第24話〜産まれた心//親心〜
ー森原病院ー
真っ白で暖かな日の差す廊下を道夫は進んでいく。道中すれ違う医者達は文字通りこちらを通り抜ける。
「この部屋…」
憶えていないが、道夫は知っている。この部屋の先にあの人達と、産まれたばかりの自分がいる筈だ。
「…ほうら、おとうさんだぞ〜」
「寝ちゃってるって…」
扉を抜けた先には、若い時の父親、柊 一輝と母である柊 香子が赤ん坊である自分を抱いていた。
2人の表情は、心からの安心と感謝が伝わってくる様だった。外からは桜が咲き誇り、春の暖かさを感じる。
4月8日満開の日。感覚としてはもう覚えていないが、道夫の大切な記憶の一つだ。
「母さん、父さん…」
そう呟いた時、2人がこちらに振り向いたと同時に窓が開き、満開の風が入り込んで道夫の世界を変えていく。今までとは違う、優しさに包まれる様な感覚だった。
ー柊家、テレビ前ー
『世界の未来も、愛する人も!ハッピーエンドへ描き切る!それが…カメンヒーロー だ!変身ッ!』
「へんしん!」
テレビの前でヒーロー と同じ構えを取る少年がいる。道夫にも覚えがある光景だった。道夫の少年期は、当時らしくヒーロー になることを夢見た時期であった。
〜柊家、玄関前〜
「道夫、ほら忘れもの〜」
「あぁあぁわかったって。それじゃあ行ってくるから!」
「おう行ってらっしゃ〜い。ハキハキとするんだぞ〜」
そう言って、着慣れない制服を着た道夫は初めての中学生活を始めるべく進んで行った。
その他にも多くの記憶が映像の様に再生されながら道夫の周りを通り過ぎる。
それはイミュリーズに迷い込む以前の記憶。希望と不思議に覆われた彼の人生であった。
「道夫」
「みちお〜」
目の前には、自分を呼ぶあの日の若い両親の声。今度は間違いなく今の道夫に言っているのだと分かった。
「母さん、父さん。本当に久しぶり…」
「やっぱりそうか。しっかしこれまた大きくなったなぁ?」
「だけど疲れた顔してる。何かあったのよね?」
「訳ありで…少し、自信を無くちゃって」
「自信かぁ…正直半信半疑なんだが、まぁ話してみてくれよ」
道夫は事の経緯をーイミュリーズや魔法関連については誤魔化してー説明した。
両親は話を聞いた後、2人だけで静かに話し合った後、道夫に向き直った。
「け、結論から言おう。自信の付け方なんて…分からん!!」
「えぇ!?」
「…だけど、今の道夫に必要な物の身に付け方は知ってる」
「自信とは違う物?」
「自信なんていつの間に自分の中で付いてるもんだ。ここで話して自信つきました〜なんてなる訳ないだろ?それにだな……」
思い出した。父は昔から話になると妙に余計な話に発展しかねない事も何度もあった。
それでも、自分に大事なことをいつも教えてくれたのはそんな父親であった。
「だから、お前に必要なのは『自分を信じる』こと…これだな。」
「そんな簡単に…」
「簡単さ。自分の持ってる力を信じて精一杯にやっていけばいい。無理な事もあるだろうけど誰だって失敗はするし色々悩んで迷ったりもする。物事なんてそんな物だ、完璧に出来る人なんてそうはいない」
騙されたと思ってやってみろ。と父は重ねてそう言った。そして、2人の身体が少しずつ霞んでいく。
別れの時間が近い事を、両親達も察しているらしい。
「そろそろ時間……というか貴方の話長すぎてお母さんあまり話せてないのだけど!」
「悪かったって…。道夫、いつも言ってきたけど、何事にもハキハキと!だからな」
父がそう言った後、母が手を取ってくれた。
ずっと優しくて、そして自分のこれからについて真剣に一緒になって考えてくれたのは他でもないこの人だ。
「道夫、お母さんあまり長い話は得意じゃないから短めに言うね?。まず、辛い時には自分を1番大切にね?」
『それで…心から大切に思える人ができたら…絶対にその手を…はなしちゃだめ…』
反射的に手を伸ばすも届かない。桜の花弁の様に2人は消えて行き、再び黒い世界へと引き戻されていた。
〜〜
『…良い記憶だな』
鏡の彼の手を借りて立ち上がる。その顔は少し晴れ晴れとしていた。
「…まぁ、久しぶりに話せて良かった」
『どうやら決心はついたらしいな』
「悪いが、この身体を渡す訳には行かなくなった」
『そうか、ならさっさと戻ってしまえ』
鏡が指差す先には、いつの間にか黒いカーテンが掛かっていた。だがそれを掴みこそすれ、道夫は開こうとはせず鏡の方へと近づいた。
「戻るさ。だが、お前と一緒にだ」
『な、何ぃ?』
「成り代わるとか乗っ取るとかそういうのじゃない。俺にはお前にしか無い力が必要だ。彼女を……るあを見つけて、連れ戻す為に。それに、そんな所に自分を置いてけぼりにはしたくない」
『……ははは、俺って本当に物好きだよな』
鏡の手を握ると、一人でにカーテンが開かれていく。まるで巨大な扉が開く様に、世界には暖かい桜の光が流れ込む。
『忘れるなよ、この力の源は「自信」だ。物理的な可否は考えず、お前の中にあるイメージを形作れ』
消えかかっていた彼が手渡したのは、無色透明な力の流れだった。何の形も無いそれを掴んだ瞬間、確かな形として道夫の中へと吸い込まれて行った。
「それで…ここはどうやって出るんだ?」
『ここはお前の中なんだ。お前が1番知っているはずだろ?』
「出方はご自由に…ね」
道夫が念じるとすぐに階段が現れたが、面倒そうなのでエレベーターに変えさせた。
「ありがとう。お前が居てくれて良かった」
『馬鹿、自分を褒めてどうする』
微笑む彼と額を合わせる。瞬きの後には、もう誰もそこには居ない。
だが道夫は寂しくなど無い、只一緒になっただけだ理解していたからである。
中に入って『戻る』ボタンを押した時、一気に上へ昇って行った。上へと近づく度に意識がハッキリとしていく。
「さぁ、行こう」
そしてドアが開き、あの青空の日へと戻って来る。その青い空には変わらず大穴が開き続けていた。
〜4月8日のとある日記〜
今日、やっと新しい命が産まれました。どこも悪くない、至って普通の男の子。やっと抱きしめさせてくれた時、お父さんも赤ちゃんもわんわん泣いていました。
名前について前から考えてたけど、目の前にすると余り踏ん切りつかないなぁってしてたら、お父さんが『道夫』って書いたのを持ってきてたの。まるで年号の発表みたいで笑っちゃった。
どうか自分の道を進んで欲しいって願いから取ったみたい。選ばせてくれなかったあの人の人生の事もあったからなのかな。
道夫、これから沢山の間よろしくね。




