第九十一話
一日遅れてしまいましたが、あけましておめでとうございます!
この作品を少しでも楽しんで頂けるよう、今年も頑張っていきますので、よろしくお願いします。
私が恋心というものを自覚してから、一週間ほどが経った。しかし、未だにその時の衝撃が心の中に残っている。そのせいで、一人で千智さんの記録をシェーロン語に直している時も、急にそれを思い出して、ペンが止まってしまう。そして、ペンを放り出して机に突っ伏す…、ということが非常に多い。何なんだろうこの状況…、と自分でも思うんだけど、思い出すとどうすればいいか分からなくなって、結局そうなってしまう。お願いだから誰か私に、それの解決策を教えてほしい…。そのせいで、なかなか翻訳が進まないんですけど!あまり長引いてしまうとメアリさんに申し訳ないし、三か月で花を育てるという課題もあるから、なるべく丁寧に、且つささっとやりたいんだけど…。そうは思っているのだが、上手くいかないのである。今も、予定より進んでいない分をやろうと思っていつもより少し早く起きたのに、そんな状況になってしまったせいで結局書けていないという…。早起きした意味がないな、とは思うけど、思い出しちゃったらどうにもならない…。何でそういう時に限って思い出しちゃうかな、私の頭は…。とりあえず、今のところ、ルイと一緒にいる時に思い出さないからいいけど、もしそうなったら非常に困る!!そう思いつつ私は机に頭を乗せていた状態から顔を上げた。そして、カーテンの隙間から見えた違和感を感じるものに首をかしげた。
「……?何か白いような?何だろう」
そういえば私、今日はまだ、カーテンを開けていなかったんだった。私は窓の外の白い何かが気になって、カーテンを開けた。…?!!その瞬間、絶句した。だって、外が全部真っ白!!そう、雪が積もっているのだ。いつの間に…。昨日は確かに寒かったけど、綺麗な青空が広がっていたのに…。もしかして、夜の間に降ったのかな?私が元々住んでいた場所は雪が少なかったので、嬉しい。すごく嬉しい!だって、元の世界では、一年に一度、降るか降らないかくらいだったのに。こんなに積もることなんて、滅多になかった。…遊びたいなー。…だけど。そう思って私は机の上の紙に目をやった。…まだ訳が終わってないんだよね。もうちょっとやった方がいいのだろうけど…。数秒迷ったが、私は外に行くことにした。ただ単に、誘惑に負けた。なので、適当に言い訳をする。…どうせ進んでいなかったし、気分転換もたまには必要だよね、うん。まだ少し時間はあるし、遊んだ後でまた書けばいい…はず。とりあえず今は遊びたい!!そう思って上着を取ったその瞬間だった。コンコン。扉がノックされた。…遊ぶ前にルイが来てしまった。ということは、遊べない!遊びたい、って言ってもダメだろうな…。ちょっとがっかりしつつ、私は扉を開けた。案の定、そこにはルイがいた。
「おはよう。雪だね。というか、どうしたの?わざわざ、寒いのに」
「おはよう。寒いから起きてこないんじゃないかと思って起こしに来たというか、結花が雪で転びそうで怖いな、って思ったというか…。そんな感じだ」
そうですか…。ありがたいけど、信用されていないようで微妙に複雑な…。確かに、この前、噴水のところで思いっきり落ちかけましたけど!でも、それは仕方がなかったというか…。って、そんなことは今はどうでもいい!というか、このことについては早く忘れよう。あれは、ただの黒歴史でしかないし。
「ご心配ありがとう。それなら、転ばないように気をつけるね!それにしても、ここって毎年、こんなに雪が降るの?雪合戦できるし、雪だるまも作り放題だね。いいなー。私の住んでたところ、全然降らなかったよ」
「は?!お前、どんなところに住んでたんだよ。…まあ、でも、温暖なところなら降らないだろうな。ここら辺はそこそこ標高が高いから、冬は大量に雪が降る。下手すると、人の倍くらいの高さまで積もることもあるくらいだし。それに、この地域では初雪が降るのが、冬が来た、って基準になるからまだまだ寒さも雪もこんなもんじゃない。…てか、その、雪だるまって何だ?あと、雪合戦…?」
…!?今度は私が驚く番だった。こんなに雪が降るのに、まさか雪だるまを知らないなんて。楽しいし可愛いのにな…。そう思いつつ、私は外に出て説明した。
「雪だるまって言うのは、二つ、雪を丸く固めたものを作って、それを重ねるの。それに、バケツをかぶせたり、木の枝で腕を作ったり。楽しいよ!あ、あと、雪合戦っていうのは、雪の玉を投げて遊ぶんだ」
「子どもかよ……。ってか、雪だるまってのは分かったけど、雪合戦ってのは、どこに雪を投げるんだ?何か的でも作るのかよ?」
それだと、ダーツみたいな…。うーん、実際にやった方が早いかな?あれ、でも、そうすると、誰に投げるべき?自分で自分に投げることはできないから…、とすると、ルイだよね。でも、投げたら怒られそう。…警告しておいたら、とりあえず大丈夫かな?私は雪の玉を作った後でルイに言った。
「ルイ、ちょっと冷たいかもしれないから、念のため注意しておいてね」
「は…?…結花、まさかお前」
ちゃんと警告した後で、雪の玉を投げる。それは、見事にルイに当たる。わーい!これで雪合戦の説明になった…よね?
「冷た…っ!!急に雪投げるなよ!!ただでさえ寒いのに、更に寒くなるだろ。ってか、これが雪合戦?結花、これをやりたいのかよ?…子どもだな」
まさか、二回「子ども」って言われるとは…。ひどくない?確かに、大人になっていくにつれてやらなくなるだろうけど、…ひどくない??どうせ、私は子どもですよー。心の中で開き直ったが、ちょっと悔しかったので、もう一回ルイに、今度は思いっきり雪玉を投げた。…が、あっさり避けられる。学習された…。と思ったら、ルイはいつの間にか雪玉を作っていて、投げてきた。急なんですけど…!?そのせいで、当たった。確かに冷たい。というか、ルイがちょっと得意そうなのがすごく悔しい!しかも、何故か大量に雪玉を作ってるし。…もしかして、雪合戦にはまった?子どもだ、とか言ってたの、どこのどちら様でしたっけ?
「これで、もし結花がまた投げてきたら対抗できるな。しかも、大量に作っておいたから、集中攻撃できるし。もう一回投げてきてもいいけど、どうする?」
何故か煽られた。ルイ、完全にはまってるな。というか、作戦を立てられても困るんですけど。しかも、その作戦がえげつない。こっちは何もまだ、対抗措置がないのに、ひどくない?それに、色々とずるいと思う。でも、久しぶりに雪で遊びたいし、あえて煽りに乗ろうかな!そう思った私は雪玉を素早く作って投げた。…そこからしばらく、私たちは雪合戦で遊んでいたのだった。
雪で遊んだ後、私は一旦小屋に戻って、上着を乾かすことにした。思いっきり雪に当たりまくったので、すごい濡れている。でも、動きまくったせいか、あまり寒くない。…それにしても、ルイの攻撃、容赦なかったな。というか、初めてとは思えないほどの上手さでちょっと怖かった…。しかも、私が投げたのが当たるとけっこう悔しがってたし。けど、その分私も大量に雪玉を当てたから、まあいいか。そのことを思い出して私は少し笑ってしまった。また遊びたいな、と思いつつ私は建物の方に行くことにした。さっきは曇り空だったのが、再び雪が降ってきていて、この後も更に雪が積もりそう…。そしたら、雪だるまが大量に作れそう。あ、あと、かまくらも作れるかな?それと、雪うさぎも作りたい…。色々と作りたいものを想像しつつ、私は庭を突っ切った。建物に入ってから、思い出す。…そういえば、植物置き場の花、大丈夫かな?さすがに雪だし寒いかな…、と気になったので、行ってみる。すると、そこにはルイもいた。ここにはいないと思っていたので、ちょっとびっくり。ルイも、私に気付いて少し驚いているようだった。部屋の中の植物は、とりあえず大丈夫そうだけど、ルイが見ていたのは、種の方だった。この前、芽が出た後、それは少しずつ成長していた。ほんの少しだけど…。何だかんだあと二か月を切っているから、大丈夫か心配。ルイも同じことを思っていたらしく、言った。
「これから、更に寒くなるだろうし、成長速度が遅くなるだろうな…。花が咲いちゃえば、かなり長持ちするからいいと思うけど…。どうなるか、分からないな」
その瞳は、どこか不安そうで…。私は何て言ったらいいか分からなくなった。けど、私の返事を待たず、ルイは更に言葉を続けた。
「何かできることがあればいいけど、まだ種類が分からない。だから、寒さよけするくらいしか、できることがない。それしかできることがないって、俺もまだまだ未熟だ、って思う」
「そんなことない!この世界に来てから、私、ルイに色々なことを教えてもらってるよ。お花に関する知識もそうだし、それ以外にも、文字とか、この世界についてとか、色々…。だから全然、少なくとも私よりは未熟じゃないよ!」
私は思わずそう言った。ルイは、その言葉に何故かびっくりしていたけど、やがて笑って言った。
「そうか?…でも、結花だって未熟じゃないと思う。時々危なっかしいけど、基本的にはちゃんとしてるし。それに、俺の知らないこととか色々知ってて、そういうのに助けられることもけっこう多いし…」
……あれ、もしかしてルイ、今、本音言った??もしかしなくても、そうだよね?!私がそんな気持ちでまじまじとルイを見ると、ルイもそのことに気付いたらしく、口元に手を当てた。…けど、言ってしまった後なので、もう遅い。そして、慌ててるのが少し可愛いな、と思ってしまった。私は思わず小さく笑ってしまった。それを見て、ルイが少しむっとしたような表情になる。
「おい、結花、笑うな。ってか、どこにも笑う要素ないだろ。何で笑ってるんだよ…」
「ごめん、でも、ルイが何か可愛いな、って思ったのと、嬉しかったから。…そんな風に思ってくれてたんだな、って」
「可愛いとか言うな!!あと、今の言葉は速攻で忘れろ。一秒で忘れろ。あー…、口が滑った…」
催眠術、もしくは魔法がない限り、一秒は無理だと思う…。でも、思いがけず本音が聞けた私はそのことが嬉しくて、しばらく笑ったままだった。そして、ルイに更に文句を言われたのだった。
読んで下さり、ありがとうございました。




