第49話〜パンドラの箱//零番目の刃〜
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『師匠、ニホンとは本当に強い剣士が集っているのですか?』
『あぁそうとも、正に強者キワモノ、武士だらけであったよ。マンガでしか見た事ないけど…』
『…?今なんと?』
『い、いやぁ気にするでない。さぁ今日の鍛錬を始めようかの。ソウジ……』
『だから、クラウですって。ソージって誰ですか…』
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(師匠、貴方の言っていた通りです。彼は…ヒイラギミチオは…)
クラウは彼の存在を、ニホン人である道夫の強さを認めざるを得なかった。
十三舞刃を耐えぬき、遂に陽炎剣まで抜かせてみせた。この剣ならば真似られる事も無いと、焦りに駆られ飛び込んだ。
「…今だッ!」
陽炎剣『暦』は、空間の歪みが虚実交わる刃を生む幻惑の剣だ。
十二もの「月」が敵と打ち合う度に光を帯び、その数だけ無の斬撃を有へと変化させる。
だが道夫が目を瞑っていた僅かな間、そして目を開いた時には、陽炎による一振り六連撃の同時攻撃をただの鉄棒が防ぎ切ったのである。
「まだ!」
手を止めず、死角からの攻撃も含めた連撃をも彼は防いでいく。足がもう動かせないのか殆ど動かず防御し続けた事で瞬く間に剣の月は満ちていった。
「はぁ…はぁ」
クラウは二つの剣を合体、大太刀の様になった剣を下に構える。
月が満ち、二つが合わさる事で使用できる奥義『満月』ならば彼を倒せると踏んだのである。
(大技…来るか)
道夫もその意図を読み、持っていた警棒を組み合わせていく。即座に出来上がったその姿は、およそ警棒と呼べる代物では無い『鬼の金棒』と呼ぶにふさわしい異様であった。
お互いから伝わる大技の気配に、会場の誰もが息を呑む。何の示し合わせも無く、大技比べは唐突に始まった。
「奥義『満月』ィ!!」
「『オニガシマ・グラインダー』!!」
警棒のグリップエンドに差し込んだ『スロットル』を回す事でシャフトを囲う警棒が竜巻の様に回転し殺意を増す。彼が夢の中で編み出した一回限りの大技である。
逆袈裟に斬り上げた剣閃が、空間でさえ断ち切り道夫を襲う。そしてそれに合わせる様にオニガシマを振り下ろした。
2人の現状出せる最大火力の衝突は、大爆発の如き衝撃とガラスが砕ける様な音が会場を滅茶苦茶に掻き乱した。
「な、なんだ今の…」「みんな大丈夫〜?」「というかあの2人どうなった!?」
事の成り行きを皆が見守る中、2人は無傷で息も絶え絶えに立ち尽くしていた。
互いに持っていた武器は光を失いそれぞれの手を離れ、身体はとっくに限界を迎えていた。
膝を突き息を荒げるクラウに、ドス黒い闇が語りかける。その声はあろう事か、自分の至高の一振り『零番目の刀』から聞こえてきたのだ。
『疲レているな。お前の剣はソんなものでは無かっただろウ?』
(な…この声は!?)
『さぁどうすル?あの男はあの一撃をトめてしまったぞ?』
突然目の前に這い出てきた闇を見て、クラウはすぐ様目を閉じる。どうやら周りには見えてないらしいが、アレと話をしてはいけない。
全身が産毛立つような感覚、直感どころか自分の全てが危険信号を発していた。
『ハはは、お前の身体面白いナ。影がこんな形になるとは、ほら見てみろ』
両手で顔を抑えられ、無理矢理開けさせられた目の前には女性になった自分の姿が映っていた。それは今まで隠してきた、師匠だけが知る自分の秘密その物である。
『世界一の剣士になれ』
「ッ!?その、言葉は…」
『お前の師匠、源一が残した言葉。あの血は絶えたと聞いたが、まさか弟子を取っていたとは。まぁそんな事より前を見てみたらどうだ?』
闇が横に動き前を見ると、膝を突いていた筈の道夫が既に
立ち上がっていた。余力など残っていないだろうが、得物をその手に握り構えようとしている。
『どうした?世界一の剣士が、あんな素人に遅れを取っているではないか。剣聖など、所詮は周りが弱かったが故の驕りだったのか?』
「違う!そんな事は…違う」
『何が違う?言ってみろ。言えないのなら力で示せ。その力は既に持っているのだから』
左手で握られていた零番目の鞘、それを前に掲げ右手で柄を握り鍔に指を掛ける。ただそれだけなのにクラウの心臓は早鐘を鳴らしていく。
耳を貸すなという警告と、闇が発した師の言葉が重なり合う。身体が震える、恐怖という躊躇いが動きを止めていた。
『震えて剣を抜けないか?ならそれを止めてやろう…。怖がる事はない、君は亡き師の想いに報いればそれでいいのだから』
震える手に闇が添えられ、気味悪い程の温もりが震えをピタリと止めてしまう。優しさを帯びた闇の声が耳元で囁く。
『大丈夫、これを使えば君は勝てる。師の言葉通り君は世界一の剣士でいられる』
「…世界一の、剣士に」
もう恐怖は無い。クラウは力を込め、遂に刀の封印を解く。
最高の剣士であり続ける為に。
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「クラウ!!止めろ!それを抜いちゃダメだぁ!!」
眼前に広がる真っ黒な闇は、依然としてクラウの周りを漂っている。そして何より、あの刀が現れた瞬間感じたドス黒い力の波動だ。
あれだけは絶対に解き放ってはいけない。あれはもう、希望の無いパンドラの箱だ。
闇によって無理矢理立たされた道夫は特注の弾丸『ミス天城』を発射する。会場を飲み込む程の水流と水の竜巻がクラウに向かう。
道夫の叫びはもう彼には聞こえなかった。
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「遅かった…!ここまで彼が成長していたなんて…」
レイルス及び他の教師陣が会場に集まり、陣壁を形成する。戻ってきたムルチアを含めた特等達も生徒の避難誘導に駆け付ける。
「学長!やはりこれは…!」
「…えぇ。生憎ですが、覚悟を決めなければなりません。魔王が遂に目覚めた事を」
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抜刀と共に解き放たれた膨大な闇は、水流ごと文字通り全てを飲み込んで行った。
〜次回予告〜
「クラウ!危ない!!」
『今世の引き金も見事であった。人間らしい安っぽさだったぞ』
「久しぶり、随分と大きくなりましたね。ですが…私の生徒に手を出すな」
「ミチオ!?ミチオ!……だ、誰か!」
『…道夫』
「お、お前は…!」
次回、第50話〜滅びの引き金//戦士の証〜
滅びの始まりは、新しい道を開く。
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