第17話〜真実//夕日を駆けて〜
「その顔からして、きみはこの言葉を知っているね?……おっと失礼しちゃった。私はレイルス・アカリア・エムセウ、学城院の長つまり『校長先生』です。生徒たちからは学長やレイ先生、エムちゃんとか呼ばれてます」
にっこりとした笑顔で彼は自己紹介した。尋問というからには何かされるのかと思ったが、現状特にそういう事は無さそうだった。
そもそも彼は本当に何者なのだろう。校長と言っているが何の先生なのかも分からない。底の知れない表情や振る舞いは性別さえも曖昧にしていった。
「…ミチオ、ヒイラギミチオ」
「ふぅ〜ん。ヒイラギヒイラギ、確かこの字だったかな?それにミチオは…うん、これかもね。しっくりだ」
名前を聞いたレイルスは、空中にニホン語の漢字を描き出す。柊道夫と書いて満足したのか、字をすぐに消して向き直った。
「あはは、ごめんなさいね。私もこの言葉はまだ詳しくないから、つい。そろそろ本題にも入りましょうか」
本題という言葉に道夫はつい身構えてしまう。何もせず只立って話をしているだけなのに、何故こうも心臓が早鐘を打つのか。
「こほん、では聞きましょう。君はまず何者でしょうか?イミュリーズの人間でないことは分かっています。どうやって此処に流れ着いて来たのかも含めて、教えて貰えますか?」
「……分かった」
道夫は段階を踏んで、ニホンでの事を含めた自己紹介と今までの経緯を話した。3年前の事を伝えた時、彼の表情が険しくなった。
「3年前ですか…、私が見たのも時期が合いますね。となると、『サダメ様』が言ってた高い建物ばかりなあの世界とここは限りなく近い様です……」
「それについてはともかく、この力の事って……」
「まぁ、君も大体予想ついてると思いますが大体はそれで合っています。いやはや懐かしい…」
「それじゃあ、るあは…」
「『るあ』という方がどなたかは知りませんし、君があの子と如何にして接触してたのかも知りません。しかし、それは間違いなくかの英雄イウェルの物と同じです」
さも当然の様に彼は言い放つ。確かに色々と不思議な彼女ではあったが、まさか全く別の世界の人だったとは。
そして、彼は彼女を知っていると言った。
「わかったでしょう。今の君はデタラメみたいな力を持ちながら、その扱い方も止め方も育て方も知らない。一歩死にかければ」
その瞬間、首に何か刺さった…様に思えた。一瞬の内に放たれた魔法の刃は、道夫の首寸前で破壊される。首にはいつの間にか、彼女のマフラーが魔力の光を放ちながら巻かれていた。
「そうなっちゃうわけです。一種の防衛機構として、その力は確かに君を守ろうとするでしょう。害する者を完全に消し去るまで……」
いつの間にか四肢は魔法の鎖に繋がれて身動きが取れない。それ以前に、自身の意思で動かせないのだ。
それでも、今度は自分の意識だけはあるとはっきり認識できる。
「意識を失っていない以上、手綱は僅かな所で掴んではいる様ですね。こういう時に一番なのはズバリ深呼吸です。さぁやってごらん」
言われた通りにイメージする。何度か深呼吸を繰り返してやっと体の自由が戻っていく。ただそれだけなのに、意識が体に戻ると鉛の様に重い。
「い、今のが…」
「凄いでしょう?君がその力をちゃんと使える様になれば、きっとその彼女を探す事も容易になると思いますよ。そして、私達ならその方法を教えられます。二度目の機会はありませんから此処で決めてくださいね?」
道夫は直ぐに答えられなかった。色んな事が起きすぎた頭は得られた情報を上手く消化出来ていない。時間がどうしても必要であった。
「仮に話を受けたらどうなる……?」
「それ聞いちゃいます?大丈夫ですよ。君にもきっと損は無いですから。それじゃあまずは……」
そう言って彼は、あからさまに明るく楽しげに話を続けていった。
〜食事処『ネェリス』〜
「「学城院行きになったぁ!?」」
尋問…らしかった話を終えて、ガレンやエイギンと合流した道夫は経緯をそのまま説明した。ガレンとエイギンが飲み物を吹き出しそうになる程驚く。
「なんてこと…ミチオくんアソコ行っちゃうの…?うわぁ鳥肌立ってきちゃった…」
「そういえばセンセ、あそこの元生徒だったっけかぁ…」
「言わないでぇ…嫌な思い出なんだからぁ…ぶるぶる」
なにやら尋常ならざる事情があったのか、ガクブルが止まらないエイギンをそのままに、ルギエが道夫に耳うちする。
「ヤクセンね、アカリアでずっと1番下だったの。嫌気が差して途中で出て行って、ここで薬屋始めたってわけ」
「…だけど街1番って評判だよ先生?」
「最下位でも世間ではトップになれる世界だったってこと…。まぁそれとは別に才能凄いあったと思うよほんと、ほらよしよし」
「うぅ…大体、ミチオくんは私の助手なんだよ。そういう話だったなら私も入れてくれれば…。それに一人で話し合うのは怖かったでしょうに……」
「そんでミッチ、行くまでにはまだ数日はあるっしょ?なにするん?」
「…少し、行く所ができたんだ。そこへ向かう」
その後、皆と別れた道夫は1人外への門に向かっていた。そこで貸し出し用の鉄騎改めバイクを借り、乗り込んでエンジンを起動させる。
ニホンのとは違い動力もタイヤ部分すら魔法で出来ているが、何とか動かす事はできそうだ。
「よし、出発」
夕日が輝く草原を鉄騎が駆ける。規制でずっと行けなかった場所へ長い別れを告げに。
その場所の名は、リュカネ村。
〜レイルス、アカリア・エムセウ〜
学城院の校長先生。性別不詳の容姿と性格から生徒には色々と好かれている。
かつての英雄イウェルを知る1人であり、瞳の亀裂は彼女との縁だと本人は語る。
魔法を陣の作成と言葉の詠唱無しに放てる他、どんな規模でも関係なく過程の破棄を行える。
道夫の首筋に一瞬で刃を放てたのもこの力を持つが故である。
学長というだけあって、イミュリーズの知識は愚か『ニホン語』すら知っており、全く裏を見せてくれない。
性別不詳だが実はかなりの女装癖。




