だった。

 道夫の警棒からほんの僅かに垣間見えた光は津是の気とぶつかり合い、衝撃波となって辺りの人形達を吹き飛ばした。


 一瞬、一回だけの攻防であった。津是は距離を取って木剣を収め、道夫も警棒を消して座り込む。

 準備も無しに出来た行動に身体の方が対応しきれず、その反動を重い疲労という警鐘として彼に伝えていた。


「見事。まさか訓練初日でここまでやるとは。後は少しずつ身体を慣らせば自ずと使える様になる」


「はぁ……!はっ、はっ、はっ……」


 漫画でも言っていたが、本当に肺が裂けそうになる。今さっき思い出したが、主人公もこの反動を制御する為に長い時間を掛けて己を鍛えていた。

 だが今の道夫は、『出来る』と思っただけで僅かながらも練気の刃と呼吸を同時に成功させてしまった。

 友人の七夏が居てくれたなら、恐らく『実現(ノンフィクション)』と名付けてくれたりするのだろうか。


「慣らすったって、こんなのどうやればっ……」


「それについてはクタラもこう言っていた」


『死にかける程頑張る』


 酸欠で脳が回ってないのか、何だかおかしく思って二人は笑い出した。さっきの言葉がハモった事もそうだが、漫画に書いてあった事を現実でやろうとしたその人物の事も。

 クラウの手を取ってゆっくり立ち上がる。何度か深呼吸をしていたら幾分か身体が楽になってきた。


「今日はここまで。今先程、ココから集まる様にとの事だ。当面の目標は身体を慣らす事と、剣士の方は自身に残っている迷いを断て」


 それを言われてクラウは少しだけ俯いた。決闘の日に引き起こした事は、自分の弱さが招いた事だと彼はまだ思っているらしい。

 そして道夫も、クラウが日々の中でそれを少しずつ断ち切ろうとしていた事は分かっているつもりだ。だからこそ彼は道夫に零番目の刀を預からせたのだから。


「大丈夫だクラウ、俺もついてるから」


「……あ、あぁ」


 少し照れながらも、道夫の手を握り返す。それを見た津是は何か納得した様な面持ちで「遅れるなよ」と先に訓練場を後にして行った。


「み、ミチオ。余り人前でそういう事は……」


「……変なこと言った?俺」


 心当たりの無い道夫に、クラウは小さく「ばか」と呟いたのであった。

〜次回、第63話〜


 学院生全員が戻り、遂に攻勢に出る事になった反聖組織。

 ラクリオ達の情報も含め、大教会への潜入を企てる。スパイという大役に対し、白羽の矢は誰に飛ぶ……?

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