第33話〜激闘論理//NESS〜
「はぁ!」
先手を取ったムルチアは一気に道夫に向けて疾走する。ほんの数秒で彼の拳は対象を一撃でぶっ飛ばしてしまうだろう。
そんな覇気の塊が目前に迫っても尚、道夫の眼は閉じられたままだ。
しかし、馬鹿でかい掛け声と覇気を感じられるのならそれだけで充分だった。
「…『工夫その4』」
ニホン語で静かに呟いた時、眼前に振り下ろされた拳は動きを止めた。既にムルチアの体は、地面から現れた無数の警棒により固定されていたのだ。
「『蹴り』ッ!!」
警棒を足に纏わせ、容赦なく顔面へ回転蹴りを叩き込む。人体に打ち込んだとは思えない金属音が響き、警棒の方が砕け散る。
「ううむ、良い一撃です」
煙を漂わせながら、ムルチアは笑顔で固定された体を動かしていく。四肢を固めたにも関わらず、警棒全てが軋みをあげた。
「やっぱり無理か…!『工夫その6』!」
距離を取り、虚空から警棒が高速で射出。それと同時に拘束を解いたムルチアも次の一手を瞬時に導き出し行動に移った。
「ふぅん!!」
『踏み締め』により揺らいだ空間に警棒が押し留められ、回転を加えた手刀により暴風と共に全て吹き飛ばされた。
「おわぁ!?」
あまりの突風と揺れに思わず体勢を崩す道夫。すかさず追撃を加えるべくムルチアも接近しようとする。
だがその動きは、突如辺りから現れる警棒達によって阻まれる。
展開されていくその形はあまりにもあからさまで分かりやすすぎたが、彼ならば必ず乗ってくる。と道夫は読んでの事だ。
「へぇ…『直線勝負』と言う訳ですね?大いに好む所ですよ」
上への道を檻の様に塞ぎ、道夫のいる所へ警棒の道が伸びている。
体勢を立て直していた道夫は警棒を両手に持ち、剣士っぽく正面に構えて動かない。
当然、これが彼等の誘いであるとムルチアも理解していた。
自分が1番大好きなやり方でわざわざ相手をしてくれるのにそれを断る者がいるだろうか。
敵が誘いを掛けたなら、幾ら非効率でもそれを全て理解し看破して尚真っ向からぶっ叩き潰す。それがムルチア・アウンスラーグである。
「ミチオさん、貴方に敬意を表して私の最高速でお相手させて頂きます」
ムルチアが自らの気を脚へと集めていく。気の流れが大気をも動かし、脚へ吸い込まれる様に渦巻く。
道夫は動かず、彼がある行動に出る事を待った。構えも解かず、集中力を研ぎ澄ました。
そしてムルチアが足を上げた瞬間に、道夫は遂に作戦を開始する。
「『シロアリ』発動!」
「おう!」
ラクリオが地面に手を置き、魔法を発動させる。力一杯そのままに地面へ足を下ろしたムルチアは、突然深く沈み込んだ自分の足にバランスを崩された。
「良し、撃て!」
「最大火力!『蒼炎』!」
横へ回避した道夫の隣を、青い炎が真っ直ぐに警棒の檻へと入って行く。瞬く間に中を伺う事も出来ない程炎に包まれていった。
「はぁ…はぁ…はへへぇ…」
「さ、流石にこれで終わったら…苦労しないよな…」
「2人とも、本番はここからだ。油断す…」
いきなり、2人の姿が遠のいた。思考が止まり、視界がぐらついた。
有り得ない肌の衝撃に襲われた事が分かったのは、飛ばされた先で派手に地面を転がってからだった。
(い…いっってぇ…)
フィクションな話の中で、吹っ飛ばされた後もすぐに起き上がったりする事をよく見た。
しかし、実際はとても起き上がるどころか身体が動かせないのだ。
色んな所を打ったからか、擦り剥いた傷と骨に響く様な痛みは今までの中で一番痛かった。
「ミチオ!」「ミ…ミチオさん…」
遠くで2人が呼んだような声がする。顔だけを上げて見ると、2人の近くには青の炎をその身に残しながらも立ちはだかるムルチアの姿が見えた。
このままでは2人が危険だ。だが自分の体は思う通りに動いてくれない。
「くそ…うごいて…動かなきゃ…」
ムルチアがゆっくりと2人に向けて歩き出す。動けないリリテを庇うようにラクリオは前で杖を構える。
やっと立ち上がろうとするも、震えた脚が邪魔をする。その上2人の所まで距離がありすぎる為とても間に合わない。
諦める。そう考えた道夫はそれだけはダメだと首を振る。今ここで諦めれば、きっと彼女に追いつけない。
それでは何の為に自分はここまで来たと言うのか。
目に浮かぶのは、最後に交わした彼女の姿。あんなに悲しそうに笑っていたアイツを、彼女を泣かせた世界を、そして痛みの中でそれらを諦めようとした自分自身が
いっっちばん、許せなかった。
「してたまるかよ…それ…だけはぁ!!」
何かが今繋がった。そう感じた瞬間に道夫の周りを輝く光が渦巻いた。
〜〜
振り下ろされる拳を、勝ち目なしでも仲間を守ろうとしたラクリオだが、その拳が彼に届く事はなかった。
「…ミチオ!」
「おぉ…!?こ、これは…」
炎を纏った一撃を片手で止める道夫の首元には、桜色に輝く光がマフラーの様に巻かれていた。
〜試験場の外にて〜
「あぁどうも、彼はどうしてるのかな?」
「学長、それが…」
「ふうむ…うん、間違いない。間近で見てやっと確信できたよ。全く同じだ」
「では、あれも近く決行に…?」
「そうだね。盛大にお迎えしなくちゃ…。『彼女が帰ってきたんだから』」




