第九十話
何とか、2020年になる前に間に合いました…。
第九十話です。
帰り道、私はとぼとぼと来た道を戻っていた。…けど、まっすぐ帰りたくないな。ルイにどんな顔して会えばいいのか、さっぱり分からないのだ。というか、今会ったら、絶対に混乱することになる。なので、もうちょっと落ち着いてから戻ろう、と思ったのだ。しばらく歩いていると、噴水の広場にたどり着いた。子どもたちが遊んでいる。…と、そのうちの何人かが私の方へと駆け寄ってきた。誰だろう、と思ったが、よくよく見たら、フィオナちゃんとその仲間たちだった。今日も相変わらず、仲が良さそう。そして、寒いのにものすごく元気そう…。すると、フィオナちゃんが話しかけてきた。
「結花お姉ちゃん!こんにちは。…あれ、ルイお兄ちゃんは?一緒じゃないの、珍しいね!」
「あー…、ルイは今、お店にいると思うよ。私は、ちょっとした用事みたいなものがあって植物屋さんの人のところに行ってたんだけど…。今、戻るところだよ」
と、説明していると、子どもたちのお母さんたちがそれぞれ、自分の子どもを呼んだ。フィオナちゃんたちは私に手を振って、お母さんたちの元へと駆けて行ってしまった。やっぱり、すごく元気だな…。しかし、子どもたちを見送った後、噴水広場は急に静かになってしまった。落ち着けるから、いいのかもしれないけど…。私は噴水の縁に腰かけた。周りに誰もいないせいか、噴き上げられた水がパシャパシャと下に落ちていく音が大きく、はっきりと聞こえる。お店に戻らないとな…。とは思うのだが、立ち上がる気になれないというか、何というか…。ちゃんと時間を決めておかないと、私、いつまでもここに居座っていることになりそう。…よし、五分くらいしたらお店に戻ることにしよう。が、そう決めた瞬間、さっきのアケビさんたちとの会話が一気に甦ってきた。あまり気にしないようにしよう、とは思ってるんだけど、なかなか忘れることができない…。それだけ、衝撃的なことだったから…。でも、こんな感じで色々考えこんでる私って私らしくないような気がする。それと、前に、ジェシカが人の話を聞くのはいいけど、自分の話をするのは…、って言ってたけど、その意味が今、ようやくちゃんと分かった。そんな感じで、しばらく私の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。少し落ち着いた後で、真面目に考えることにする。…人のことを好きになる、ってことは、普通に考えると、その相手と恋人になる、とかそういう話になる…よね?で、そうなるためにはどうするかというと、告白とかするわけで…。あれ、でも、恋人とは一体…?色々考えているうちに、混乱してきた。もしかして、ここで考えるのって、逆効果だったかな。と、今さら思ってしまった。
「でも、この感じだと、お店に戻った後も、考えちゃいそうだな…。恋って厄介すぎる…」
そもそも、仮に私がルイに告白したとして…。どんな反応をされるかシミュレーションしてみることにする。うーん…。一番あり得そうなのは…、聞かなかったことにして、スルーされそうな気がする…かも。というか、絶対にそんな気がする!!その場合、私は心に大きなダメージを負うことになりそう。もしそうなったらどうしようかな…。そして、その次にあり得そうなのは、反応なし、とかかな?時々、私が何か言った後に固まる時があるし、これもけっこう、可能性が高いと思う。そうなると、気まずくなるな…。一番回避したいパターン、これかもしれない。逆に、もし何か反応されたとすると、一番考えられるのは、何言ってんだ、みたいな感じで怪訝そうな表情をされる…かな。まあ、でも、確かに、急に告白されたら普通そうなるよね!何の前触れもなく言われたら、びっくりしそう。それに、恋愛とか全く考えてなかったような私に告白されたとしたら、絶対に戸惑うよね。…もしくは、相手にされないかもしれないかな?それはそれで、何か嫌だな…。と想像していたら、色々怖くなってきた。いっそのこと、あっさり振られるのが一番いいかもしれない。その方がむしろ、気が楽だと思う。
……というか、何で勝手にシミュレーションしてるんだ、私。そもそも私、告白するかどうかすら決めてないのに、何でこんなこと考えてるんだろう?自分でも意味が分からない。しかも、振られる前提という…。慎重と言えば、聞こえがいいのかもしれないが、悪く言うと、意気地なしなんだろうな、私。…何だか、頭の中がぐるぐるしている。これ、下手すると、数学の教科書の問題とかよりも難しい問題かも?なんて思ってしまった。…でも、誰かを好きになる、ってつまり、こういうこと、なのかな?誰もいないのをいいことに、私は小さくつぶやいた。
「私は……、ルイのことが………」
「俺が何だって?」
突然、そんな声が聞こえた。え…、ちょ、ちょっと待って。本当に待ってほしい。ルイ、何でここにいるの?!私が何を言おうとしたのか、不思議に思っているようなな表情をしている。え…、さ、さっきまで、誰もいなかったよね?!本当に何でここに!?予想外すぎるんですけど!というか、今の、絶対に聞こえてたよね!?良かった、途中で切っておいて…。そうじゃないと、予期せず告白することになってた…。そしたら、さっき考えていた四つのうちのどれかになってしまうところだったよね、きっと。私は動揺したまま慌てて立ち上がる。そして、無意識のうちに後ろに下がろうとして、何かが足にぶつかり、ぐらりと体勢が傾いた。…そこで、気付く。そういえば私の後ろには、噴水があったんだ、って…。あー、もう、焦ってるからって何やってるんだろう、私?!!このままだと、後ろに倒れる…!倒れたらきっと、びしょぬれになってしまうだろう。そう分かっているんだけど、前に体勢を戻せない。このままだと…。私は濡れるのを覚悟し、ぎゅっと目を瞑った。…が、冷たくならない。その代わり、右手がちょっと痛い。
「……え?」
私が目を開けると、さっきまで、少し離れた場所にいたはずのルイが、目の前にいて、私の右手を掴んでいる。そのおかげで、私は噴水の池に落ちずに済んでいた。もしかして、助けてくれた…?ルイはそのまま私をぐいっと引っ張った。おかげで、濡れないまま、元の姿勢に戻ることができた。
「ようやく見つけたと思ったら、何してるんだよ…。良かったな、落ちなくて。落ちてたら、絶対に悲惨なことになってたな、お前。今日は特に寒いし」
「う、うん、ありがとう、ルイ。助かった」
すると、ルイは私の方に手を伸ばし、軽く髪に触れた。…?!
「毛先、濡れてる。後でちゃんと乾かした方がいい。ってか、どうしたんだよ?俺を見るなり、慌てたように立ち上がって、しかも噴水のところに倒れそうになって?何かあったのか?」
ルイが心配そうにそう言った。でも、言えないんですけど。ルイのことを考えてたら、当の本人がやってきたのでびっくりしました、とか絶対に言えない!!!もし言ってしまったら、私、即ここから逃げるんだけど!!あー、でも、何て言ってごまかそうかな…。けど、ごまかしてもルイってそういうとこに敏感だから、すぐにばれそうな気がする。
「えーっと。考え事してたところに急にルイが来たからびっくりしたというか、そんな感じ」
事実の半分を伝えると、ルイは納得したようだった。しかし、すぐに不思議そうな表情になって言った。
「じゃあ、さっきは何て言おうとしてたんだ?俺の耳がおかしくなければ、お前、俺の名前言ってたよな?何だったんだよ?正直、そっちの方が気になる」
何で?!私は逆に、一番気にしてほしくなかったところなんだけど。あー、どうしよう!今はまだ、自分の気持ちを伝えたくない!まだ、混乱している最中だもの。それに、関係が気まずくなるのも怖い。だけど、どうやってごまかそう?ごまかす言葉が全く思いつかないんだけど。うーん、何も思いつかない。よし、こういう時は!
「秘密!少なくとも、今は教えない!ご想像にお任せします」
そう言ってさっさとお店に戻ろうと思った…のだが、ルイに引き戻されてしまった。そういえば、さっき助けてもらった時のまま、手を掴まれていたんだった…!ついてない…。というか、いつまで掴んでるつもりなんだ…。そのせいで逃げられないんですけど?!
「想像に任せる、って…。逆に怖いな。もしかして、何か悪口を…?」
何故か急に不穏な雰囲気になった…!というか、何でそうなった?雰囲気が怖すぎるので、私は慌てて否定した。
「全く。というか、わざわざ悪口を一人で口に出すことってない気がするんだけど…?」
「…じゃあ、何を言おうとしてたんだ?」
結局そこに戻っちゃった…。さっき秘密だって言ったばかりなのに…。そんなに気になるのかな?あー、どうしよう。絶っっ対に言いたくないんですけど!答えられる範囲で言うことにする。
「はっきりとは答えられないけど、少なくとも、悪口ではないよ。そのことについては、今は、待っててくれると嬉しい」
「…そうか。じゃあ、いつか教えろよ」
私はうなずいた。…あ、でも、ということは、私、いつかルイに告白しないといけなくなる???とりあえず、ごまかすことを考えていたせいで、そこまで考えが回っていなかった。…後で考えよう。
私たちはお店に戻ることにした。どうやらルイは、私がなかなか帰ってこないから、植物屋さんまで行ってみようと思ったらしい。しかし、途中でフィオナちゃんに会って、私がここにいると聞いたので、ここに来たそうだ。だから急に現れたのか…、と納得する。それにしても、本当に心臓に悪かったな…。まあ、でも、結局お店に戻ったら会うことになっていたんだし、そこまで気にしないことにした。
「そういえば、アケビ、何で急に結花のことを連れて行ったんだ?」
「あー…。花を使った新しい商品を作るから、ってことで、私に案を出してほしかったみたい」
「そんなことかよ…。ってか、何で説明しなかったんだか…。目的が分からなくて、一瞬誘拐かと思った。でも、よくよく考えたら堂々と誘拐する誘拐犯なんていないだろうな、って思ったからその線はすぐに消えたけど」
そこまで考えてたんだ…。というか、よくそこまで考えついたね!?私はそのことに少し驚きつつ、歩いていた…、のだが、不意に気付いた。…まだ、手を繋いでいるままなんですけど。これって、このままでいいのかな?!でも、ルイが全然気付いていないんだよね!!これって、指摘してもいいのかな?
「…あの、手はこのままでいいの?」
言うだけ言ってみる。すると、ルイは一瞬立ち止まった。しかし、すぐにまた歩き始める。
「あー…。どっちでもいいけど、結花がまたバランス崩しそうで怖いから、しばらくこのままで」
複雑な答えが返ってきた。嬉しいような、うら恥ずかしいような、そんな気持ちになる。…きっと、これも、私が恋をしているから…。
今年も今日で終わりですね。そのことに驚いている立花です…。年越しまであと少し。
皆様、八月から始まったこの物語を読んで下さり、本当にありがとうございます。来年もまた頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
読んで下さり、ありがとうございました。よいお年を。




