第44話〜掴んで見せる//本当の『両手』〜
『たっ……!立った!ミチオが立ったぁ!まだこの勝負終わってなぁい!……あぁ良かった』
「……ミチオ」
「俺のせいで、その気持ちに応えてやらなかったばかりにお前を苦しめてしまった」
今の道夫には、メニライの背に取り付く黒い影がハッキリと見えている。夢で見た通りの状態である事はすぐに分かった。
爆破と衝撃で倒れた時、道夫はほんの僅かに夢を見ていた。真っ白な光景に、涙を流す彼女と黒い影の存在。
そしてメニライの心の悲しみも、本来の心の声もそこで知った。
「だから今、お前を倒す。少しだけ待っていてくれ」
右手を顔の左に持って行き警棒を構える。倒れる前とは明らかに違う彼の空気を、メニライは感じ取っていた。
(たかが構えを取っただけ。傷付いている事には変わりないわ。さぁラシェンナ、動きなさい)
「あ……あぁ…」
黒い影に操られる様に、メニライは残っていた罠を再起動させる。彼女自身この心が異物である事に気付いたが既に手遅れだった。
再び狙いを彼に定め、四方を多数の針が襲い掛かる。しかし道夫はそこから動かずに『熱線』の陣を描いた。
警棒を通し発動した魔法は直線上に伸びる熱線の剣へと変貌した。
「せやぁ!!」
掛け声と共に振るわれた熱線は襲い掛かる針をその先の罠ごと焼き尽くした。
夢の中で彼が得たのは彼女の本心だけでは無い。既に道夫は目の前の黒い影と戦いそれを打ち破っている。
先程の『魔法を武器に付与する力』も、道夫が夢で見出しそれを現実の世界で発動させたのである。
「そこ!」
そのままの勢いで彼女に向けた熱線の剣は、広げた両手が強靭な盾となってその膨大な熱量を防ぎ切った。
あの両手まだ斬れない。そのまま展開されるミニガンの乱射を警棒の壁で遮る。
いくら今の道夫でも流石に音速で飛ぶ銃弾を自力で弾く事など出来る訳もない。その上毎秒何発出てるか分からない挽肉製造機なら尚の事だ。
「『明視』と『誘導』発動。大丈夫…夢と同じ事をするだけ」
恐らく彼女も両手で前が塞がっている筈、見えたとしても僅かな隙間だけだろう。
道夫は夢で見た通りに警棒を形取り組み合わせていく。
ほんの僅かで組み上がったのは、引き金から弾頭まで全てが警棒で作られた特製銃であった。
「目標、あの辺その辺!ファイア!!」
アバウト極まる言葉を込めて、頭上高くへ弾丸を放つ。当然弾は空の彼方へ消えて行く。
しかしこれを止められなかった時点で、道夫はこの戦いの勝利を確信する。
元より、銃という物は緻密な設計とあらゆる問題と障害を取り払う試行錯誤の果てに生まれた代物だ。
そうでなければすぐに不調を来し使用者の方へ危険が及ぶだろう。
拳銃でもそれならば、ミニガンなんて大層な物に異物が仕込まれたのなら果たしてどうなるだろうか。
『誘導』を掛けられた弾頭は、空高くから目標地点へ真っ直ぐに落下する。
一点のズレも無く、道夫の『自動追尾弾』はミニガンの機関部へと突き刺さる。予想外の前方からの衝撃に射撃の手が止まった。
「う…!あぁ…!」
メニライは苦しそうな顔を見せ、隠す気などないかのように影は更に濃さを増し、今にも彼女を覆わんとしていた。
彼女の意志など関係無く再び砲身が回転を始めるが、ここまで来たらもう止まることなどできない。
「『発芽』開始!」
道夫の言葉と共に、砲身の回転が不調の音と共に止まる。ミシミシと音を立て芽吹いた警棒の樹は彼女の凶悪挽肉マシンを完全に停止させた。
(なんで、なんでなんでなんでよ!)
即座にミニガン部分を切り離し、指から鋭い刃の爪を展開し道夫に高速で襲い掛かる。
攻撃の軌道も読み切っていた道夫は難なく回避し、桜色に光る警棒を構える。
「一つ!」
振り上げた一撃は、鋼の腕を繋いでいた機械の触手を完全に断ち切った。
繋がりを絶たれた右腕は事切れるように地に倒れ動きを止める。
ただの鉄の棒だった筈の物が、天使の体で作られた武器を斬った事に会場の誰もがどよめくいたが今はそんな事はどうでもいい。
「なんで……こんな」
「…二つ目!」
半ば自棄で向かってきた右手も、彼によって容易く触手を断ち切られた。もはや丸腰となったメニライに、道夫は最後の一振りに力を込め歩み寄った。
「これで、三つ目だ」
「あっ……」
やさしさと共に振り下ろした光は、彼女に渦巻いていた影を完全に消滅させた。急な脱力感に襲われ倒れそうになる彼女を、道夫は両手でしっかりと抱きとめた。
『……信じられますでしょうかぁ!?予想を遥かに裏切ってこの勝負、制したのは!ヒイラギミチオでぇす!』
「メニライ、後でまたあの部屋で会いたい。君に話しておきたいことがあるんだ」
「ミチオ…ごめんなさい。ごめんなさ……うぅ…」
「大丈夫、今はゆっくり休んでいいから…」
それを聞いた彼女は道夫に抱かれたまま目を閉じる。歓声に包まれる中、安らかに寝息を立てる彼女を見て道夫はある一つの決心をするのであった。
〜現実では勝てたけど…〜
夢で見た通りに彼女を打倒した道夫であったが、夢の中で行っていたのは、かの魔法使い(元天才外科医)もかくやと言う程の『繰り返し』であった。
負けたらまたやり直し、一つ一つ対処する中で道夫は自らの戦い方『戦術』と更なる警棒の『工夫』を見出して行ったのである。
警棒を樹に見立てて発芽させるという発想に至るのはかなり難しかったと後に語る。




