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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
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第58話〜作戦会議//失った者〜


「勝ち目があるってのは本当なのか?」


 道夫の問いにオランドは頷く。その目はさっきまで隅で拗ねていた老人とは全くの別物だ。

 テーブルの上を雑に片付け、彼は大きな地図を広げていく。

 イビシュエル全体の見取り図の様だが、既に大量の書き込みが記されていた。


「知っての通り、この街の全ては奴が大主教となってから変わり果ててしまった。最終目標は奴を滅し、街に敷かれた陣を破壊する。それで皆も目を覚ます筈……」


「……街の全てが変わってしまったというなら、ここの人達はどうして街の異変に気付いたんだ?」


 道夫の言葉に、オランドは目を逸らし軽く頭を掻く。街全てを洗脳する程の魔法に彼はどう抗ったのだろうか。


「あぁ……それはなぁ、私がその日最後の祈りを昼寝で偶然すっぽかしてしまってな……。それでこの街の異変に気付く事が出来た。」


 そこから彼はバレない様に人々を洗脳から解いて回り、少しずつ仲間を増やしていった。しかし、道夫達にはまだ分からない所があった。

 それは洗脳から目覚めた彼が、何故逃げるのではなく戦う道を選択したのかだ。


「後一つ聞きたい。どうして目覚めた時、逃げずにこんな事を?」


 暫しの沈黙、オランドは一つ深呼吸をすると「長くも無いがそれなりの話になる」と椅子に腰掛けた。前で杖を握る彼の手は老いに負けない位強い。


「どうか聞いて行ってくれぬか。この老体に宿る炎の話を……」


 当時、オランドにはエナという一人の孫がいた。幼いながらも信心深く教えと祈りの言葉を欠かす事は無く、特別な才能も持ち合わせてはいないが、いつか大教会に務めたいと何時も語ってくれたそうだ。

 だがある日、前大主教が突然の病死。後釜としてサザーが新しい大主教になった後、エナの下へ大教会に来る様知らせが届いた。

 喜んで送った祖父に見せた笑顔。それが最後に見た姿だった。


「目を覚ました時、街にはいつの間にか緑に光る謎の液体がそこら中に張り巡らされておった。そんな事にも気付けず、半年近くものうのうと生きていた……私はそんな自分が、許せんのだ!!」


 彼は怒りの余り近くの椅子を蹴り飛ばした。持っていた杖を振り上げて椅子を打ちのめす。

 直ぐに息を荒げ、胸の辺りを抑え出す。力の限り握る手を開いて目元を覆う。


「私が、もっと早く気づけていれば……こんな身体でなかったらと考えなかった事はない。そして今、こうして同じ境遇の者達を集め、命を賭けさせ頼り切るしかない始末」


「復讐など、本来抱くべきでは無いのかもしれぬ……」


 彼の激情と哀愁を間近に見た道夫は、何故か近しい感情を抱かずには居られなかった。それは数年前、彼女を失ったばかりの自分と同じだったから。

 周囲への憤り、無力感、そして後悔。生きる希望が消えた者の気持ちは、道夫が一番良く分かっていた。

 仲間達を見ると、皆が無言で頷いてくれた。


「希望を捨てちゃいけない。娘さんの安否が分かるまでは、でなきゃ此処に居る皆を裏切るのと一緒だ」


 道夫はオランドに近づいて手を取り、両手で包む様に優しく握る。涙に濡れる彼の顔をしっかりと見据えながら道夫は続けた。


「俺自身も、あんたと同じ様な目にあった事があるから分かるんだ。それでも彼女……るあの事を諦めずに此処まで来れたのは、沢山の人達が俺を支えてくれたからだと気付けた」


 勢いに任せ、小っ恥ずかしい台詞を吐いてしまう。ニホンだったら笑いのタネに過ぎないかもしれないが、この異世界では意外と通用する事を道夫は理解していた。


「俺達も含めた、此処に居る誰もがあんたの言葉を信じてここまで付いてきてくれたんだ。それに、本当はそんな気さらさらないだろ?そろそろ芝居はやめだ」


 オランドの顔に涙は既になく、小刻みに肩が震えていた。それは悲しみではなく、クククと笑っていたからだ。

 そして最後は腹を抱える程の大笑いへと変わっていき、その声は会議室に響き渡っていった。


「はっはっは!分かっているじゃないか若いの!お主も中々にネジが外れていると見たぞぉ」


「復讐ってだけでここまでやれるんだ。只者じゃないとは思っていた」


 二人は何の示し合わせも無く、ピシガシグッグッと拳を合わせていく。外野は完全に置いてけぼりだったが、その光景を見て少し胸を撫で下ろしていた。


「今までの全部演技でしたの?なんてお方なのでしょう」


 リリテの言葉にラクリオは「それな」と返す。オランドは一頻り笑った後、それぞれに謝罪の言葉を述べてそのまま会議という名の顔合わせ会はお開きとなった。


「なぁリリテ……街が朝になったらさ……一緒に来てくれないか?」「あら、それって口説いているつもりですの?」「ちげぇし!兎に角お前にも来て欲しいんだよ……」


 各々が部屋に戻って行き、道夫も自室へと戻りソファーに座る。頭に浮かぶのは、大袈裟に笑っていたオランドの姿だ。


(全く、空元気に付き合わされる身にもなって欲しいもんだな……)


 彼の悲しみと憎しみは本物だった。だが仲間達の前で彼はそれを演技として片付けていた。

 思惑について考えてみようとするが、一息つくとすぐに身体は重くなる。疲れた身にはそんな事すら堪えるらしい。


「ミチオ、お待たせ」


ベッドへと向かい寝る準備を整えていると、クラウが風呂場から戻ってきた。着ている寝巻きは明らかに女性物だが、余りに似合っているその姿は彼が相変わらず男である事を忘れそうになる程だ。


「一つ、聞きたいんだ。ミチオ」


 カチャン、と部屋の鍵を掛けたクラウ。そして道夫の方へ近付くと横たわるその身体に抱きついて来る。

 風呂上がりの身体からは甘い香りが鼻をくすぐる。この展開にデジャヴを感じた道夫は、これから来る話題を早々に切り上げるべく先手を打つ。


「……クラウ、今日はもう眠いんだ。話ならまた朝に」


「ミチオ……『るあ』とは誰の事なんだ?」


 速攻に速攻で返されてしまった。その時の()()の顔と声色は、完全に恋に妬かれる乙女その物であった。

〜次回予告〜


「るあは、俺の恋人だ」


「クラウ、今こそお前の心に決着を付ける時だと思う」


「後は、お前自身が決めれば良い」


「ミチオはずるい奴だ……とことんずるい」


次回、第59話。


「正直、アレが起きそうになった。彼が男じゃなければ危なかった……いやその扉は開けちゃいかんと思う」

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