第31話〜筋肉戦車//知恵の泉〜
「……ごぼはぁ!」
意識を取り戻してすぐに襲われた息苦しさに顔を上げる。あれからどれ位経ったのか。
山が消し飛ぶ程の衝撃に吹き飛ばされた道夫達だったが、幸いにも何処か折れている訳ではないらしい。
「ラクリオ…り、リリテ…」
荒い呼吸を繰り返しながらも2人を呼ぶ。だがその名前に反応する声は聞こえない。吹き飛ばされた最中、2人ともはぐれてしまったようだ。
(これまた最悪だ。)
とにかく水場から出ようもするも水を吸った服も相まって体が重い。側にあった木に寄り掛かるのがやっとだ。
そんな時、近くから誰かの声がした。よろよろになりながらも警棒を構え、最早負けを悟った彼だったが聞こえてきた声の内容はそこに居た敵を素通りさせる程であった。
「特等が来たって…まだ時間あるはずなのに!」「とにかく集合かけて!じゃなきゃ全滅に!」「とにかく人手を地点に…!」
(特等が、来た…?)
驚く気力も無かった道夫はそのまま素通りしていく生徒達を見送った。確かに、山一つを丸々消し飛ばせるのは確かに彼らじゃなければ出来ないだろう。
「ミチオ!」「ミチオさん!」
森の中を走る生徒達の中からラクリオとリリテが駆け寄る。安心した道夫は張り詰めた力が抜けてその場に座り込んでしまう。
仕方ないとはいえ、年上の癖に我ながら情けないなとそう思った。
「リリテ、頼んだ」「ええ。ヘンテコさんこそ」
ヘンテコ言うな。とラクリオは彼女の肩に手を置き、リリテは陣を描き出す。発動した陣から生まれた光が道夫の体に入り込み、彼の傷と疲労を瞬く間に治療してみせた。
「ぷっはぁ…治癒属、習っておいて良かったです…」
「ぶへぇ…これで初級なのかよぉ…持ってく魔力多くない?」
治癒属を扱える者は一握り位しかいない上難易度も高く消耗も激しい。そんな魔法を2人で消費を抱え合って自分を治してくれた。さも当たり前だという顔で。
「…2人とも、ありがとう…」
「ありがとうだなんて…照れくさいですわ」
「礼は後にしよう。今はこっちに来てくれ」
軽くなった体を起こし、彼らに付いて行った。その頃遠くで何かが響く音がいつまでも聴こえていた。
2人に連れてこられたのは、それなりに辺りを見渡せる山の上だった。
そこから見えた景色は、先程まで巨大な山が有った様には決して見えない。
「…あれを一人で」
溶けた山が固まってできた平地、そこに数多くの生徒達が1人の男を遠巻きに取り囲んでいた。
その男が誰かは、遠くから見ていた道夫にもはっきりと分かった。
「ムルチアだ…そんであそこにいるのは生徒達か」
「既にあれだけ集まっているのか。ただ…」
「あの方が相手となると…足りない所では…」
ついに、平地での戦闘が始まった。全員が揃って巨大な陣を描き出す。当のムルチアは何もせず陣の完成を待っているかの様だ。
イミュリーズでは一般人でも数人で共に陣を描く事で大魔法を放つ事が可能となる。
そして大魔法の威力は、追加の陣で範囲を定めなければ大災害を招きかねない。
そして完成した陣は膨大な魔力を輝かせてたった1人に照準を定める。
ムルチアが眼鏡を掛け直す間、ついに大魔法が発動する。一つは天から小型隕石を喚び放つ『連結・星墜』。
一つは猛り狂う雷雲と雷鳴を叩きつける『連結・竜滅し』。
最後は、絶叫の様な猛吹雪と氷を浴びせ掛ける『連結・時凍』。
これだけの魔法を前にして、彼は笑顔のままであった。
「では参ります。第一準備『踏み締め』」
ムルチアは思い切り地面を踏み締め、空間が、大気が揺れる。そして襲い掛かる大魔法の連鎖を
正拳で。
拳の衝撃波で。
手刀で。
隕石を打ち砕き、雷雲を消し飛ばし、吹雪をも切り裂いた。そんな彼の顔は、心底楽しそうに微笑んでいた。
そこからは、最早戦闘ではない。
「あれだけやって笑っていられるのか…」
「そんなとんでもない連中が特等な訳だ。あいつらには悪いがもう長くは持たない」
遠巻きに見ていた道夫にも、彼の怪物っぷりが良くわかった。最悪の場合、自分達も彼と戦う可能性がある。
「残念だがミチオ、今のままじゃ赤点だ。そして他の生徒は皆吹っ飛ばされている。だから…」
「あいつと、戦うしかないと…」
ラクリオが頷く中、リリテはムルチアを冷静に観察していた。
「あ…あの方、魔法を使っていないわ…」
「そう、そこなんだ。特等には色々戦いに制限が付くんだ。魔法込みじゃ誰も勝てないから」
(ならあいつ魔法無しであれだけの事してたのか…)
生徒達が藁屑のように飛ばされるのを見ながら道夫は言葉を飲み込んだ。
「そんで、勝ち目はともかく作戦は…ある。その要ら…」
そう言って2人は、道夫の方を見た。作戦と聞いてまさかと思ってしまったが、とりあえず聞いてみる。
「…もしかして、俺か?」
道夫の問いに、2人は頷いて答えるだけだった。
〜特等生魔法戦規定〜
・交戦において自らの魔法使用を禁ずる。
・交戦において過度の攻撃を禁ずる。
・自ら攻撃へ移る事を禁ずる。
以上を侵犯した場合、後で追試があるから覚悟するように。
〜学長より〜
(特等生用携帯端末より抜粋)




