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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
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第43話〜私の『両手』//私を見ないで〜


 彼女の呟きは、背負っていた箱から大量の蒸気を吹き出させ辺りを包んだ。

 勢いのまま警棒を水平に振るうが、既に彼女はそこにはいなかった。


(どこに消えた…!? )


 目で探すも当然分かる筈もなく、道夫はその場で静かに警棒を周囲に呼び出す。

 まだ罠は幾つか健在だ。だがこの蒸気の中で狙われないのなら、此処にいれば彼女が何処かから必ずこちらを視認できる攻撃をする筈。


 攻撃の気配を探知するなんてかなり無茶だが、道夫の身体はその直感を信じる事にした様だ。


「……そこッ!!」


 直感に基づき、瞬時に警棒を盾の様に組み合わせ近づいて来た脅威を受け止める。

 予想外だったのは、襲ってきた物理的な衝撃は彼女の身体ではどうやっても生み出せない代物だった。


「ぐうおぉぉ!?」


 吹き飛ばされ、蒸気の外に押し出される道夫には確かに見えた。今自分を襲ったのは彼女ではなく、巨大な鉄の塊による刺突であった。

 

 掻き回された思考の中、がむしゃらに体勢を立て直す。姿を見せた彼女の背後からは尻尾の様に伸びた機械とその先にある巨大な機械の腕が生えていた。


『出ましたぁ!!メニライさんの秘密兵器!『連動機(アープリスト)・アウガンツ』だぁ!これから見せる彼女の手品達をミチオくんは凌げるのかぁ!?』


 静寂だった時間は終わり、再び歓声が会場を轟かせる。さっきの無茶な飛び掛かりの反動と受け止めた腕の痺れが道夫の動きを止めてしまう。

 息が苦しい。心臓がかなりの早鐘を鳴らし、腕の感覚が殆ど無くなっている。

 だが、彼女から目を離す事だけは絶対にしない。あんな隠し玉があったとなれば、すぐにも手を考えなければならない。


「はぁ……はぁ」


 呼吸が整えられず隙だらけの彼に向けて巨大な鉄の拳が開き、手の平から現れたのは六つの砲身を円状に重ね合わせた。殺意に満ち溢れた兵器(ミニガン)であった。


「くっそ!」


 当然休む間も無く、警棒を突き立て前方を警棒の針山で埋め尽くす。針山の中で銃弾の乱反射が響く中、今度の異変は地中から聞こえてきた。

 何かがこっちに向かって、地面を掘り進んで襲ってくる。その正体が()()であると分かったのは、丁度道夫の目前でそれが地中から飛び出してきたからだ。


(やっ……)


 爆破寸前、道夫は兎に角致命傷だけは防ぐべく構えたが敢えなく爆風と衝撃で吹き飛ばされ地面を転がる。

 警棒達は形を保てず塵と消え、爆音による耳鳴りが周囲の音を遮った。


(……)


 言葉などもう何も出てこなかった。そして何かに誘われる様に目を閉じようとした彼の目には、悲しそうに俯くメニライの姿が映っていた。

『ミチオくん倒れましたぁ!ってあれ大丈夫ですか救護の人呼んだ方がいい感じですか!?うわぁどうなるの〜!?』


 完全に素のトーンになった司会の声で会場が騒めく中、メニライは張り裂けそうになる胸の痛みを無理矢理押さえ付けた。


「ミチオ……もうやめて」


 絞り出す様に呟いたメニライの声が道夫に届く筈もない。心苦しさで溢れる涙を拭う。この両手が彼を()()()()()()()()。しかし、絶対に負けたくない自分が勝つにはこの手を使うしかなかったんだ。


〜〜

 

 彼女、メニライ・ユ・ラシェンナは『孤独』であった。自然と生きるエイン族を守る為に兵器の力が今後必要になると説き、結果異端として故郷を追われた。

 異端と呼ばれながらも、彼女はエイン達の事が好きだった。故にたった1人でも皆を守ると決めた。

 

 学城院(アカリア)の生徒になった後も今までと同じ様に一人で開発を続けていた。そんな変わらない日々を破ってくれたのが、彼だった。


『はじめまして、まさか人が居るとは思わなかった……。これ全部一人で?凄いなぁ。そこで無礼を承知でお願いが……』


 彼は私の作った物に興味を持ってくれて、更に身の回りの世話の代わりに私の兵器達を必要としてくれた。最初はそれこそ何でもない、対等な関係で済んでいた。

 でもいつか彼が礼を言って帰ろうとした時、心がズキンと痛みだした。

 帰らないで欲しかった。もう少しだけ、側に居て欲しかったとは言えず、その痛みは夜になっても収まる気配は無かった。


『…ミチオ』


 ふと呟いた瞬間、心が跳ねた。すぐにそんな筈無いと否定しても、頭の中は彼の事で一杯になってしまう。

 私の手を握って欲しい、その腕で抱き締めて欲しい。日に日に重なる想いは、ある日突然変異を引き起こした。


『彼を、自分だけの物にしたい』


〜〜


「でもこれでいいの……これで、私の勝ち……」


 アウガンツから放った二つの球体が、猟犬を模した機械の獣へと変形する。後は動けない彼を捕らえてこの勝負は勝ちだ。


(そう……これで貴方の勝ちよ。そして彼は貴方のモノ、嬉しいでしょう?)


 背後から抱きつく様に取り付いた黒い影は、アウガンツと同じ巨腕と爪をチラつかせながら囁いた。悪魔の囁きとは正にこの事なのだろう。


「ち、違う……私はこんな……」


(何が違うの?仮に違っていたとしても貴方は彼を傷付けてしまったわ。もう後戻りなんて出来ないのよ)


「やめて…やめて……」


 顔を抑えて膝を突く。もうこれ以上、こんな自分を見ないで欲しかった。生まれ出た醜く卑しい自分の心に抗いきれなかった自分を。


(あぁ可哀想な()()()()()。後はワタシに任せなさい?気付いた頃には、貴方の願いは叶っているのだから)


 もうメニライに逆らうだけの力は無い。光の無い瞳のまま、2体の猟犬に命令を発した。しかし、既に居もしない物に命令など届く筈も無かった。


(こ、これは…!?)


 真横に両断され鉄屑と化した猟犬達、その間に立っていたのは先程まで傷付き倒れていた筈の男の姿があった。その右手に黒鉄の棒を握り締めて。


「メニライ……すまなかった」


 その首に、桜色の光は巻かれていなかった。


〜連動機・アウガンツ〜


 メニライの扱う天使製多種搭載型特殊機爪。数多くの武装が内蔵された腕部と自在に伸び動く特殊パーツにより幅広い戦いを可能にする。


 天使製と言う事もあり、創形による補充機能も備えている為余程の事でも無ければ弾切れとは無縁である。


 彼女が袖で手を隠すのは、操作を分からなくさせる事に加え、中で陣を描き魔法を放つ不意打ち戦法も兼ねている。

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