第50話〜滅びの引き金//戦士の証〜
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魔族の王、満ちたりし時魂世より今世に降臨す。
魂世と今世を繋げる扉は、常に人間が抱く闇の感情と、隔たりを裂く為の人智を超えた強き力によって開かれた。
魔王はそれを『破滅の引き金』と称し、人類最大の脅威として立ちはだかる。
しかしその侵略は、光の英雄と呼ばれた1人の少女によって打ち砕かれたとされる。
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闇、一点も光の無い闇が目前に広がっている。音も、自分の身体の感覚さえ分からない。ただ意識だけがここにあった。
(こ、これは…)
声すらも口から出て来ない。目を閉じたらそのまま闇に溶けてしまいそうだ。
その時、首元にるあのマフラーが現れて強く輝いた。果てへ果てへと伸びるその光は、闇に亀裂を走らせ砕かせる。
全ての闇が消え去り、道夫は元いた場所へと降り立った。
「ぐぅ…!?あれは、なんだ…!」
心に重しを載せられた様な圧迫感が襲ってくる。その正体は、クラウの前に立っている漆黒の影から溢れ出る闇であった。
あんな物、まともに見ては行けない。左腕で影を隠しながら前を見ると、両膝を突いたクラウが見えた。
「く、クラウ…!」
声を掛けるが反応も無く、茫然自失と俯いたままだ。助けに行こうとしても体が動かない。隠しているのにも関わらず見られているという感覚が全身に伝わる。
『そうか…オまえがアイツらに連れてこられた英雄の忘れ物か』
道夫に巻かれたマフラーの光が危険を知らせる様に更に強まった。何であれ、あの怪物とはこの力込みで戦っても確実に負ける。何とかクラウだけでも助けて逃げるしかない。
その時、再び空間に亀裂が走り揺らぎ出した。
『もう来たか。この姿では足止めもままならぬか…』
影の目線が亀裂の方へ逸れたのか、体に力が戻り出した。靴裏に即座に警棒を展開し、最大パワーの『伸加速』で飛び出した
亀裂から感じる大魔法の気配を背に、影を一瞬で横切っていく。影は此方には目もくれず、亀裂から放たれた光の束に向けて軽く腕を振ろうとする。
根拠はさっぱりだが、あの攻撃は魔法だけでなくこっちにも襲ってくる。クラウを抱えて離れる暇は無い。やれる事は、一つだけであった。
(許してくれ!るあ!)
「クラウ!危ない!」
「ミ、ミチ…オ…」
道夫が咄嗟に取った行動は、抱きしめる様にクラウを庇う事だった。背後に展開した警棒は壁にすらならず、その後襲った衝撃と肉の裂ける感覚が消えゆく意識の中で残っていた。
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クラウが意識を取り戻したのは、道夫に庇われた後であった。その後すぐ足元の陣が光り、彼にとって一番馴染み深い場所である道場へと転移したのだ。
「ミチオ…?」
彼の声に道夫は少しだけ微笑んで、そのまま横へ倒れてしまう。様子が明らかにおかしいと、クラウは彼の肩へ触れる。
手が濡れる様な感覚、左手には夥しい量の血が付いていた。
「ミチオ!?ミチオ!……だ、誰か!」
顔を青くして、クラウは戸を開け人を呼びに走り出していった。
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「くっ…間に合わなかった!」
『…流石は亀裂の魔法士。だがお前は相変わらず一手遅いな、だから救いきれない。あの時の様にな』
レイルスの周りは、あらゆる物が止まっていた。発動させた魔法が辺りの空間を上書きしたのである。
「…久しぶり、大きくなりましたね。ですが、私の生徒に手を出すな」
『それはすまない。彼女の忘れ物以外、目に無かった物でな。後、お前はダメさが増したな?あの趣味は相変わらずか?』
「クラウに入っていたのは、何時からですか」
『なぁに、ついさっきさ。偶々近かったからちょっと唆してやっただけだ。いやはや面白い位に乗ってくれたぞ?この世の引き金も見事だった。人間らしい素晴らしき安っぽさだ』
中々楽しめた。と影は肩を震わせ笑いを堪えていた。レイルスは心に沸き立つ怒りの任せ光の刃を放つ。
『おっと、今日は軽いアイサツに来ただけだ。こんな所で戦う気は無いぞ?遠くない内に婚儀を控えてる身なんでな』
刃はそのまま通り過ぎ、影もその形を失っていく。それでもお構い無しにレイルスは魔法を撃ち続けた。
『そう怒るな。短気はお得じゃないと彼女に言われなかったか?』
「黙れッ!」
影のいる周囲を空間ごと破壊する。流石に気配も消え、時間は再び動き出した。
静寂に包まれた会場に、レイルスはたった1人立ち尽くしていた。
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『…道夫』
「お、お前は…!」
真っ白な世界で彼を呼んだのは、見間違う筈もない『井ノ上るあ』であった。
夜の様な黒い髪、引き込まれそうになる綺麗な瞳。だがあの時と異なり、髪は所々白く瞳には力が無い。
『お願い、かならず……』
「るあ…!待ってくれ!まだ…!」
悲しげに遠ざかって行く彼女、追おうとした体は全く前に進まない。伸ばした手は、また届かない。
何度も名前を呼んだが、彼女は振り返ってくれなかった。
「待ってくれ!!」
「ひゃぁおう!?」
目を覚まし起き上がった時には、何だか見慣れた医務室の光景であった。
そして今変な声と共に床に倒れたのは、クラウだった。心なしか目は赤く、髪は艶を失っている様にも見えた。
目が覚めるまで、ずっと側に居てくれてた様だ。
「ミ、ミチオ…すまない。いや、ごめんなさい…。俺が弱かったばかりに、背中に傷を……うぅ」
剣聖と呼ばれた少年がボロボロと涙を零していた。こんな表情誰も見た事など無いだろう。
でもそんな事よりも言いたい事が有った道夫は、ただ微笑んで泣いてる彼を優しく抱きしめる。
「傷の事は気にしなくて良い……誰かを守って付いた傷なら、それはきっと立派な戦士の証だ…と思う。」
目覚めたばかりで寝ぼけてるのか、言った事もないセリフがどんどん出てきた。そしてそのままゆっくりと頭を撫でて道夫は言った。
「無事で良かった」
その後暫く流れた剣聖の涙を、道夫はそのまま受け止めた。
〜次回予告〜
「ミチオ…話さなきゃならない事がある。俺の秘密とその師匠『トキムネゲンイチ』の事を…」
「君達には、実地任務として三班に分かれて三つの『地霊点』を探って頂きます」
「またミチオさんとご一緒なんて嬉しいですわ〜」
「俺達の目的地は…アブダルアの『イビシュエル』…?」
「別名『教会の国』。国丸ごと『血聖教』の宗教国家だ」
次回、第51話〜剣の秘密//地霊点作戦〜
新たな道は、遥か北へ……。




