第22話~目覚めの試練//夢に沈む〜
「ミチオ兄ちゃんがんばれー!」
「お兄さんがんばって~!」
「はぁ…はぁ」
魔法行使の実践中子ども生徒たちに応援されながら、道夫は次の標的に狙いを定める。動かない的は残り10個、しかし残った魔力は5個目を当てた時には殆ど空であった。
「ア…アグ、タ」
最早陣すら描けず、道夫はその場に膝をついてしまう。すぐに他の生徒や教師も近づいて手を貸してくれる。これが道夫の限界であった。
「ミチオ兄ちゃんだいじょうぶ?」
「しばらく休めば…大丈夫。ありがと…」
ここ学城院にきて既に3日程、その3日とも今回の様になってしまった。イミュリーズの一般人に比べて半分ほどしか魔力を持たない道夫には、的あてすら非常に困難となっていた。
結局、道夫は残りの時間を休む事で魔力をなんとか回復させた。こんな現状に、道夫はただ焦りを重ねていった。
〜初等学舎、廊下〜
「ミチオさん、今よろしいかな?」
声を掛けてきたのは、担任のトイカ先生だ。初老であるにも関わらず魔法と身体能力は若者にもひけをとらず、優しげな顔に見合った性格で人気である。
「なんでしょうか?」
「君の魔法について、お話がしたいのですよ。いや、正確には今の君にある魔力のことですかね…まぁついてきてくださいな?」
2人はそのまま廊下を進み、階段も下りて外へ出る。結局訓練場まで歩いてそこで止まった。
「それで、用は一体何なのですか」
「さっきの実践を見ていたのですけど、ミチオさんの魔力は君自身の物ではありませんね?」
「…えぇ、姉から貰った大切な物です」
「そうですか、それで納得しました。それなら魔力も少ない筈、今まで頑張って来ましたね」
「いや、そんな…」
この先生、些細な事でもしっかりと褒めようとするのだ。この前も他の生徒が皆勤だった事を思い切り褒めていた所を見た事がある。
悪気がないのも分かるのだが、なんとも照れ臭い。
「しかし、その魔力の少なさがさっきの疲労を招いているのですね…」
「だが先生さっき自身の物と言っていたけど、俺には魔力なんて最初わかりもしなかったのに」
「えぇ、君には確かに君自身の魔力があります。ただ眠っているだけで」
そんな言葉を、道夫は信じられる筈無かった。最初からイミュリーズに生まれた人なら確かに魔力という物が芽生えてもおかしくない。
だが彼は違う。魔力なんて欠片もありはしなかった世界に生を受けて来た。だが目の前のトイカは、そんな自分に魔力が眠っているというのだ。
「どうやらその顔と同じくらい、君の魔力は強情のようです。そんなものありはしない、そんな訳ないの一点張り」
トイカは眼鏡をケースにしまい、別の眼鏡を掛ける。老眼鏡とは明らかに作りも装飾も異なる不思議な物だ。
「これは少々荒療治になりそうですね。でも芽生えれば、初等という器にはすぐに収まらなくなるでしょう……『魔杖』」
持っていた歩行用の杖が、ステッキの様な形に変わる。その工程には決して少なくない魔力が渦巻き、杖自体を光らせている。
「これも魔法の使い方の一つなのですよ。君にもすぐに使えるようになります」
「…方法については教えてくれないと?」
「今の君はそれ以前の問題ですから…。改めてこの場で課題を出します。借り物ではない、君自身の力を目覚めさせて貰います」
杖の持ち手を抜き、剣の様に構える。持ち手の先には魔力の流れだけが見え、道夫も陣を描く為に魔力を集中させる。
姉からの魔力は今ではすっかり馴染んで来ているのだが、自分自身の力については未だ理解できていない。
「私の魔法は人を傷つけないし、傷つけたくもない。だからこそ、君の心を斬らせて頂きます」
そう言った瞬間、トイカの姿は霞に消える。道夫もすぐに明視の魔法を発動させるも、その時には既に後ろにいて…。
「先ずは一太刀、です」
プツン、と糸が切られた音と共に道夫は地面に片膝を突いた。何をされたのかも分からず、ただ身体が急に重くなっていった。
「…ッ!?」
下げていた顔を上げた時、既にそこは訓練場でも、学城院ですらない。道夫が1番良く知っている光景が眼前に映されていた。
忘れもしない、3年前に天使と戦った別れの場所。この世の常識もルールも全てが壊れたあの日の空、巨大な光の穴が空を貫いていた。
「ここは!それに、忘れるものか。この感じッ…」
いつ現れたのか、目の前には一体の『天使』がいる。背中には彼女、井ノ上るあも居た。
手に持つ警棒を伸ばし、再び道夫は天使と相対する。
「要は…決着付けろって事かよ。やってやるって」
〜〜
「さぁ、ここからは君次第ですよ。ミチオさん」
片膝をついたまま動かなくなった道夫を見ながら、トイカはただ彼の帰りを待つのであった。
〜魔法の「属」と「使い方」〜
イミュリーズの魔法は数多くの「属」によって分けられている。
炎、水、風、雷等、基本的な元素を扱う物から、機械と魔法の力が混ざる機属、空間そのものを操る空間属といった特殊な属も存在している。基本扱える属は一つで複数使える物は多くない。
魔法自体にも複数の使い方があり、魔法を武器へと変える「魔武器」、発動の際描く陣自体を魔法とする「魔法陣」等がある。




