第35話〜決着//安堵と警告〜
迸る気の流れを、道夫は真っ直ぐに突っ切っていく。速度は緩めず相手を囲う様に一瞬で陣を展開。自らも警棒を手に吶喊する。
道夫の包囲攻撃に対し、ムルチアはただ目を閉じて精神を研ぎ澄ます。もう既に目を開ける必要は無かった。
今の彼には、眼に頼らずとも次の動きの全てを見切っている。そして反撃の糸口を見出し、目を開いて動き出す。
「せい!!ほっ!!はっ!!」
今までの豪快さとは対象的な無駄のない完璧な捌きにより、襲い掛かっていた魔法はあっという間に消滅し、残るは道夫の一撃のみ。
しかしムルチアは、道夫の力を見誤っていた。とは言うものの、これから彼が行う事は魔法では不可能な芸当であったからだ。
「…!」
(うあぁっ!あっ…頭が…!こ、この景色は…なんだ?)
頭の中を急速に駆け巡る記憶にない風景が、頭痛という拒絶反応となって理解を拒む。
だが、外の彼は顔色一つ変えずに警棒による突きを繰り出す。ただの一撃と侮っていたムルチアは、防いだ瞬間にその浅はかさを悔やんだ。
何故なら受け止めた筈の自分が今、有り得ない位ぶっ飛ばされて地べたを転がり回っていたからだ。
(い、今たしかに見えた…。彼には今複数の世界の彼がいる…!だけどそんな事は不可能の筈…!)
錯綜する思考とは切り離されている様に、身体はすぐに体勢を立て直す。改めて見た道夫の身体には確かに複数の線が一つに束ねられていた。
(『世界線』の統合…それではまるで過去の英雄その物ではないですか。貴方は一体何者だというのですか)
再び道夫が近づき警棒を振り下ろす。まともに受け止めるのは危険と判断し右腕を掴んで押さえ付ける。
しかしその直後に、押さえ付けた筈の右腕が自分の左から襲い掛かった。
咄嗟に警棒を受け止め致命打を防ぐ。さっきのは世界線の幻影を使ったフェイントだった。
実際に触れた感触すら有った幻など性質悪いこと上無しだが、それで怯むムルチアでは無い。
「えぇ、トコトン付き合いますともぉ!」
手の内が分かったのなら、それを承知の上で行動すれば良い。ここまで接近されたのなら後は互いの根比べである。
隙を見て打ち込む拳も彼の前で硬い壁に当たったかの様に弾かれる。対するこちらは防ぐだけで両腕が砕けそうだ。
そうした連撃勝負の中、限界を迎えたか防ごうとした腕が警棒によって弾かれる。
大きく体勢を崩したムルチアは迫り来る警棒を見ることしか出来なかった。
「ここまで…何?」
それは突然の事だった。得物を振り下ろさんとした道夫がまるで時間でも止まったかの様に静止し、膝を折って項垂れた。
その隙を逃さず、ムルチアは体勢を立て直し力を振り絞って拳を叩きつけようとする。
同時に顔を上げた道夫は瞬時に警棒で籠手を形成し、加速したアッパーカットで立ち向かう。
「ぐぅ!?」
(これは…!?)
互いに「やられた」と思ったその時、ムルチアは彼の目に光が戻っていた事を確かに捉えていた。
『双方!!そこまでっ!!』
空間に響く『声』により、2人の動きが止まる。そこに歩いて来たのは、時計を持ったヴィアンであった。アラーム音が鳴り響く事は試験時間の終了を意味していた。
「た…」「…」
「「たすかったぁ〜…」」
2人の戦いに完全について行けなかったリリテ達はすっかり脱力して座り込んだ。道夫も動けなくなった中で巻かれたマフラーも完全に消滅していた。
「ようし、『双方、休め!』」
彼女の声を聞いた途端、体の自由が戻り出した。形成されていた警棒も光と共に消えていったが、今一番にやばいと思っていたのは全身に襲い掛かる痛みだった。
「ふっはぁ〜。時間切れてましたか…。今回はトップ取れますかねぇ…」
どしん、と座り込んで笑うムルチアからは既に張り詰めていた気など微塵も感じなかった。そして道夫は、無理な動きをしたツケが回りついに倒れてしまう。
「お疲れ様だミチオ。ムルチア、そしてラクリオとリリテ。残った4名は漏れなく合格だ。」
「は…はは。毎度これじゃホント持たないですよ先生…」
「言うべき事はそれだけだ。医療班!」
そそくさと現れた人達に搬送される道夫だが、自分を見ていたムルチアの顔は、なんとも神妙な物であった。
〜学城院内医療室〜
「はぁ…結局また分からなかった。それに考え事するだけで頭も痛い…」
あの戦いの後、道夫は療養を余儀なくされた。治療自体はすぐに終わったのだが、その後行われた検査が彼の療養の殆どを占めていた。
「ミチオさん。具合は如何でしょう」
そこにやって来たのは、妙な黒い球を腕輪に付けているムルチアだった。曰く「筋トレ中」だとか。
「そっちこそ、具合は良くなったのか?」
「ええ、むしろ清々しい。また目標を持てる様になったから…ですかね?」
互いに暫く話し合っては笑い合った後、また筋トレに戻ろうとするムルチアだが、出入り口の前で止まって顔を見せずに話し出す。
「最後に一つだけ、あの力はもう使ってはいけません。使い方が分からなければそのまま封印するべきです」
道夫がその言葉に問い返す間もなく、ムルチアは部屋を後にする。
1人になった空間には、さっきの言葉だけがいつまでも残っていた。
〜ヴィアンの『声』〜
彼女の『声』は、発するだけで対象に作用する。殆どの者を言葉通りにできるが、一部には声に対する抵抗力を持つ者もいる。
魔法とは異なる代物である為「属」も無く、彼女に掛けられた呪いが原因とも考えられている。
かつてはそれまたナイスなボディを持っていたそうだが、呪いによって小さくなった後は生徒たちに思い切り可愛がられる羽目になった。




