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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
35/205

第34話〜暴走//全力の矜恃〜


「…」


 相変わらず信じられない。魔法を知り、魔力を理解した道夫にとって、今の自分から眩い程に溢れる魔力はそう思わせる程であった。

 やはり体の自由は効かない様だが、今の自分には確かに意識がある。

 あの洞窟の様に気を失う事もなく、受けた傷は最初から無かったかの様だ。


(なんと…たった片手に…!)


 冷静に距離を取ろうとするムルチアだが、道夫に止められた拳は前にも後ろにも動かせない。悪戦苦闘するムルチアを見遣りながら、道夫は陣を一瞬にして描き切る。

 最早それは陣を展開したと言ってもいい。陣省略術の究極であった。


「『(レイテン)』」


 言葉を唱え、同時に巨大な光線がムルチアを覆わんと迸る。しかしムルチアも咄嗟に構えた左腕で光を受け止め、自由になった両腕で押し留める。


「ぐううう!!第一装置開放!『火放拳(ロックトキア)』ァ!!」


 一旦片腕で光を受け止めながら、右手の籠手からはロケットの噴射口に近い機構が現れ、盛大に火を吹かせて加速。

 そこから放たれたロケットパンチは受け止めていた光を四方へと散らばらせる。


(ほんと化け物染みてるなアイツ…今は他人の事言えないが)


 しかし、あれだけの力を受けたムルチアも無傷では済まず、左籠手からは煙や火花が散る程の損傷を受けていた。


「はぁ…はぁ…左装置はもう使えませんか…。右も弾倉全部使って精一杯だなんて」


 戻ってきた右籠手が装着され、内蔵された薬莢がバラバラと落ちていく。

 どこにそれだけの弾が入っていたのかは兎も角、終わる頃には小さな山が出来る程の薬莢が散らばっていた。


「まぁ…腕が軽くなったと考えましょっとぉ!」


 後ろに生えた殺気を軽くなったばかりの腕で受け止めた。瞬間移動並の速度で道夫が頭めがけての蹴りを繰り出していた。

 彼自身の運動神経を置き去りに、道夫は止め処なく打撃を加えていく。


(こ、この身体…!かなり無茶な動きして…!?)


 ムルチアも合わせて回避し受け止めているが、問題なのはその一撃の何と重い事か。防御する度に腕の感覚が無くなりそうになる。


(常人にはまず出せない力。魔法で拍車を掛けているようですが、()()()()()()()()()()()()()…!)


 ズドン。と銃声の様な音と共に蹴り上げが襲う。止め切れないと悟ったムルチアは後ろへと距離を取る。

 道夫は言葉一つ挙げず、蹴り上げの勢いのまま回転。

 着地と同時に地面から夥しい量の警棒を召喚、ムルチアに反撃の余地を与えずに接近する。


「…甘い!」


 今襲い掛からんとしていた警棒の洪水は、ムルチアの突きによる衝撃波で2つに分かたれた海の様に両断された。

 その中心にいた道夫も防いだ衝撃により後ろへと下がり、動きを止めた。


「ふぅ…ふぅ…こんなあっさりと凌がれるとは、思いませんでしたよ…」


 既に肩で息しているムルチアに対して、道夫は汗一つ流していない。しかし何より異質だと感じたのは、今まで見た事のない彼の目つきだった。

 まるでこちらの事など眼中に無くて、更に遠く…見透かしたその先を見ている様な冷たさとも呼べない『無』の瞳だった。


「…」


 当の道夫は気付きもしなかったー嫌、気付ける筈も無かったがー。ムルチアにはその危険さが、いつか彼を命の危機に晒すという事を分かっていた。


「…上等」


 危険、無理難題、正に『上等』だった。ムルチアは掛けていた眼鏡を拭いて掛け直す。

 あんな力が今の世界に有ってはならない。彼の矜恃にかけて、目の前に立つ彼を元に戻してその事を伝えねば。

 今まで生徒用に手加減していたが、そうは言ってられないらしい。


「久しぶりの()()を、出させて頂きましょう」


 ムルチアの周囲の空気、空間そのものの様子が変わっていく。動きの止まった彼は絶好の狙い時なのだろうが、今の道夫は身動き一つせず、ただ一つの方向を見つめていた。


(おいおい自分、どこ見てるんだ今それどころじゃ…)


 その時、見えていた景色が切り替わり見たことのない場所が視界に映る。

 何処かの城の様だが酷く寂れ朽ちている。横の方から差し込む光が埃を照らしていた。

 そして前方に置かれた玉座の上には、磔のようにして縛られている。探していた彼女、井ノ上るあの姿があった。


「…!!」


 驚愕と共に視界が引き戻され、左目の痛みが彼を元の場所へと連れ戻す。残った右目には、ムルチアの今までに無い程に膨れ上がった『気』が映っていた。


「過程省略…『準備第四・解放』!!」


 解き放たれた噴火の様に爆発した気はそれだけで辺りの全てを消し飛ばさんとした。道夫は兎も角、後ろにいたラクリオ達は道夫が描いた防御陣壁により危機を免れる。

 そんな彼らの前に立ち塞がったムルチアの姿は、あれだけ派手な事をしておきながら解放前より落ち着いた冷静な振る舞いであった。


「今出せる精一杯を、敬意を持ってぶつけましょう」


 その存在を前にしても、道夫は一つも表情を変えずにムルチアを見つめるのだった。

〜ムルチアのキア


 彼の主装備たる籠手は、小人たちの間で祀られていた二対の遺跡を修復し、己の装備として蘇らせた。

 変形を通り越した機構『創形』により新たなパーツを瞬時に創り出す事が可能である。100程の創形用の弾薬を装填できるのだが


 小人曰く「そこが一番めっちゃしんどかった。それやるから二度とさせないで」と言わせる程であった。

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