第45話〜緊張台無し//牙剥き出し〜
「よ…よし。お部屋きれい、洋服良し、下着も……うん」
道夫との戦いから目覚めてすぐ、メニライがまず行ったのは部屋の掃除であった。今まで作ってはそこら中に置いていた兵器の数々は、今や見る影も無い。
『あの部屋で会いたい』
「…これってつまり、そういう事よね?あぁどうしよう」
着る服も新品同然、下着もとびきりの物。完全にその気になってしまっている彼女は止めてと叫ぶ理性を振り切って顔も真っ赤に想像を膨らませてしまう。
(お部屋キレイにした事褒めてくれるかしら…。に、似合ってるねとか言ってくれるかな。それで目の前まで来て好きって言われて抱き締められてから無理矢理……無理矢理!?だめだめそんなの!あぁでもそんな事されたらもう…)
「メニライ、入るぞ?おぉ部屋凄いキレイ。」
「ひゃあ!?」
悶々としていた彼女に部屋のノックは聞こえず、ついに部屋に入ってきた道夫を見て自分でも信じられない程に声が上ずってしまった。
「き、きてたのね…?扉位叩いてから来なさいよ…」
「嫌、ノックしたけども…。いろいろ心配していたが、まぁ元気そうだな」
(あ、あれ?いつもと変わらないはずなのになんで…)
更に道夫はゆっくりとメニライの側まで歩きだした。彼の姿は戦う事になる前と特に変わらない。
しかし、彼女にはそんないつもと同じ道夫の事がとても魅力的に見えてしまう。
近くのソファに腰かけると、道夫もまた隣に座った。肩が触れ合う程の距離、メニライの心臓の鼓動さえ聞かれてしまいそうだ。
「しかし、随分と見違えたなぁ。部屋もそうだけどその服もきれいで似合ってると思うぞ?」
「そ、そう?ありがと…それで、私に話があるってのは何なの?」
「あぁ。伝えようか迷っていたんだが、あの戦いの後決心がついた」
(はぁぁ~。これってやっぱり告白ってヤツよね?うわぁどうしようどうしよう…)
早く、早く彼の口から「好き」という言葉が聞きたい。思わず見つめていた彼はそれに気づいたのか目を合わせてくれた。まだかまだかと赤らむ彼女に、道夫は遂に口を開いた。
「お前になら、『俺の秘密』を伝えられると」
「ええ私もミチオが……ん?」
「え?」
その後、今までの事を語る彼の口から「君が好きだ」という台詞が出てくる事は無かった。
〜〜
「台無し」
「期待を裏切った様で申し訳ない……」
明らかに彼女が不機嫌になっている。戦いの中メニライも恋心と言っていたのは覚えているが、自分には心に決めた彼女がいる事も含めてバッチリ全部話してしまったのだ。
『いいか道夫、距離の近い女との間で他の女の話はするな。はっきり言ってそれは地雷だ』
踏んだ時点で終わりだと言わんばかりに、ニホンの友人、高崎七夏はその後のフォローについては教えてくれなかった。だがここまで言って引き下がる事はできない
「メニライ、確かに君に心を裏切ってしまった事は本当にごめん……。だけど俺は少しでも味方が欲しい。1人だけじゃ、ダメなんだ…」
メニライとて、これまで通り彼の力になりたいのは変わりない。しかしそれは彼の本来の恋人を助けるという事である。
「それじゃあ、『口づけ』して」
心に従う様にその言葉を口にして目を閉じる。たった一度、それだけで良いから彼と口づけを交わしたかった。
「……分かった」
彼の声だけが聞こえる。目を閉じていても、彼の顔が近づいてくるのが分かる。窓から吹く風の音も、まるで時間さえも静かになった様に感じる。
(大好き)
このままずっと、2人きりなら良かったのに。
〜〜
「全く、道夫ってばぁ!」
結局、彼との口付けは自分の額で終わってしまった。道夫は終始「ごめん」と言って部屋を後にし、なんて男だ女たらしめ全くと暫く怒りを露わにしていたが、心は全然痛まなかった。
(もう……)
惚れた弱みとは、厄介な物である。窓から差し込む日の光を見て、立ち上がって思い切り背伸びをする。
鏡に映る自分の顔は、微笑んでいた。
一方、心からの謝罪と共に部屋を後にした道夫。るあへの一途な気持ちを守った代わりに、酷く重い後悔が押し寄せて来た。
また彼女を傷付けてしまったのではないかと思う中、左腕の端末『ユィンス』から通知音が鳴った。
届いたのは一つのメッセージで、送り主の名はメニライであった。
『協力したげる。だからこれからも会いに来て。今度は絶対、口にしてよね』
内容を見て微笑んだ道夫。しかしその微笑みは、突如として降りかかった強烈な敵意と刃によって掻き消される。咄嗟に呼び出した警棒で剣の一撃を受け止める。
「おまえ…!」
道夫に襲い掛かったのは、学院生随一の『剣聖』特等生筆頭のクラウであった。その目は生まれつきな事も含め、あの時とは違う明らかな敵意を道夫に見せていた。
〜メニライの夢〜
異端として故郷を追われた彼女だが、それでも同族の仲間達が大好きだった。
彼女を異端たらしめたのは、遠出した時に自分だけが感じた確信とも取れるドス黒い予感。
そして魔物やその予感に立ち向かうには今の古過ぎるやり方ではダメだという考えからであった
その為に開発した『国防兵器』の数々は過去を重んじる同族達には未だ受け入れられていない。




