第54話〜永い夜//逃走戦〜
引き金を引かれる前に、すぐ様道夫は警棒の壁を召喚する。民家の屋根に届く程の壁は、放たれた銃弾など容易く弾き返す。
「行け!走れ!」
壁を維持させ全員後ろへ走り出す。また新しい兵士が立ちはだかるも、瞬きする間にその体から鮮血が飛び散った。
姿を見るや否や一瞬で駆け出したクラウの、時間差さえ生み出す程の居合い抜きであった。
その顔には、いつの間にか禍々しい仮面が付けられていた。
「皆さん此方へ!」
ナクの声で路地裏へと隠れる。その後すぐに兵士がやって来たが、隠れる所は見られていない様でその場を通り過ぎていった。
「やり過ごしたか…あいつらは一体なんなんだ?後クラウその仮面はどうした?」
「…ただの直感でしか無いが、顔を見られると不味い気がした」
「クラウさんの仮面もですが、夜になった途端街が一層不気味に見えますわ…」
改めて見渡せば外は既に夜中、街灯と街中で緑に光る物質以外はそれに浮かぶ巨大な紅の月だけが闇を照らしていた。
「ナク達は奴らの事を何か知っているのか?」
「いいえ、あれも含めてこんな現象も初めてです…予想は付いていますが」
彼女はその問いに首を横に振る。此方の情報も殆ど無い以上、今は対策の仕様も無い。
どうするかと考えた時、空から何か巨大な何かが飛んで来る音が聞こえた。
「空からも来るのか何でもありかよ!?むぐぅ!」
(な、なんだありゃ!?飛行機!?)
漆黒の機体を魔力の噴出と搭載されたサーチライトが照らす。ハッチが開き、また数人の兵士がロープも無しに着地した。
「どうするココ、バレるのも時間の問題だ」
「分かってる…だけど…」
「こうなれば『オキナ』に助力を請う他ない」
「うぅ、翁さんにこれ以上迷惑は…」
二人が何か話す間にも、陣形を組みつつ兵士が近づいて来る。道夫とクラウは兎も角、ラクリオとリリテが怖がっているのを見るに余り時間は残っていない。
焦れる気持ちが渦巻く中、ナクは頷いた後此方へ向き直る。
「ここから逃げて、別の隠れ家で朝を待ちます。朝まで戦って耐えるのは不可能ですので…。その場所を端末に送っておきます」
『今から指定する座標まで退避。情報送ります』
送られたポイントは、街の南東付近。現在地が西地点であり、それとはほぼ反対に位置していた。
時間は未だ午後の4時半程度。朝日が何時差し込むかは不明だが、戦いを繰り返していれば此方の体力が保たない。
「なら作戦は決まりだ。俺とクラウで敵を引き付ける、ナク達はラクリオ達を目的地まで…」
「いえ、私も引き付けに入ります。二人の援護には津是が」
「…分かった。決して離れるな」
覚悟を決めたのか、二人は頷く。路地裏を抜け表通りへ出る。住宅が密集しそれなりの高さの為、半ば迷路の様だ。
進め始めて間も無いというのに、輸送機のライトが道夫達を照らした。
「うわぁ早速きたぁ!?リリテなんとかしてぇ!!」
「分かって…ますわよ!!」
掌に隠し持っていた杖を展開、杖先の光から『火龍咆』の陣が瞬時に描かれ言葉も無しに放たれる。
明らかな過剰火力に、輸送機は跡形もなく消し飛んだ。
「鉄の塊であれど、流石にあれ位の威力には耐えきれない様ですわねおほほ」
「あーもうバカほんと馬鹿!」
「バカとは失礼ですにゃあ!?」
当然辺りの兵士が駆け付け、ラクリオは勢いのままお姫様抱っこでリリテを全速力で連れ出していった。
二人の騒ぎ声が遠くに消えていき、図らずとも陽動作戦が始まってしまった事に道夫は深く息を整える。
「クラウ、ナクも行けるな?」
「…任せろ」「えぇ」
「…よし、信じたからな!行くぞ!」
三手に別れて走り出し、それぞれを追っていく兵士。西地区の街は、瞬く間に戦場へと姿を変えていった。
〜〜
「これで最後…」
「す、すげぇ」
津是と呼ばれた男は持っていた長剣の血を払い、鞘に納めた。既に数回襲われているが、殆どは彼が倒している。
見た事ない剣術、装甲ごと切り裂いたその切れ味。剣は全くの素人な二人でも、只者では無い事を理解させるには充分であった。
「なぁなぁ二人共、さっき言えなかったから言うけどどうして誰も起きないんだ?」
「そ、そうですわ。人影どころか灯りすら付きませんのよ?」
「…まぁ、こいつらには不都合極まるのだろう」
津是は切り倒した死体のヘルメットを外す。その顔は苦しみとも怒りとも取れない苦悶の表情を残していた。
その死体の心臓部分へ、津是は持っていた短刀を突き立てた。その瞬間、ただの死体では起こり得ない現象が二人を驚愕させる。
「ア、グァァアアァあぁぁぁぁ…!!」
刺された箇所から泡立つ様に肉が膨れ上がり、泥の様に溶けて消えていった。
津是の短刀には、ナクが言っていた『銀』が混じっていたのである。
「ま、間違いない!こいつら全員…」
「そ…それじゃあミチオさん達…」
「行くぞ。早く着けばそれだけ彼等も楽になる」
「あぁ…分かった」
逃げる事でしか、今戦っている皆の力になれない事が二人には只々悔しかった。
短刀を納め走り出した津是の背中を、そのままついて行くしか無かった。
〜次回予告〜
「今度はデカブツか。街中なのに容赦無いな…」
「やはり、銀入の物でなければ…」
「オニガシマで行く。少し時間を稼いでくれ!」
「如何にも、私がオランド・ホーン。勝手にオキナなどと呼ばれているが…この街の秘密を最初に知り、復讐を抱いたしがない老人よ」
次回、第55話〜喰らう鬼//揺らめく怨讐〜
いつだって、鬼を討つのは人である。




