第57話〜翁//抗う者達〜
「街の人全員が、この状況を作ったと……?だがそれは……」
「不可能だ、大主教が吸血鬼なら尚更。その上、街全体を術中に収める程の陣が描ける筈は……」
クラウの言葉に道夫は頷く。イミュリーズの魔物、モンスター達というのは本来『魔法』を使えない。
体内に魔力は有しているが、それで陣を描き且つ正しい発音をしたとしても発動する事はないのだ。
「あぁ、そして考えが合ってたら……」
ラクリオは機体を街の外へと進めて行く。追手も無くすんなりと壁を越えて視界一杯に広がったのは眩い程の光と白銀の世界であった。
「な……!?あ、朝か!」
「やっぱり、夜になっているのはあそこだけなんだ。それに時計が……」
彼の時計は目まぐるしく動き出し、時間合わせを行なっていた。
先程まで午後のだったのが、午前の六時へと変わって行く。
「人、時間、景色……あそこじゃ全部が違っているんだ」
「これは中々、骨の折れそうな事態になっているな……」
「そろそろ着地点だ。準備を」
津是に従って所定の場所で着陸する。すると地下へのハッチから数人が現れ、ピットクルーばりの速さで機体を回収していった。
「大丈夫、皆仲間の方です。少し失礼します」
ナクは近くの仲間に一言二言会話した後、道夫達を地下へと案内する。
暗く細い道を抜け、頑丈な扉を開いた先の光景に息を呑んだ。
「地下に教会だなんて……初めて見ましたわ」
「地下なのに光差してるじゃん……」
メインとなる聖堂には、如何にもな巨大ステンドグラス。そこから差す光は日光の様に暖かい。
「あぁココ、丁度良かったぁ……。長老がだな……」
「やっぱり……。少し話が有りますので、皆さんはどうぞ休んでて下さいね」
「あ、じゃあお部屋案内する!こっちこっち!ツゼはいつもんとこ空けとくから!」
「感謝する。では」
津是と共にナクは聖堂を後にした。案内役を買って出た少年に付いて行くと、中々の広さな部屋に到着する。
暖かみを感じる照明と柔らかいソファーもあり、何より目を惹いたのはやけに大きなベットだ。枕が一つしかないのは用意をし忘れたのだろうか。
「何で枕一つだけ…?」
「え?二人共付き合ってるんじゃないの?恋人同士は枕一つで良いって……」
「は?いや…「良く分かったね。その通りだ」」
(はぁ!?)
クラウ渾身の悪ノリ、そして瞬く間に二人の話は盛り上がっていく。
完全に止める機会を失った道夫に、少年が耳打ちしてきた。
「大丈夫、僕は反性の事とか全然気にしてないから……」
「いやだからそういう訳じゃ……」
「照れ隠しめ〜。何か照れてる〜?」
「違うっつの!!」
道夫の一喝にキャッキャと笑いながら、ラクリオ達の手を引いて他の部屋へと向かっていった。
「あんのマセガキ……そして、クラウ」
「……ごめんなさい。付き合ってるって言われてつい……」
「……取り敢えず、枕はクラウが使っていいから」
ソファーに寄り掛かり、深い息と共に身体を沈めていく。座り出してやっと自分の身体は疲労し切っていた事を思い出した。
「「いや付き合ってないから(ですわ)!!」」
「ははは……またやってら」
気付けば目蓋も重い。現れた睡魔をそのまま迎え入れる道夫。
装備を外し隣に座るクラウも、緊張の糸が切れた様に身を預けて眠り出していた。
(そう言えば、子どもの笑顔を見たの何時以来だったかな……)
目を閉じ眠る僅かな合間、道夫は遠い故郷の記憶を思い出していた。
色に満ちた当たり前の世界、他愛の無い思い出一つ一つが今となっては輝かしい。
眠りに落ちる彼の頬を、一筋の涙が伝って行った。
〜数時間後〜
「皆さんに改めてご紹介します。あの方こそ翁のオランド様で、私達『反聖組織』の創設者。つまりはレジスタンスです」
「…つーん」
身体を休めていた道夫達が連れてこられたのは聖堂の更に奥、青空が天から見える作戦室だった。
そして目の前で思い切りいじけているご老体こそ、レジスタンスのリーダーだと彼女は言う。
「いやあの爺さん……めっっちゃ拗ねてますけど……」
「言うなラクリオ。失礼だから」
「ほ、ほらおじさま。学院の方もいらしてますから」
「……どうせ私なんて、挨拶すら無視されちゃうジジイだから」
明るい部屋なのに重い空気が充満する。何があったかは知らないが、これでは話が進まない。
それを察したのか、ナクがこほんと咳払いして端末を操作する。
「えぇっと……これがラクリオさんが用意した偵察の映像です」
映し出されたのは、あのグールと戦った噴水広場。派手に暴れてボロボロだった筈の光景は、まるで最初から何も無かったかの様だ。
「おかしい、痕跡の一つも残っていないとは…」
「それだけではありません。此方を……」
次の映像では、鎖によって完全に身動きを封じられたグールの姿。
それを取り囲む兵士の姿と、正面に立つ首輪を付けられた女性と繋げられた紐を握る一人の男の姿があった。
「もしや、あれが大主教サザーか」
「えぇ……そして隣に居るのが、クタラ師匠です」
辛さを噛み潰す様な表情で映像を見る彼女。映像では、サザーがグールの心臓部に手を触れ何かを呟いた。
その瞬間、グールの身体が彼の手に吸い取られていく。血液や体液どころでは無く、その肉の一片すら残らず喰い尽くされて行った。
喰らったその手を見つめていたと思ったら、その目線が映像と合わさる。
『……見ているな?もう一人のココノエ』
「っ!?」
「……映像はここで終わっています」
場の空気が一層沈鬱な物になるのを感じた。クラウ達三人で倒しきれなかった怪物をたった一人で抑え喰らって行った。
誰もが一度「勝ち目が有るのか」と考えたその時であった。
「有る」
「……おじ様?」
「勝ち目なら、有る。人事を尽くし、運と天に見放されてなければな……」
拗ねていじけていた筈の老人の眼は、弱くも燃え続ける怨讐の炎に揺らいでいた。
〜次回予告〜
「どうか聞いて行ってくれぬか。この老体に宿る炎の話を……」
「ミチオ……『るあ』とは誰の事なんだ?」
「なぁリリテ……街が朝になったらさ……一緒に来てくれないか?」
次回、第58話〜作戦会議//失った者
「復讐など、本来抱くべきでは無いのかもしれぬ……」




