第八十七話
昨日、投稿できず、すみません…。今後も、時々空くことがあるかもしれません。なので今までよりも、話の進みがゆっくりになると思いますが、今後も読んでいただければ幸いです。
私はその日の朝、お店が開店する前のちょっとした時間に、ぼーっと種をまいた箱を眺めていた。眺めていたら、何か変かが起こるのかって言われたら、そんなことはあるはずないんだけど、どうしても気にしてしまう。理由は単純。種をまいてから三週間以上経ったのに、全然芽が出てこないのだ。もしかして、種が消えちゃったのかな?って疑いたくなるくらい。まあ、今の時期の気温とかを考えたらなかなか芽が出ないのは当たり前なのかもしれないけど、三か月で花が咲く、って話だから、そろそろ芽が出てもいいんじゃないかな、と個人的には思ってる。でも、昨日、お店が終わった後でじっくりと眺めていたら、ルイに呆れられた。
「そんなことしてても、芽は出ないだろ。それで発芽してたら、とっくに俺もそうしてる」
と言われてしまった。確かに、ルイの言う通りなんだけど、気になるものは気になるのだ。だって、期限内に咲かなかったら、ルイは…。…それを想像すると怖いので、私はぶんぶん首を振って、その考えから離れることにした。前向きに考えよう!と思ったのだ。…しかし、ちょうどその時、私の真後ろから誰かが笑う声が聞こえてきた。…いや、誰かと言っても、この建物の中にいるのは、私以外、一人しかいない。私がぱっと後ろを振り返ると、そこには予想通り、ルイがいて、すごく笑っていた。どうやら、私が首を一人でぶんぶんしているところを見ていたらしい。すごく恥ずかしいんですけど…!私はじとーっとルイを見た。
「ちょっと、ルイ?いるなら一言くらい、声をかけてくれないかな?心臓に悪いのと、恥ずかしいんだけど」
「悪い悪い。何してるのかと思って覗きに来たんだけど、全然気付かないからちょっと観察してみようかと思ってな。面白いもの見られたから、声かけなくて良かった。はははっ、あー、面白かった」
悪い、って言いつつ、全然反省してないよね?!めちゃめちゃ笑ってるし!それに、自分でもよく分からないけど、何か悔しい…。私がもやもやしていると、ルイはようやく笑いを収めた。そして、言った。
「よくそんなに箱を見てて飽きないな?ある意味、すごいと思う。何だったら、小屋の方に持ってった方がいいんじゃないか?そしたら、小屋にいる時も見られるけど?」
持って行かないです!!さすがにそこまでは私だってしないよ?それに、私からすると、全く期限のこととか気にしてない様子で、普段通りに見えるルイの方がすごい気がする。どんな時も平常心、みたいな感じなのかな。私がそんなことを考えていると、ルイが、そろそろ開店だから、と、部屋を出て行ってしまった。私も、手伝わないと。最近、風が強いし、お店の前の道を箒で掃いた方がいいかも。私も部屋を出て、ルイの後を追いかけた。
箒で葉っぱを集めていると、急に突風が吹きつけてきた。そのせいで、せっかく集めた葉っぱがバラバラになってしまった。何なの、この風…。邪魔しないでほしいんだけど。風に文句を言ってもどうにもならないけど、ついそう思ってしまう。だって、そのせいでなかなか掃除が終わらないんだもの。でも、そのことが逆に悔しいので、私は必死で葉っぱを集めていた。二十分ほどして、ようやく葉っぱ取りが終わる。綺麗になったので、満足した。でも、相変わらず風が強いから、午後になったらもう一回掃除した方がいいかな…?そう思いつつ、お店に入ろうとしたその時だった。不意に誰かに声をかけられた。
「結花さん?お久しぶりですね。お会いするのは、お祭り以来でしょうか?寒い日が続いていますけど、体調は大丈夫ですか?」
「あ、メアリさん。お久しぶりです。寒いのは好きじゃないですけど、元気ですよ。どうしましたか?…あ、お話を聞く前に、中へどうぞ。寒いですよね」
メアリさんはお礼を言って中へと入っていった。すると、ルイがびっくりした表情になった。確かに、メアリさんの来訪ってけっこう急だから、びっくりすること、多いかも。メアリさんはルイに、にこやかに挨拶して、持っていたかばんから、何か紙の束を取り出した。…これが、用件なのかな?というか、何の紙なんだろう?書類…なわけないよね。書類だったら、何の書類なのかよく分かんないし…。とすると、一体これは??ルイも同じことを思ったらしく、メアリさんにこう質問した。
「これ、何ですか?ってか、ここに来まくってて大丈夫なんですか?あの人に勘付かれたら…」
「大丈夫ですよ。ちゃんと休みの時に来ているので。…それでは、本題に入りますね。この紙束は、ついこの前見つけたものです。…私が、前に、千智からもらった物で…。ですが、ここに書いてある文字がさっぱり分からなくて、今まで読めなかったんですよ…。しかし、以前、結花さんが、千智の書いた字を読んでいたので、もしかしたら、結花さんに見てもらえば分かるかな、と思いまして…」
そう言ってメアリさんは私にその紙束を渡してきた。私はそっとそれを受け取る。メアリさんが読めない、ってことは、つまり、日本語…、なのかな??その場合、私はシェーロン語に翻訳しないとダメだったりするのかな…。私、未だに上手くシェーロン語を書けないんだけど。ちょっと不安に思いつつ、私はぱらりと一番上の紙をめくってみた。二枚目の紙には、予想通り、日本語が書かれている。タイトル、かな?えーと…。『ヴェリエ国中央部の植物分布図』??どういうこと?何で植物の分布図があるんだろう?というか、これ、千智さんが調べたもの、だったりするのかな?とりあえず、次の紙を見てみる。そこには、まるで植物図鑑に載っているような花の絵と、どこかの地図が描かれていた。小さく花の説明についても書いてある。かなり、本格的だよ、これ…。千智さんは一体、何の為に書いたんだろう??私が考えていると、いつの間にか私の近くにやって来たルイが、横からその紙を覗き込んできた。
「で、結局何が書いてあったんだ、これ?……もしかして、花と、ヴェリエ国の地図か?」
「そうだよ。これは、ヴェリエ国の中心部の植物についてまとめてある本みたい。何でこれを書いたのかは知らないけど…。一体、何でだろうね?」
「…そういえば、千智は休みになると、よく、街に行って植物採取とかしていました。もしかしたら、それをまとめたのかもしれないですね…」
ふと思い出したかのように、メアリさんがそう言った。植物採取か…。つまり、これは、千智さんの、ヴェリエ国の花記録なのかもしれない。いいな、私もやってみたい!いつか、千智さんみたいにシェーロン国の植物分布とか作ってみたいな。絶対、楽しいよね!しかし、そこでルイが、私の心を読んだかのように言った。
「もし、結花が同じことしたら、絶対にすぐに迷子になるな。止めといた方がいいと思う」
…!?ひどくない?確かに、ここら辺の道、全然知らないけど、地図があればたぶん、大丈夫だと思うんですけど!というか、何で私の思ってることが分かったのかな…。すごく謎なんだけど…。花の記録って楽しそうなのにな…。
「ふふ、結花さん、残念そうな顔をしていますけど、千智も中央以外の地域についてはあまり知らなかったみたいで、中央以外のところに出かけることはほとんどありませんでしたよ。ちゃんと道が分かっていないと、どこが危険かが分からないですから。なのでこの地域に慣れたら、やってもいいと思います。…まあ、どちらにしろ、ルイさんは心配するでしょうけれども」
メアリさんが意味深な笑顔を浮かべてそう言った。ルイが慌てたように、「メアリさん?!」と言っていたが、メアリさんは全く気にせず、くすくすと笑っていた。…???意味がよく分からない。でも、確かに、この前ルイに無茶するな、って言われたし、その面に関して、もうちょっと信頼を得てからの方がいいのかな?うん、そしたら、やってみようかな!…と、そこで私は気付いた。記録。花の、記録……。もしかして、千智さん、花の種に関する記録も残してるんじゃないかな?小屋のところに日記とかもたくさんあったし…。可能性はなくもないだろう。…探してみようかな。でも、もしかしたら、メアリさんがこんな感じで資料を持っているかもしれないし、どこにあるか分からないな…。だって、千智さんのノート、小屋にあるだけでも相当の数だもん。日記を読んでた時も、かなりの冊数があった。けど、あったとしても、なかったとしても、調べてみるだけの価値はあると思う。もしあったとしたら、ちゃんと育て方が載っているような気がする。私は、メアリさんに尋ねることにした。
「メアリさん。他に、こういう感じの花に関する資料で千智さんが遺したものとか、ありませんか?」
「…?そう…、ですね…。ありましたっけ?確か、これだけだったと思うのですが…。すみません、分からないです。帰ったら見てみます。もし、あったら、こちらに送りますね」
「…え。いいんですか?!千智さんからもらった物を…。自分で持っていた方が良いのでは?」
「確かにそうかもしれません。ですが、私にはその文字を読むことができないので…。なので、結花さんにここに書いてある物をシェーロン語に翻訳して頂ければ、それで十分ですよ」
さ、さりげなく無理難題を…!何かこうなるような気はしていたけど…。文字、書けるかな…。ルイに言わせると、私の文字って独特だから、メアリさんが読めるかどうか分からない。でも、頼まれたなら、ちゃんとやらないと…。しかし、そこでルイが言った。
「結花、本当に引き受けていいのか?不思議な、……じゃなくて、かなり個性的な文字だから、他の人が読めるかどうか…」
ルイ、言い直してたけど、ちゃんと聞こえてたよ?すみませんね、不思議で読みづらい文字で。でも、ルイのおかげで逆に私は決意した。やっぱり、自分で翻訳しよう!と。それで、ついでに文字を書くのも上達させて、不思議な文字、って言ったルイを見返すんだから!それなら、メアリさんがこの紙の内容を知ることができるし、私も文字を練習できるし、一石二鳥な気がする!なので、私はこう返答した。
「大丈夫だよ!ここはあえて、自分一人でやってみる!もしかしたら、私の知らない植物とかが載っているかもしれないから、そこは聞くかもしれないけれど…。でも、そしたら色々情報が分かるかもしれないし」
ルイは、私の答えにちょっと驚いたような表情をしたけれど、やがて焚き付けるように言った。
「おー、言ったな?それなら、やってみろよ?俺は、結花の字がどれだけ上達するか楽しみに待ってるかな」
…かくして、私は、日本語からシェーロン語への翻訳をすることになったのだった。
読んで下さり、ありがとうございました。




