第42話〜決闘//燻る想い〜
〜魔法戦第二会場控室〜
遠くから聞こえる歓声の中、控室内はこの上ない沈黙に包まれていた。
出場を待つ道夫の胸中は今も苦悩に苛まれている。深いため息が漏れるのも無理は無い。
改めて自分の装いに目をやれば、今までの人生で着た事なんか無い上今後着る事も無かったであろう。
黒と白の混じったそれこそ妙な小説の主人公が着る様なコートを、まさか自身が着る事になるなんて。
「どうしてこうなった」
柊道夫23歳、滅茶苦茶恥ずかしかった。ここがニホンじゃなくて本当に良かったと心の底からそう思うのであった。
『それは、次の魔法戦『決昇戦』。私の相手が貴方だったからよ』
メニライに告白と宣戦布告をされたのがつい先日。当日いざ会場へ赴いたら、出待ちしていた『服飾部』の生徒達に捕まったのが数十分前。
物凄い速さで採寸され、そうして出来上がった恥ずかしさ極まるこの衣装を『宣伝になるから!後着てた方が絶対役立ちますから!させて下さい!』と滅茶苦茶深く頭を下げられ、押し負けて渋々と了承し今に至る。
「ミチオさん。そろそろお願いします」
「……わかった」
ボクサーやプロレスラー達は、出場する時も自分と同じ様な気持ちを持っていたりしたんだろうか。
近付くにつれ大きくなる歓声に高鳴る鼓動を深呼吸して慣らしながら、ついに道夫は会場へと踏み出した。
〜〜
『さぁ皆さま! お待たせしましたぁ! これより魔法戦第二『決昇戦』が開始されまぁす! 』
司会者の一声で、聞こえていた歓声が倍近くに膨れ上がる。聞いた話では魔法戦第二は最早娯楽の一つになってしまったと聞くが、これではまるで満員御礼の野球場だ。
(これ試験のはずだろ、これは幾ら何でも盛り上がり過ぎじゃないか?)
『進行は私、ルーカ・サタイがお送りしまぁす! さぁ皆さまにはもうお見えでしょう! 突如現れた正に新星、噂の真偽は如何程か! ヒイラギ〜!ミチオォォ!! 』
一体どれだけの生徒が集まっているのだろう。軽く見回すだけでもとても数え切れない。
そして道夫は、既に会場で待っていた彼女と相対する。メニライも自分と同様、普段着ない様な格好をしていた。
緑を基調とした上着には、植物を思わせる様な装飾があしらわれていた。
だが取り分け特徴的だったのは、背中に背負った身長程の巨大な箱と、異様に袖が長く手が完全に隠れていた事だ。
「……待っていたわ、ミチオ」
歓声が響く中でも、メニライの声がハッキリと聞き取れた。その表情からは、やはりどこか覇気がない。
これから戦う事になるにも関わらず、どこかに迷いを残している顔であった。
「メニライ、俺は」
「どうして、貴方を好きになってしまったのかな……心を曇らせるこの煙が、恋の心だなんて知らなければこんな事にはならなかった筈なのに……」
既に歓声など2人には聞こえない。静寂に包まれた2人きりの空間の中、道夫は警棒を召喚し右手で握り思い切り地面に突き立てる。
次の瞬間、多数の警棒が地面から現れ派手な土煙と共に数多くの何かを貫いた。
両手に収まる程の鉄製の何かが既にこの会場に仕込まれていた事を道夫は『明視』で見通していたのだ。
『明視』はただ視力を強化する魔法ではない。魔力を通し、肉眼では捉えられない物を視認できる。習いたての子どもですらできる芸当だ。
当然埋められた罠を見つける事など造作も無い事、では何故彼女は見破られて当然の罠をわざわざ仕掛けたのか。
単純な事だ。やられようがなかろうが、彼女にとってはどっちだって良いのだ。
「っ! 」
もう一刻の猶予も無い。貫かれ機能を失った筈の罠達は道夫に向けて何かの射出体勢に入っている。2つに切断され地に倒れた罠も息を吹き返した様に道夫を狙う。
警棒をドーム状に広げて防げば生半可な射撃は弾き返せる。だがここまで綿密に仕込んできた彼女だ、そんな丸見えの隙を逃すつもりは無いだろう。
(防御は悪手、なら)
防ぐのが不可能ならば回避に賭けるしか無い。しかし今道夫は膝を突いた状態で未だ立て直せていない。
無理に動けば横や上空へ逃げられるだろうが、横は罠の連鎖反応を招きかねない。上は初撃は避けられてもその後が隙だらけだ。
「こ、のぉ!! 」
警棒の伸縮を瞬時に行い、爆発的な衝撃を持って加速する工夫『伸加速』で道夫は『前』へと一気に踏み出した。
罠から放たれた無数の針は先程道夫のいた地面に虚しく刺さり、後に残ったのはピンと張られた細い糸のみであった。
そしてメニライとの距離を詰めた時、狙っていた筈の罠達が鳴りを潜める。
此処までは道夫の読み通り、後は少し心苦しいが、彼女に一撃を与えて終了だ。
しかし、読みというものは須く外れる物だ。特に、自分に優位な物ならば尚の事。
「……アウガンツ『発動』! 」
〜伸加速〜
道夫が沈まされた夢の中で見出した警棒の『工夫』。警棒の『伸びる』を高速で行う事でより高く飛び上がったり、一方向へ一気に加速できる。
物理法則などあった物では無いが、必要なのは物理的な可否では無く、道夫自身がそう出来ると思う事が最も重要な因子となっている。
まだ全てとは行かないが、道夫は夢で見た工夫の数々を現実でも扱える様に日々こっそり研鑽している。
大真面目な事だが、時折少し小っ恥ずかしくなる。




