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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
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第19話〜別れ//夜明けの雷鳴〜


 狼人間について、知っている事は本で得た知識のみ。鋭い牙や爪は勿論、毛に覆われた身体は刃を簡単には通さない。そして最大の武器は、二本の足から生み出される瞬発力からの超加速。


「グォウ!!」


 本の通り、かなりの速度で飛びかかってくる。だが道夫にはその動きが見えた。見えたのならば、避けられる筈だ。


瞬刹(アカラ)!!」


 道夫のいた場所を爪が通り過ぎる。彼は既にそこには居ない。

 狼人間の背後を取った道夫は機械弓にパーツを取り付け、弾となる薬瓶を装填する。


「鉄マッチに回転コショウ…!発射!」


 取り付けたクランクを回し、さながら手回し式の機関銃の様に放たれた薬品は狼人間に触れると同時に炸裂し極めて小規模な爆発を浴びせかけた。

 聞いた話によれば、獣というのは大きな音に強くはないという。偶然にも道夫の攻撃はその弱点を的確に突いていた。


「クルォアァ!」


 大きな音と炎が、狼人間を弱らせる。とにかく顔を守る為に両腕で顔を防いでいるが、道夫はそのまま攻め続けた。

 だがそんな攻勢は長くは続かない。ついに薬品が切れ、回転していた弾筒はその動きを止める。


 狼人間はその隙を逃さず、攻めに転じた。より早く、確実に殺すべく加速の構えを取り、その両爪を光らせていた。


〜〜


 今度こそ殺すと殺意を込めて構えるが、狼人間はその場に留まった。何故ならいつの間にか立ち昇っている霧に見覚えがあったからだ。


 自然現象ではないこの霧は『霧鏡(ウィムレー)』という魔法で生じた物だ。魔法の霧は対象に発動者との距離感を見誤らせるというそれなりに高度な魔法である。


(あんな凡人にできるとは思えなかったが…距離感がおかしくなるのなら)


 その距離感ごと貫いてしまえばいい。狼である自分にならそれが可能だという確信の下全力で加速を掛ける。

 殺った。と振り下ろした爪は道夫を確実に捉えていた。にも関わらず、爪は何の手応えも無く空を切るのみであった。


(い、いない!?)


「ドラゴンハッシュド砲…カチコチ氷山、発射!」


 道夫を通り過ぎた狼人間の背中目掛けて薬品を発射する。命中し割れた瓶から溢れる薬品は、道夫すら巻き込みかねない規模で冷気の爆発を引き起こした。


(バカな!?後ろからなど…!)


「あっぶなぁ…。コレ暫く使用禁止だ…」


 道夫が発動させた霧は『霧鏡』による物ではない。魔法を発動させられる程の力もない道夫は持ち込んだ薬品の数々を組み合わせ、擬似的な『幻』を発生させた。


 今や奴は氷と冷気に覆われて動きをかなり制限されている。持ち前の力や速さも、満足に動けなければ意味がない。


「三点指、換装。霜焼け蝶々、装填…!」


 装備を変え、狙いを定める。獲物は既にそこにはいない。動いた気配も、音も無しにその場から消え失せていたのだ。


『上から!!避けて!』


 リアーシェの声が聞こえた時には、爪の射程範囲内だった。

 回避は不可能。その凶刃が迫る時、結晶の中から彼女が唱えた。


堅璧(ゴライカ)!!』


 間一髪、彼女の詠唱が間に合い、陣壁の展開と道夫の守りを高めたことで致命傷は回避できた。

 しかし、狼人間の爪はその陣壁を貫いて機械弓のパーツを切り裂いた。


「うひぃ!?」


 こんな土壇場だというのに、我ながら変な悲鳴が咄嗟に出た。必殺の一撃を逃した狼人間はすぐさま次の一撃を加えようと爪を繰り出す。


瞬刹(アカラ)!」


 既になけなしの魔力で発動させ、再び充分な距離を取る。結晶の壁を背にして、壊れたパーツを切り離す。


『ミチオ、もういいよ…これ以上は危ないから逃げて…』


「逃げれたら…とっくにしてるよ…。あぁもう、魔法は次で最後かな…」


 自分でもなんでそこまで軽口が叩けるのか分からなかったが、兎にも角にも次のパーツと薬瓶を取り付ける。


「マジックハンド」と「エジソンコイル」。残りがこれだけだったことが、道夫の最後の一手を決定付けた。


「それに姉さん、1人でアイツ何とかなるの…?そんな姿で…」


『自分も知らなかったけど、魔法使えたからね…それがわかればあんなのすぐだよ』


「なら尚の事手出し禁止。それに…勝負はもう付いている」


 切り裂かれたパーツの周りは、液体窒素の様に狼人間の足もろとも凍りつき足裏を地面に縫い付けた。

 狼人間の足は完全に凍てつき、動きを完全に封じ込んだ。


「その薬は持ってる中で1番の劇薬だ。お前はこれで丸腰同然」


 マジックハンドの手が開き、狙いを定める。鴨撃ち同然、狙いは必中。

 相手も守りに入るが、この組み合わせならそれごと貫ける。


「兄妹なんて居なかった俺には、家族になってくれた姉さんとの思い出は大切な宝物だ…。だから」


『うん…分かってるよミチオ。それじゃあ…』


「いってきます」


『いってらっしゃい』


獣祓い(シャグナ)ッ!!」


 夜明けに響くたった一度の雷鳴は、遙か彼方にまで届いた様に見えた。この一撃はきっとパーツによる増幅効果だけでは無かったと、そう思えた。


〜朝、首都コーリュバン港〜


「おやおやミチオくん、随分早起きさんなんですね?出港はまだまだ先ですよ?」


 大急ぎで戻ってきた頃には早朝もとっくに過ぎ、雲一つない青空と太陽が大地を照らしていた。

 半ばからかう様に話し出すレイルスを前にした途端、道夫はその場に座り込んだ。緊張の糸が切れてしまったのか、身体の力があまり入らない。


「…どうやら、何か頑張ってきたみたいですね。ヘトヘトですが何やら顔付きも違ってカッコ良いです。それじゃあ…」


 レイルスは道夫に手を差し伸べて立ち上がらせる。また座り込まないように、しっかりと手を繋いでくれた。


「出港まで先生が良いお店を紹介しますよ。スゴイおいしいおやつ屋さんが出来てたんです。行きましょう〜」


 やけに上機嫌なレイルスを見て、道夫は何かおかしいと感じた。その対象は間違いなく、目の前の…。


「先生って…女性の方でしたっけ…?」


 あまりの違和感の無さだったが、道夫はつい突っ込んでしまった。その問いに対してレイルスはたった一言、道夫の口に指を当てて。


「えっち」


 それだけしか、答えてくれなかった。

〜ミチオ用機械弓とミチオ製薬〜


 道夫がある日、酔いまくったひんちちぺちゃぱい技術士の愚痴を聴いてあげた数日後、その本人から譲り受けた専用の逸品…らしい。それにしては安全性が足りていない。


 腕に装着し、付属パーツを取り付ける事で薬品を連射や爆発させる等、撃ち方を変える事ができる。


 ちなみに、道夫は使用する薬品を見た目や反応でそれぞれ自分だけの名前を付けて使用している。


 正式名称も確かにあるが、こっちの方が覚えやすいとそのままにした。製薬と名付けてるが特には作っていない。

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