第38話〜天落//鬼の皇〜
事の始まりは、かなり大きな衝撃と地震だった。当然すぐに全員がダールに呼び寄せられて作戦室に集まる事になった。
「今の揺れは新たな『天落』だ。お前達はすぐ現地を調査。貰える物は根こそぎ俺の所に持って来い」
地表に時折落ちてくる『天使』達は当時の人々にとっては正に天の恵みだった。
天使を構成するあらゆる物質は人類に新たな技術体系をもたらし、天使1つで技術が3年飛躍すると言われる程だ。
俺の持ってる狙撃銃型も、その天使達の身体によって作られた物って訳。
「「了解」」
〜〜
「しかし、近場に落ちたというのに俺達を駆り出すのは変じゃないか?あいつだって他に部下いるだろうに。」
「あぁそれか?そのたくさんの部下達に伝える中継役が偶然女の子だったから。あいつ男ならバカの一つ呼びで覚えるけどリアーシェ以外の女の子はメスとして存在すら認識してないから」
うわひっで…と成り行きで話が聞こえたキオスはこっそり呟いた。
「…そうだったわ。すまね」
「だからさっきエオマが遅刻しても見向きすらしなかったじゃん?」
エオマ・テパは前々からこの部隊に所属しており、リアーシェが来る前まで唯一の女性隊員だった。リアーシェより明るい栗色の髪と、近眼である為に黒縁の眼鏡を掛けており、
特徴なのは、その…ぽっちゃり体型。身体のラインが良く出るスーツの影響でそれが思い切り現れている。
「酷い奴だ本当に、あんなにきれいでかわいいのに」
「え」
「え?」
セグントの言葉につい口が滑ってな…。そこからは逃げようとした所を捕まって頭をグリグリされてたんだが、その背後から気配も無しにリアーシェがやってきて
「回収」
ただその一言だけ言ってきた。でもそれだけで誰もが作業に戻って行ったんだ。
去り際にエオマのお菓子も没収しててあいつピーピー泣いてたっけ。エオマの方が年上で先輩なのになぁ…。
〜〜
天使の回収も終わって、合流しようってその時に辺りから漂う殺気を皆して感じ取った。さっきまで泣いてたエオマもすぐに真剣な表情に戻っている。
『各員警戒』
首元も通信機から声がすると同時に俺達の首を狙って小鬼が複数飛び出し、そして何体かが危険を察知しすぐ様距離を取る。
退くのが遅れた小鬼達は立ち所に生気を失っていき、事切れた身体が消滅する。
「おやつの途中なのに襲ってくるなんて、礼儀を知らないんですかね…?」
おやつと称して大きな干し肉を頬張る彼女。既に周囲はエオマの魔法が発動している。それが敵の生気どころか魂すらも吸い尽くした。
「リアーシェ、こちらキオス。こいつら『皇衛』だってことは」
『分かってる。噂の皇ね』
「分かってるって…こっちは兎も角リアーシェともう一隊はどうするんだ」
『向こうにはチキを向かわせた。こっちは平気』
リアーシェはそれだけ言って通信を切ってしまう。確かにチキならば殲滅は容易い事だろうけどそう言い切れる自信は何処からきてんだと思いながら魔法の範囲内で小鬼を狙い撃つ。
セグントとエオマも攻撃に加わって鬼達も減ってきた所で背後から多数の銃声が轟かせて現れたのは、ダール自ら率いてやって来た兵隊達だった。
「遅いぞお前たち、横取りされたのかとおもったじゃあないか…。これは後でリアーシェには俺を待たせたという事への『責任』を取ってもらわないとなぁ…」
「…状況わかってるのか?敵のいる真っ只中に来る奴がいるかよ」
「分かってるとも、回収ご苦労。俺たちはそのまま帰るからお前達も邪魔な小鬼どもを潰してから戻れ。ほらバカ共さっさと荷に詰め込め!」
銃撃で牽制しながらそそくさと天使を載せてダールは本当に俺達を置いて帰りやがったんだ。
今でも良く城を持てたなって思うよ。今度また聞いてみようかな…。
やっと鬼が引き揚げて、すぐにリアーシェと合流したんだ。心配していたんだがまぁ杞憂に終わってな。
辺りは結晶になった敵ともう1人いてそいつが彼女と何か話していたのを俺は見たんだ。
そいつこそ、ロードを統べる存在『鬼皇』だったって訳さ。何話してたかは全く分からなかったがその後はすぐにそいつも姿を消してしまった。
「リアーシェ、今のゴブリンだろ?一体何を…」
「…ごめんなさい。奴に天使の一部を持ってかれた」
「それは今更どうでもいいんだ。それよりアイツと…」
本題を言いかけた所で、地響きと木が折れて倒れていく音が話を切り上げた。天落とは違う、何かが迫る様な音だ。
「隊長、近くに何かいます。堅く熱い何かで、虫達が怖がってる」
離れの部隊にいたチキがリアーシェに報告に戻って来た。理屈は分からなかったが、チキは魔法で虫を従える事ができてな。それが大勢の敵にはとことん効果的だったんだ。
「とするとかなりの大型のはず…でもどこに」
話してる間に近くにあった木が何かによってへし折られた。しかしそこには何もおらず、ただ森が奥まで広がっているだけの様に見えていた。
しかし何も無かった所から黒鉄の巨体が現れた時、リアーシェだけが何か納得した様な表情をしていたのを覚えている。
「黒鉄人、置き土産ってこれのことね…」
巨人は身体の各所から蒸気を噴き出しながら、右手の重機関砲を俺たちに向けて撃ち始めた。
〜鬼皇〜
小鬼達を統べる事ができる鬼の皇子。ゴブリンの呼び名は以前から彼等の間で受け継がれてきた言葉なのだと言う。
最たる特徴は、殆どが人間と同じ姿をしているという事である。しかし一部は鬼のままで、その部分のみを隠し人の世に溶け込む事も可能である。
彼が従える直属の鬼は「皇衛」と呼ばれ完全なる忠誠を誓った者達によって結成されている。ゴブリン含めロード達には『眼前に迫る死』が見えており、それを回避する事が可能だと言われている。




