第53話〜祈りの言葉//落日の闇〜
「敵の手にって…それってどう言う事だよ!」
「言葉の通り、この国…正確には中核となる大教会が乗っ取られました」
「…その首謀者は?」
身を乗り出すラクリオに、ナクは淡々と告げていく。中核が乗っ取られたとなれば、最早地霊点の調査どころではない。
クラウの問いに、ナクは静かに口を開いた。
「その元凶こそ、今の大主教。奴は『吸血鬼』です」
「…キュウケツキってなんだ?」
「貴方は静かになさって」
吸血鬼、この世界的には『血鬼』という名で知られている。
夜の闇に生き、人間の血を糧とし血を操る。姿形を変え、数多の手下を使役する。
その辺りに関してはチキュウで聞く物と大差ない。しかし、大差ないからこそ今の状況は道夫にとって不可解であった。
「吸血鬼と言えば銀とか十字架とかに弱かった筈だ。それが教会を占領出来たというのは…」
「師匠も同じ事を仰っていました。ですが、この世界には奴らにとっての『銀』がありません。ジュウジカという物も同様です。しかし…」
ナクは壁に掛けていた一つの弓を取り出す。ニホンの弓道で見る様な形状をしており、矢筒にあった一本の矢を取り出した。
「クタラ師匠は、此処に来た際に身につけていた装飾品を使い『銀入の矢』を用意して下さりました。ですがその威力に危機を覚えた彼らにより大教会へと囚われの身に…」
「つまり、彼女の救出もする必要がある。そうだろ?」
「…はい。私達だけでは力及ばず、皆様には無礼を承知でお願いします。どうかクタラ師匠を救う為お力を……」
頭を下げてまで懇願する彼女を前に、首を横に振る者は居なかった。道夫は皆を見遣った後、ナクの方へ向き直る。
「勿論、力になる。だから顔を上げて欲しい。それにこれからどうするかも話し合わなきゃだろ?」
「…ありがとうございます。ですが今日の所は長旅の事もありますから、部屋で休息をなさって下さい」
「やった〜!休める〜!」
「余りはしゃがない!はしたないですわよ!」
二人ともウキウキで部屋の方へ向かっていく。道夫もそれなりに疲労が溜まっていた為大変有り難い話だった。
「あ…言い忘れてた。お部屋なんですが、頑張っても三部屋だけで…」
その言葉を聞いて、ラクリオの末路を何となく察した道夫なのであった。頑張れ、お前なら何とかなるだろうさ。
〜〜
『たすけて、めっちゃ空気重い。話すネタ無い相手がすぐ話終えちゃうたすけて』
案の定、津是という男と同部屋にされてしまったラクリオの嘆きがユィンスから伝わってきた。リリテはナクと、そして道夫はクラウと同じ部屋で休息を取っていた。
「いやぁさっぱりした。やっぱり風呂は良い……な」
部屋に戻ると、クラウが洋服を着替えていた。黒く長い髪を下ろし露わになった背中は、何だか妙に艶かしい。
「…あまり見ないでくれるか」
「あ、あぁ…悪い」
言われた通り背を向けて、ベットに座り本を開いて気を紛らわす。着替える布擦れの音、揺れる髪の音一つでさえ不思議な感覚だった。
「ふふ、ミチオは真面目だな。冗談のつもりだったが…」
クラウが隣に座ってくる。所々にフリルがあしらわれたドレスっぽいスーツを着た彼は、女性的でありながらどこか男性的でもある不思議な感じだった。
「同じ匂いがする。おそろいみたいだ」
手を繋ぎ、すぐ側まで顔を寄せるクラウ。本を閉じて向き直れば、頬を紅く染めている彼がよく見えた。
「ど、どうだろう?似合って…いるか?」
「……あぁ、似合っているよ」
「そ、そうか。似合って…いるか?か、可愛い…か?」
「いや…可愛いというより『綺麗』だと思うぞ」
「きれい…そうか、綺麗か…」
乙女と言わんばかりに照れる彼を見て、道夫はこのままでは良くないと感じていた。
しかし、性別に関わる問題はデリケートだ。決闘の件もあったから下手な言葉で傷付ける訳にも行かない。
「それで…ミチオに頼みたい事があるんだ」
クラウは虚空から一振りの刀を取り出した。見覚えのあるその形は、あの決闘の日に見せた物と同じであった。
「これは…」
「私の師が託してくれた、零番目の刃。あの日から消えない迷いを抱えた今、私にこれを握る資格はない…。だから、ミチオが預かっていて欲しい。いつか迷いを断ち切れるその日まで…」
「分かった。大切に預からせて貰うよ」
刀をしっかりと握って受け取る。それと同時にクラウが思い切り抱きついてきた。
「全く、そこは少しでも迷ったりする所だろう…まったく」
「そうなのか?別にお前のためな…ら…」
「どうしたミチオ?」
外は既に夜になろうとしていた。それはまだ良い、問題はまだ午後の4時程度だという事だ
冬の時期ならそれでもおかしくは無いが、イミュリーズは今そんな時期では無い。
「おかしい…日が沈むのが早い。これって…」
刀を背負い部屋を出る道夫。既に全員が同じ光景を見たらしく、下のリビングに集まっていた。
「ナク、これは一体…」
「いえ、こんな現象今まで…」
彼女自身知らない現象に狼狽る中、津是が何かの気配を察知する。
「ココ、何かが此方に来ている」
「分かった。皆さんこっちに」
床に隠されていた裏口を開き、クラウから順に入り込んでいく。
その間にも数多くの足音が此処へ向かってきているのが聞こえた。既にかなり接近され、ドアの向こうから気配を感じる程だ。
「おいおい、これまずい奴だよな!?」
「いいから入れ!殿は俺が…!」
言葉と同時に、ドアが爆破で吹き飛び何者かが侵入する。すぐ様展開した警棒の壁により襲い掛かってきた銃弾を防ぐ。
道夫もそのまま梯子を滑り裏口を降りていった。そのまま道なりに進み外へと出た瞬間、先程まで居た隠れ家からは盛大な爆発音が響いていた。
「一体何を仕掛ける気…!聖主サザー!」
二丁のボウガンを構えるナク。各々得物を構える中、物陰か数人の兵士が現れる。
軍の特殊部隊の様な統率の取れた動き、鎧とは違う兵装に身を包んだ彼らはサブマシンガンの照準は此方へ向けた。
「くっ…!こんな奴ら街に居なかった筈だぞ!」
「…まさか、こいつらも……」
「来るぞ!!」
サブマシンガンが火を噴き、宵闇を紅い月が照らす。永い夜は、始まったばかりだ。
〜次回予告〜
「間違いない!こいつら全員…」
「うわぁ早速きたぁ!?リリテなんとかしてぇ!!」
『今から指定する座標まで退避。情報送ります』
「空からも来るのか何でもありかよ!?」
「クラウ、ナクも行けるな?」
「…任せろ」「えぇ」
「…よし、信じたからな!行くぞ!」
次回、第54話〜永い夜//逃走戦〜
不死身溢れる鉄火の渦中、信ずる者に活路は有るか。




