第48話〜抜剣//十三の刃〜
〜魔法戦決闘会場〜
日が昇り、朝日が学院を照らす頃。そんな時間であるにも関わらず大盛況な会場へと辿り着いた道夫は、ついに正座をして待っていたクラウとの相対する。
そしてクラウも目を開き、待ちかねていた様に立ち上がる。
「少し、待たせたかな?」
「…」
道夫の問いに彼は答えようとせず、ただただ無言で敵意剥き出しの視線を送る。初めてあった時に見せてくれた表情はもうどこにも残っていない。
クラウの言っていた『ニホン人』の話を聞きたくて始めた事が、彼にあれ程の感情を抱かせてしまった。
自分が恨まれる事よりも、そこまで恨ませてしまった事の方が道夫にとっては辛かった。
「それじゃあ…相手になってやる」
戦闘開始間近となり、クラウは居合をする様に構えを取る。記録で何度も見た物と同じだが、持っていた剣だけが今までの記録にすら無かった。
『さぁ!いよいよ始まりますよぉ!剣聖クラウの不敗伝説が、まさかの新星に破られるのかぁ!いざ!決闘開始ィ!!』
開始の銃声が鳴り響き、クラウは鞘から剣を抜く。道夫も呼び出した警棒を握りしめるが此方から攻める事はしない。
彼の手の内が不明な事もあるが、今の道夫にはどうしても『後手』に回る必要があったのである。
「抜剣『十三舞刃』」
(来るか!)
クラウが何かを唱えた瞬間、左右に6本ずつの形が異なる剣が現れた。魔力によって作られた十二本の剣達はそのまま道夫に向けて襲い掛かる。
夢で得た『予習』には無かった事だが、道夫が前日に見た夢の中で見出したのはそれだけでは無い。
メニライの時とは比べ物にならない試行回数の果てに、彼はまた新しい力を今こそと発動させる。
「戦術『猿真似』!」
襲い掛かってくる十二本の剣、それぞれの軌道を呼び出した警棒が完全に模倣しぶつかり合う。
道夫に一太刀浴びせようと何本か警棒が砕け散るも、瞬時に補充されては防がれていく。
「猿真似など!」
クラウはその場から走り出し、そこから勢い良く持っていた剣を道夫に向けて投げ付けた。
投げて来るとも思わなかったが、見え見えの投擲を道夫は警棒を右に振って弾き返した。
(剣を投げて……ッ!?)
投げられた剣に気を取られたか、前を見た時には既にクラウの姿は無い。
そして、道夫の耳には先程弾いた剣が地面に落ちる音がしなかった事を教えてくれた。
間に合う事を願いながら、左手に持った警棒を背中に回す。直後に襲われた衝撃によろめきそうになったが、寸手の所で背後への斬撃を抑えられた。
『と、止めたぁ!誰も見た事ない剣からの攻撃を、相手の姿も見ずにミチオが止めましたぁ!!これはもしかするともしかしちゃうのかぁ!?』
「何…」
流石のクラウも動揺を隠せなかったのか、ほんの僅かに動きを止めてしまう。
その隙を見逃さず、道夫は右手の警棒を銃に組み替えクラウに向け引き金を引く。
「チッ!」
さも当然の様に頭を下げて回避され、その後の連射も剣で弾きながらクラウは空中へ身を翻した。
二丁目の銃を左手に持ち追撃するも、自動追尾弾にしていない以上素人の道夫に当てられる筈も無い。
それ以前に弾丸の幾つかは剣で防がれたが、それが刃に引っ付いたままである事をクラウは知らなかった。
(…!これは!?)
「発芽開始!」
彼の剣から、木が芽吹く様に形成される警棒を見たクラウは即座に剣を投げ捨てた。
手元に寄せたもう一振りを握り、一瞬の内に加速して斬り掛かる。
「はぁぁ!!」
「ぬぁあ!」
加速からの攻撃は何度も夢で見てきた道夫は、一瞬にも関わらず彼の斬撃に合わせて警棒を振るう。
風圧が生まれる程の衝撃が会場に迸り互いに鍔迫り合いの状態となる。
力と体格では僅かに道夫の方が上回っており、不利と判断したクラウは再び他の剣に向けてワープし別の方角から攻め立てた。
「くッ!」
幾つもの警棒で抑え込んでいる筈だが、それでも四方八方からの攻撃に道夫も攻めの機会を失ってしまう。
それでも攻撃を防ぎ切れているのは、コート内へ事前に仕込んでおいた『強化魔法』のお陰である。
幾ら夢で試行して来たとて、道夫の身体能力は何も変わらない。
その上体を鍛える時間も無かった彼は、数々の強化魔法を発動させて置く事でそれを補った。
(こ…これ以上はヤバイか。だがまだ…!)
筋力や視力、集中力等その他諸々の感覚を一片に強化した事で彼の身体、主に脳がかなりの負担を背負わされていた。
早々に限界の危機に道夫が苛まれる中、クラウも同様に焦りに思考を囚われ始めていた。
(これで何度目だ、あいつに防がれたのは。一太刀浴びせる事すら遠い…!)
焦りによって気を急いたその一撃は、先んじて捉えていた道夫によって弾き返された。完全に体勢を崩され、クラウはその場で無防備を晒してしまう。
「しまっ…!」
焦りに気付いた時には既に、道夫の手が一つの陣と共に自らの腹部に翳されていた。
「第一陣『波動』!」
爆発の如き衝撃波が、クラウを会場の壁に直撃させる。土埃が舞い、余りの展開に会場が大盛り上がりな中、強化魔法の反動で倒れそうな体を何とか耐える。
(ま、まだ終わってない…立ち続けろ自分!)
直後、土埃が周囲の空間ごと断ち切られた。その中心に立つ彼の両手には、先程と異なる二振りの剣。
「…陽炎剣『暦』」
「おいおい……後何本あるんだ」
つい現れた軽口と共に再び強化魔法を発動させる。勝負はまだ終わっていない。
開きかけていた地獄への蓋を今の一撃がぶち壊してしまったのかも知れない。
〜強化魔法〜
たった一陣、それだけで発動可能でその上効果も強力と言う至れり尽くせりな魔法達。道夫もよく使う『明視』もその一つ。
小柄な女の子が身の丈に合わない巨大な武器をオモチャの様に振るうのも、未来予知レベルの直感をその身に齎してくれるのもそれぞれ対応した強化魔法のお陰である。
多数且つ同時の発動、長時間の使用は跳ね返りとして身体に悪影響を及ぼす為危険。




