第20話〜船の上//世界の裏側〜
〜定期船内、ヴィジュー二海上〜
思えば、船に乗るのはいつ以来だったか。高校の時の修学旅行に一回乗ったきりだった様に思う。
道夫は今、学城院行きの船に乗っているらしいが、この船の行き先にはそんな名前がどこにも無い。
隣にいる学長ことレイルスは「ちゃんと着きますから」と船旅を満喫中であった。
「…」
「どうしました?そんなに見つめて先生照れちゃう」
「いいえ、ホント不思議な人だなと思って…」
出港前にも色々聞いてみたが、それでもまだ裏があるようにも思える。
その亀裂の入った瞳には、長くは見つめられない程深く底知れない。
「まだ、不安ですか?」
「まぁ…はい…」
「そう構えなくてもいいんですよ。ミチオくんもきっと気に入ってくれますから。さて、お昼過ぎですしひと休みしましょ?」
気楽そうなあくび一つして、レイルスは部屋の方へ戻っていった。道夫も特にする事もなかった為、ベッドへ横になる。それなりの旅を想定してあったのか、ベッドの質は中々の物だ。
「…しずかだ」
そう呟いてしまう程静けさに包まれた部屋。特に眠い訳でもなかったが、道夫が眠りにつくにはそう長い時間も掛からなかった。
〜4年前〜
夕方ごろの船上で、道夫は甲板で少し風に当たっていた。中ではバイキングで食べ放題という事で大盛り上がりだった。
「道夫!」
やってきたのは転校生であり、道夫の彼女である井ノ上るあ。転校早々一目惚れしてしまい、七夏達のお膳立てもあり晴れて付き合う事になった。
「ごはんたべないの?」
「いんや流石にお腹いっぱい…。るあこそちゃんと食べた?」
隣に来た彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。あうあうと撫でられている姿は本当に可愛らしい。
「やぁめぇてぇ〜」
そろそろ撫でるのも辞めてあげる。るあは少し顔を赤くして隣で身を寄せる。
特に話す訳でもなかったが、彼女といる時間はどんな事でも特別に思える。
「…ねぇ道夫」
「なに?」
「もし…私がいなくなっちゃったら…」
「そんな事にはならないし、そうだとしても必ず見つけ出してみせる」
るあの言葉を遮って言い出した。その言葉に偽りは無く、居なくなるなんて事は絶対にさせはしないと当時の自分はなんの疑いも無しに言ってみせた。
「道夫…」
彼女が抱きついてくる。抱きしめる道夫にこんな記憶は無い。
彼女が顔を上げるその姿は、酷く傷だらけであった。
「たすけて」
〜〜
「…ッ!!」
飛び起きた時には、寝る前と変わらない部屋の中だった。夢であるにも関わらず、背中には大量の冷や汗が出ていた。
「…結構寝てたのか?」
部屋の窓からは、沈もうとしている太陽も見えた。午後4時位だとユィンスにも表示されている。
「ミチオく〜ん。…何かありました〜?」
レイルスがノックして部屋に入る。別れる前と違ってやけに表情がほわほわしている。着替えてきたのか服装も可愛げな物になっている。
「…飲んでる?」
「こんなじかんから飲んではいませ〜ん〜。むふふ〜」
「あぁこら抱きついたら…!おぉわ!」
急に抱きつかれた道夫はベッドに倒れ込む。人間オフになるとこんな風になるのだろうか…。それにしても、いい匂いだ。
「ほら…せっかくですから話してみてください。あの子の事知りたいんでしょ?」
「…るあ、イウェルはこっちではどうだったのかな」
「えぇ…あの子はとっても優しくて、小さい身体に信じられない程の勇気を秘めていました。かつての私を助ける為に、『死』の中へ飛び込んでくれた事はいまでも忘れられません…」
「そこまでするのに、どこか抜けてて…」
「はい、あの子は本当に色んな事を惹き寄せてましたね…」
その後も彼女について多くの事を話し合った。些細な事であっても、言葉の中に彼女を感じられた。同時に感じたのは今までの間耐えられてきた、彼女のいない日々への寂しさだった。
「そこについては…私もミチオくんの気持ちがわかる気がします…。なんの知らせも無く、居なくなってしまいましたから…」
流れた涙をすぐさま拭う。こんな姿を見られるのは何故だか恥ずかしいと思えたし、今弱音を吐いてしまったら、そのまま引き摺り込まれそうな気がした。
「それで…ずっと言ってなかったけど、目的地にはいつ着く?」
「おぉ、その話もあるの忘れそうになってました。はいこれ、学生証と必要な物一式入りの鞄です。君専用の一点物なので大事にね」
どう見ても何も無いところから出てきた物を受け取る。鞄の中には多くの教科書らしき本が詰まっている。
「それで、アカリアですがもう着いています。本当ならここのごはん食べてからにしたかったんですけど…いい話も聞けたので予定変更です」
レイルスが杖をとり出し床を突く。辺りの空間全てが揺れる水面のように動き出す。余りの変化に道夫は目を瞑り、次に目を開けた時にはもう言葉も出なかった。
アカリアは洒落にならない。出港前にエイギンが言っていた通りだった。
「ここは元のイミュリーズに限りなく近い世界の裏です。拡張し放題なので好きにしてたらこうなりました。てへ」
…あれは断じて学校ではない、この手の物はホビリューツ魔法学校みたいな構造になる決まりでもあるのだろうか。
世界の裏に聳え立つのは、青空と真っ白な地に立つ巨大な城であった。
〜世界の裏に建つ学園〜
学城院が何故こんな所に建てられたのか。当事者であるレイルスはこう語った。
生半可な間者ならまず来れないし、入ってきたらすぐ感知できるし生徒達も安全あんしん。
という理由の他に、ここなら元のイミュリーズに影響なく好き放題できるから。という子どもみたいな理由もあったという。
その結果が、首都コーリュバンまるごと二つ分の学園であり、生徒達も余りの広さを持て余しているらしい。
尚、現在も空白を埋める為に様々な建物を魔法で思いっきり建造中である。




