第23話〜夢心地//鏡写し〜
どれもこれもが、あの時と変わらなかった。
天使の剣を掻い潜り既に何回も攻撃を加えているにも関わらず、天使には傷一つない。むしろ叩く度にこちらの手がどんどん痺れてくる。
「あっ…」
遂に警棒すら断ち切られ、天使の刃が目前にまで迫る。
今度こそ死んだと確信した時、プツンとまた何かが切れて暗闇の中で道夫は再び目を覚ます。
「…ここは」
「道夫くん!はしって!」
さっきまでの光景とは異なる、夜中の廃校舎で思い出す。そこで道夫達は初めて『不思議』と対峙した。
そこは『食べる人体模型』がいるという噂話があった。最初は肝試しのつもりだったが、実際にその模型は動き出し道夫達に襲い掛かってきた。
「…」
「…道夫くん?」
この光景があの時のままであるなら、この後どうなるかを知っている。
完全に力負けしていた所を、もう一体を片付けた七夏達に助けられる。
最初の不思議は破壊され、道夫達の勝利で終わった。
「見せたかったのはこれじゃない」
そう呟いた瞬間、プツンと三度目の音が鳴り、世界がまた変わっていく。
「教室の中…あの日付は」
7月14日、道夫高校1年の夏の朝。その日は噂になっていた転校生の話で教室中が持ちきりだった。
更にそれが女子ということもあり、男子達は一部を除いて大盛り上がり。その転校生こそ彼女との最初の出会いだった。
「…いのうえるあです。これからよろしくお願いします」
彼女は『記憶喪失』らしく、話の内容も不思議だった。
結果クラスに馴染めず、図書室で偶然同じ本を取ろうとした所から2人の関係が始まった。
今までの思い出が道夫の周囲を巡っていく。
〜〜
『ここが何処かは、もう分かっているだろう?』
振り返ると、そこにはもう1人自分がいた。椅子に座って酷く疲れた顔をしていた。きっと今の自分もそんな顔しているのだろうか。
「お前は……」
『忘れた。か?』
「まさか『鏡』か?」
『鏡』とは、道夫達が遭遇した不思議の一つである。鏡の世界に入り込んだ彼らと同じ姿となって襲い掛かってきた。
しかし道夫だけは鏡写しの存在を受け入れた。鏡の道夫は
彼と一体となり、その後は全く姿を見せる事は無かった。
『あの時は喋れなかったが、記憶を通して色々覚えさせて貰った。同時に、お前が閉ざしてしまった心の事も……』
「…」
あの日から閉ざした自分の心、確かに彼女がいなくなって酷く落ち込んで心にも大穴が空いた時期もあった。
それでも時間は進んでいくと、立ち上がって進み続けた道夫にはそんな自覚を持つ暇すら無かった。
『…あの日から全部が変わった。お前に成り代わるのなんて簡単だった……筈なんだが』
「自信を、持てなかった……」
『そういう事になる。お前が腑抜けたおかげで此方も存在すら消えかける羽目になったのだからな』
自信を持てなかった。自分にも思い当たる節はある。だが、それだけで人間が力を持てる訳ない。
いつの間にか鏡の道夫が目の前に来ていた。後退しようとしても身体が全然動かない。
『七夏があそこまで戦えたのは、自分達に無かった心を持っていたからだ。』
「そんな筈あるか。それだけであんなに強く……」
『なるんだよ。物理的な可否を無視して、時に人を超える力を引き出し実現する。彼が持っていた「自信」こそが力の鍵その物、しかしお前はこの世界でヒイラギミチオになろうとしていた。それでは彼女は救えない』
そう言い切った後突然頭を掴まれ、身体が宙に浮き出す。こんな状況でも、道夫の身体はされるがままで動いてくれない。
『自分が話しても無駄だろうから、これから会う人と話して来い。それでもお前がお前である事を思い出せないのなら、自分が代わりになってやる』
そのまま水中へと叩き込まれる。重りでも付いているかの様に道夫は深くへと沈んでいき、鏡の姿はすぐに見えなくなった。
生暖かい水が体の至る所に入ってくる。しかし、苦しさは全く無い。
(なんでだろう…このあたたかさをしっている)
記憶に無いはずの感覚を何故か道夫は覚えていた。既に世界は暗闇の中、安心感に抱かれた彼は眠気と共に目を閉じる。
どれ程そうしていたのか。目を覚ました時には、真っ白な廊下に立っていた。薬品の臭いがして、医者の人達が道夫をすり抜けて進んでいく。
(そうだ。ここも俺は知っている。ここは…)
森原病院、道夫が産まれた始まりの場所だった。
〜自信〜
自分で自分の能力や価値などを信じること…と定義されている言葉であり、人間が秘めている力を引き出させる鍵の1つでもある。
現実では当然形を持たない概念としての力でしかないが、現実と異なる世界であるならばその力をカタチに変えられるのではないか。
それが可能であれば、それは1つの魔法である。




