第15話〜重なる背中//始まる光〜
「ルギエさん!」
「俺達が止めておく!ミチオはルギエを治療だ!」
残りの2人が大鬼に向けて走り出す。道夫も彼女の下へ駆け付け、手にした治癒の魔晶塊を発動させる。
彼女の傷からは血の代わりに炎が溢れている。空間ごと斬られたというのに表情には余裕もあった。
「いやぁやられた…あんなのしてくるとは思わんかったし、装甲陣あってもこれかぁ。」
「言ってる場合ですか!もう!」
「大丈夫大丈夫。この状態なら死にはしないって」
治癒の力で傷口はすぐに塞がった。彼女はすぐに立ち上がって戦闘に加わろうとするも、ふらついた体を道夫が支える。
「ほら余り無茶を…」
「そう言ってる場合じゃないっしょ…。2人だけじゃ勝てないから…」
戦っている2人の方は、大鬼の刀をイオレルが操っている蒼炎の腕がへし折っていた。しかし、得物を失った相手であっても、中々攻め切れていない。
未だ周辺の煙幕も濃く、彼らの攻めも苛烈だ。それでも尚、大鬼は攻撃を寸前で回避し時に籠手で受け流しているのだ。
(まずいな…これじゃ煙幕も無い同然かよ)
『心眼』とでもいうのだろうか。煙と臭いで感覚の一部を使えなくなったのに、奴にはこちらが見えているのだ。残った耳と染み付いた勘が体を動かしているのだろう。
とにかく、このままではどんどん不利になる一方である。一刻も早く魔晶塊の切り出しを……。
「きゃぁ!!」
前方からイオレルが吹っ飛ばされてくる。大鬼もいつの間にか得物を変え、異なる二本の剣を二刀流の様に構えている。
「グォォォォ!!!」
「ぬあぁぁぁ!!」
ガレンと大鬼の剣戟は、洞窟内で吹き荒れる暴風雨のようだ。大鬼の乱舞を受け流すように盾と剣で弾き、何とか反撃も加えようとしている。
1回2回とあっという間に打ち合いは続き、16回に渡る連撃になって綻びは生まれた。
大鬼の剣が唐突にガレンの居たところをすり抜けた。驚いたのか急いで後退するも、ガレンは既に懐に入り込んでいた。
「これでぇ!!」
鎧から噴き出す魔力の加速を加えての刺突は、大鬼の胸元に根元まで突き刺さった。
間違いなく心臓があるであろう場所を貫き、黄金色の何かを血のように流しながらもそいつはまだ生きていた。
「ォォォ!!」
地を揺らす程に叫んだ瞬間、流れていた黄金は更に増え、その中から一振りの剣が奴の手元へ現れた。
それは黄金の剣を握る手さえも侵食する『魔剣』その物であった。
「よくもまぁそんな隠し玉まで…!危ない!」
魔剣が振り下ろされ、糸の様な黄金が襲い掛かる。あらゆる物を切り裂きながら進む黄金の刃から道夫を庇うように、ルギエ達三人が陣を展開して押し留める。
「な…なんで…」
『また』誰かが自分を庇って危険に身を置いていく。展開している陣も既に消えかかって、絶体絶命な状態にも関わらず。
「言ったかどうかは…忘れたが」
「ミッチはほんとにほっとけないから…」
「ミチオ、あなたは今死んではいけない人。私にはなんとなくわかる」
誰もが揃って似たような事を言う。自身よりも道夫という果てしなく弱い男を守ろうとしている。無論、道夫自身だって死にたくはない。それでも……。
『だいすき。それだけでも、言えてよかった』
『ありがとうミチオ、大好きになってくれて』
もう自分のせいで、誰かが悲しむのは、苦しむのは…、死ぬのは!!
「もう…たくさんだ!!」
ヤケクソに、がむしゃらに陣へ手をかざす。自分の力ではまともに陣を保つことすらできない。全くの力不足だがそんなことは頭にない。
「ミチオ!?」
かざした手が『変わる』。黄金に変わる痛みも、自身の魔力が激流の様に暴れる痛みも全てが混ざって最早よく分からなかった。
只々自分の心を信じて、有るだけのチカラを振り絞る。
「光れぇぇぇぇ!!」
首に巻いたマフラーが桜色に輝いて、道夫の意識はそらに呑まれる様に真っ白に溶けていった。
〜〜
一体、なんだあれは。ワタシは幻でも見ているのか。全てを斬る黄金の波に消えるニンゲンどもを見ているはずではないのか。
ならばなぜ、あのニンゲン共は生きているのか。そして、あいつから流れ、あふれ出す魔力の激流は何だ。アレは最早ニンゲンではない。
既に周囲の黄金は掻き消え、ワタシの体もじき黄金に変わり果てるだろう。しかし体は、血は、命はこの上なく滾り、もとより少ない魔力は今まで以上に体を巡っていく。
「クォォォォォォ!!!」
雄たけびと共にワタシは駆ける。一人の王として、戦士として、あの怪物だけは絶対に今ここで殺さねばならない!
魔剣の力を全て身体の強化へ、黄金に血が混じり迸る。
一気に侵食が進む中、全力で加速目の前にいる怪物を切り伏せようとする。
しかし全力の一撃は奴の体はおろか、陣壁にすら届く事は無かった。
「……」
何も言わず、奴は指を上に振る。その動作は魔法の発動ですらないというのに、ワタシの右腕はたやすく切り離された。
「グルルルォォ!!」
まだ、まだ倒れるわけにはいかない。切り離された右腕を掴み、切られた部分諸共侵食させ無理矢理くっつける。それによる激痛も無視して突撃する。
しかし、その時にはもう洞窟すべてを覆う魔方陣が、ワタシの敗北を決定づけていた。
全ては一瞬だった。何もかもを覆う様な魔法陣から光が溢れ全てを白く染める。衝撃も痛みもない、むしろ暖かさを感じたその光は、洞窟の奥地であったにも関わらず青空の光が照らす空洞へと変貌させた。
「ミチオ…お前は一体…」
彼は何も言わず振り返り、まるで別人になった様な瞳でガレン達を見つめていた。
〜ゴドール〜
『死惑う黄金』という二つ名を持つ『魔剣』の一つ、体内に住まわせる事で初めて使用可能になる。
名前を唱える事で体外に溢れ出し、黄金の剣へと形を変える。使用できる力は液状化した黄金を意のままに操る他、膜の様に展開して盾にもできる。
しかし、発動するだけで体を黄金へと変化させていく為、短時間の使用でなければ所有者の安全は保証できない。




