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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
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第5話〜星の雪//届いた願い〜


〜沈みの月、3週目の日。要するに冬〜


 リアーシェの家族宣言から更に月日が流れ、ついに村も森林も真っ白な雪に包まれる時期になった。

 道夫は扱いやすい短弓持って森の中を進んでいた。今回の獲物は、ウォーパという兎みたいな生き物だ。

 生きる為の力を得るにあたって、道夫は獲物を狩ることとその術を彼女と村の狩人から教わっていた。


(言ってたのはここだな。やってみようか…)


「ーーッ、明視(センナ)


 言葉を呟き、一陣魔法を発動する。決して使えないと思ってた魔法が、リアーシェの手ほどきと少量の魔力移植により道夫も遂に扱える様になった。

 魔法により、両目の色が水色に変わる。矢を番え、弓を引き絞る。力一杯に弦を引く手は寒さと力加減の難しさに震える。

 今の道夫には、真っ白にカムフラージュされたウォーパの姿がはっきり見えた。

 こちらは気配すら悟られておらず、このまま撃てば当たるだろう。


「…ゆるしておくれ」


 祈る言葉を乗せる様に矢を放つ。ウォーパが近づく矢に気付いたのは、それが自らを貫いた後だった。


〜〜


「見てたよミチオ、スゴイ上手でした〜」


「ウォーパ程度ではあったが、中々の狩りだったぞミチオ」


 村にウォーパを持って帰る。リアーシェ達もその成果をしっかり褒めてくれた。だが、狩りはまだ終わりではない。


「さ、今度はその子をしっかり料理して、しっかり頂くこと!いこ、ミチオ」


 リアーシェに手を引かれて厨房へ、狩った獲物の下処理を教わった通りにこなしていく。既に何回か経験したのだが、この感覚や感触はどうも慣れない。


「うぅん……できたとはいえ、ウエッてなる…」


「慣れればどうってことなくなるけど、忘れちゃいけないことはまだあるよ」


 取り出した皮や骨も使える所は全部利用し、どうしても使えない部分は埋葬する。

 イミュリーズの冬は中々に厳しく、特に毛皮は防寒衣を補修できるので重宝される。


「料理ができるまで、今度は魔法のお勉強ですよ〜?」


 本当に楽しそうな顔をしていたリアーシェを見て、道夫も微笑んでしまう。

 魔法の勉強として実際に陣を描き、実践として的を狙ったり、リアーシェと勝負の様な形で訓練も行ってきた。

 苦労して描いた魔法も、彼女には土埃1つ付きやしないのだがら、この道はまだまだ遠かった。


「まだまだだね。さぁ〜そろそろごはんだよ〜」


 今日の夕食は、自身で狩ったウォーパを使った『肉じゃが』だ。驚くことにこの世界にも『ジャガイモ』が存在していた。なんてたくましいヤツなのだろうか。

 それに、肉じゃがという料理もどこから来たのだろうか。チキュウ産の物と言い張る気はないが、この世界の人間も似た様な発想をしたのかもしれない。


「初狩猟のお味はいかが?」


「おいしい。っていうか味についてはほとんどリアねえの…」


 2人っきりの団欒は、本当の家族みたいだった。その感覚の中、道夫は思い出した様にリアーシェに問いかける。


「リアねえ、どうして俺をここまで見てくれたの?なんにも知らなくて、なんにも分からなかった俺を…」


「う〜ん…簡単すぎて深く考えてなかったのだけど…」


 少し考えて、リアーシェは微笑んで答えた。


「ミチオ、泣きそうな顔してたから…かな?」


「…そんだけ?」


 ミチオの問いに彼女は頷く。そんな単純なことでと考えていたら、リアーシェがえ〜いっといきなり抱きついて頬ずりしてきた。


「それにぃ、キミみたいな可愛い弟が欲しかったんだよ〜ミチオきゅ〜ん」


「ええい茶化すな!やめんかぁ!」


 ホントに変わった人だよアンタは。そう思いながら、片付けその他を済ませた道夫は、疲れた体を暖かいベッドに包んで眠りにつく。



「…チオ。ミチオ起きて、早く〜」


「…リアねえ今何時だと」


 深夜過ぎの闇の中で、リアーシェに起こされた。寝ぼけ眼を擦りながら、せっせと防寒衣を着せられ家の屋根まで連れてかれた。


「リアねえ、ほんとになに…を…」


「今日が星の雪(セラムル)の日だってこと思い出したの。ほら見て、また」


 星の雪という現象以前に、この世界でもまだ見たことない星の景色に道夫は息を呑んだ。隙間無く散りばめられた星々が余さず輝く。

 流星群のように多くの星が流れ、その数はチキュウで見れた流星群とは全然違う。

 幾つもの星が途切れることなく流れ、その光景に心を奪われる。


「すげぇ…」


「…ずうっと昔、お母さんが見せてくれたの。その時の私も、ミチオみたいに最初むす~っとしてた」


 いつの間にか温かい茶を持ってリアーシェが隣に座る。お互いにそれを飲みながら、流れる星と夜空を眺め続ける。

 よく見れば道夫たち以外にも何人かが星を眺めていた。子ども達は大はしゃぎし、大人達は流れる星に祈りを込めている。


「星の雪は願いを乗せる日ってだけじゃなくて、もう一つの意味があるの。それは、想いを告げるおまじない」


 リアーシェは、道夫の手を握り締めて見つめてくる。道夫も照れながら同じように彼女を見つめ返す。星が一層輝いたその時に、リアーシェは口を開いた。


「私、リアーシェ・イェレン・クナッドはあなた、ヒイラギミチオが好きです。私の本当の家族になって下さい」


「…うん、わかったよ。姉さん」


 突然の告白に一瞬止まったが、道夫は頷く。彼女もそれを聞いて表情がパッと明るくなった。

 今までも家族の様な物だったが、改めて本当の家族になれた事がなんだか嬉しかった。


「ていうか、あの言葉別に茶化したわけじゃなかったわけ?姉さん」


「そうだよ~。おねえさんの気持ちわかってくれた~?」


 道夫の頬に唇の感触、リアーシェが抱き着いて口付けしたのだ。いきなりの奇襲に顔が紅潮する。


「むふふ~、本番は好きな人に取っといてね。見つけ出したらちゃあんとお姉ちゃんに一番に会わせること」


「なんで会わせなきゃいけないんだ、何をする気だ姉さんは!」


 星の雪という現象は意外と長時間に渡る。二人してくしゃみをしたところで、流石に眠りにつくことにした。

 この上ない暖かさに包まれながら、この日々がこれからも続いていくと道夫は少しも疑わなかった。

〜リアーシェ・イェレン・クナッド〜


 リュカネの村に住んでいる、道夫の恩人。容姿も村で1番な程端麗で、長い茶髪と藍色の瞳が特徴である。魔法の知識と技術も抜群で、特訓では負け無しを保ち続けている。


 道夫を弟のように可愛がり、悪戯めいた笑顔を良くする。


 そんな可愛がられてる道夫でも、彼女の全部を知らないし教えてくれなかった秘密多き人でもある。

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