第39話〜魔槍//速度9.8〜
黒鉄人。鉄と魔力核、そして機械により作り出される鋼の巨兵だ。
対人用に設計されたって話だったが明らかに過剰火力だった為に使われる事は無くなった筈なんだが…。
人が当たれば煙になりそうな大きさの弾丸の連射を、リアーシェは瞬時に生み出した結晶の壁で受け止めてた。
そんな状況でありながらも、彼女の目には何にも込められてなかった。
冷静と言えば確かにそうなんだろうが今考えてもそんな物じゃなかったと断言できるよ…。
〜〜
「チキ!他の皆を呼んできてくれ!」
「既に虫が知らせに行ってる。そう時間は掛からない」
「そりゃ結構!」
狙撃銃型を構え、結晶の壁を避けて黒鉄人の右腕を狙う様に引き金を引いた。
結構な近距離にも関わらず弾頭は容易く弾かれ、此方を捕捉した黒鉄人は右肩から多数の杭が射出される。
前転して回避しそのまま立ち上がって走り出す。
「…ッ」
リアーシェが結晶の壁を片手で維持しつつもう片手で陣を描いて壁に叩きつける。
壁を通り抜けて放たれた結晶の槍を、黒鉄人は各所から噴き出した炎による加速で回避したと思ったら、彼女たちの前から姿が消えて無くなった。
当時はまだ次元装も魔学迷彩も研究途中でな。人間程度の大きさならともかく、大物用なんて存在すら無かった。
「チキ、奴の場所は?」
「ダメだ。虫達もどこに行ったか分からないと…」
「背中合わせ、警戒」
それぞれ背中を合わせ守りに入る。銃を構える中感じたのは、巨兵という異物を抱えながら静寂を貫く『この場所』への違和感だった。
透明になる、そこまではいい。だが姿が見えなくなるのなら木々や草に何の干渉も起こらないのはどういう事か。
疑念を振り払うべく引いた引き金は奴が消えた場所へ向けられ、放たれた弾丸はそのまま静かに森へと消えて行った。
「キオス、何か分かったのでしょう?教えて」
「まず、奴は『この星』にいて『この世界』にいない。有り得ないだろうがあのデカブツはこことは別の次元で俺達を狙っている」
「研究中の次元装なら聞いたことあるわ。何故という話は後で、対処は?」
「異なる次元同士で干渉は不可能だ。攻撃するなら必ずこっち側に戻ってくる。そこを突くしか無い」
リアーシェは無言で息を吐き、地面を静かに踏む。結晶が周りを囲う壁となり、それより内側は既に彼女が用意した陣が敷き詰められている。
「…倒す算段、あるのでしょ?信頼しているから」
「当然」
左腕のワイヤーで刺さっていた杭を引き寄せ掴み取り銃口へ差し込む。
これだけで死んだ杭は一撃必殺の魔槍に変わる。使用者のやり口に合わせて形を変えられるのが天使製の利点であった。
「虫達が鳴いた!来るぞ!」
弾倉の代わりに冷却装置を取り付け、チキが叫ぶと同時にある方向へ構えた。奴が現れる場所の目星は付いている。後は一瞬で全てが決まる。
最も、これからの彼にとっては半ば永久に近い物になるのだが。
「『明視』問題無し…。発動…今ッ!!」
黒鉄人が現れたと同時に機関砲から放たれた弾丸は、彼女達に迫る最中で動きを止めた。
それは全身から雷が溢れたキオスが発動させた『雷電』が見せる世界であった。
速すぎる加速により静止した世界を、銃弾から銃弾へと飛び移り黒鉄人に接近する。
遂に足元まで近づいたキオスは雷を解き放って一気に頭上へと飛び上がった。
静止していた世界は動き出し、再び殺意を取り戻した銃弾達は敷き詰められた陣が生み出す結晶の山々に乱反射され地に落ちる。
「人間が1番速くなれる時は何か、知っているか鉄塊頭」
頭上の存在に気付いた巨兵は腕を伸ばして上へと機関砲を構えるが、次の瞬間には肘から先が体に別れを告げていた。
いつの間にか現れていた特徴的なリーゼントヘアとただの無骨な鋼の大剣は、遠目に見てもリアゼンの奴だとはっきり分かった。
別次元へ逃れようとした黒鉄人の足はリアーシェの結晶に包まれ阻まれる。
2人に無言で感謝し、空中の足場に頭を下にして立ち再び雷をその身に走らせる。
「今の俺こそその答えだ。覚えて死ね!」
飛び上がった時と同じ様に、頭上に向けて真っ逆さまに加速した。
定まる照準は寸分もズレる事無く雷となった魔槍を引き金を引いて解き放つ。
避ける余地すら無く、杭は黒鉄人の首元を周囲を焼き溶かしながら貫いた。
核を破壊された鉄の塊はその自重を支え切れず、崩れる様に潰された。
その側には地面に倒れて動かなくなった人物が1人。
「死んだか?」「死んだね」「間違いないわ」
「「「安らかに、キオス」」」
「嫌、生きてるから!!」
その後は崩れたデカブツもついでに持ち帰る事にした。ダールは部下の手前であった事も功を奏しその功績を心底悔しそうに讃え、リアーシェもその日彼に呼ばれる事は無かった。
〜〜
「聞いてたが、その日の何処が転機だったんだ?」
「それ以前でも色々あったが、俺達の運命が変わったのは間違いなくあの日にあったと確信できる。実際あの日の数週も後に、あの国は滅ぼされたんだから」
「…はい?」
「まぁあの瞬間は起こるべくして起こったと言っていいだろうさ。むしろあそこまで保てていた事が奇跡だったのかもなぁ」
「…」
無言で見つめる道夫に、キオスは軽く微笑んで答える。
「とことん話すって言ったろ?あの日はな…燃える街の中、リアーシェと話した最後の日だったよ…」
〜天使〜
この世界、イミュリーズにおける天使は人型であるが人間では無い。有機と無機が混じった装甲で身体が作られたロボットに近しい存在である。
まるで生きて成長する様に、加工の中で同じ物質を新しく構築する半永久的な機構によりあらゆる物に活用できる万能の素材として喉から手が出る程に求める者は後を絶たない。
それ物質で作られた武器や鎧、盾等の装甲はその所有者のイメージを読み取る様に無理のない程度にその場で変形させる事ができる。
しかし、最近では天使の落下現象は激減どころか全く確認されておらず、研究者達は不吉の前触れでは無いかと警戒を続けているという。




