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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
五章 異世界花屋と思い出
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第八十話

冬が近付くこの季節は、本当に空気が冷たい。もう冬が来てるんじゃないかと思ってしまうくらい、寒い。でも、周りの人に今の季節が何かを聞いても、皆、秋って答えるから悲しい…。誰もこの寒さに共感してくれる人がいない。中には、薄手の長袖の人もまだいるくらいだもん。私の感覚だと、この気温は絶対、冬だと思うんだけどな…?というか、今が秋なら、冬はどれくらい寒くなるんだろう?今年が暖冬だったらいいんだけど…。そう願わずにはいられない。そして、そんな時期に植物にとって欠かせないのが、寒さ対策だ。ということで、今、私とルイは、寒さに弱い植物を屋内へと移動させている。帰ってきて早々、疲れてないのかな?と思ったけど、ルイはいつもと変わらない様子で作業している。しかし、しばらく植物を運んでいると、建物から庭に出るための通路が植物で埋まってしまった。これじゃ、中に入れない…。ルイも予想外だったらしく、少し考えていた。どうやら、今までもずっと同じ場所に移動させてたらしいけど、こんなに廊下が埋まることはなかったみたい。何で今年はこんなに多いんだろう?ちょっと不思議に思った。すると、ルイが「あ」と小さくつぶやいた。何かいい案でも思いついたのかな?

「そうだ、この建物の端の方に、全然使ってない部屋がある。ほぼ一日中日の光が当たるから、夏は暑いけど、冬ならちょうどいいんじゃないか?ただ、ずっと使ってなかったから……」

言葉の後の沈黙は一体…?何か怖いんですけど。お化けが出るとか、そういう話ではないよね?!お化けとかそういうのを信じてるわけじゃないけど、何かすごく不安なんだけど?でも、ルイはそれ以上何も言わず、植物の鉢を一つ持って、器用に他の鉢を避けてスタスタと向こうに行ってしまった。切り替えが早い…!取り残されるのがちょっと嫌なので、私も一つ小さめの鉢を持って後を追いかけることにした。いざとなれば、これを投げればいいし!…あれ、でも、お化けに向かって投げても当たるのかな??すり抜けて壁にぶつかっちゃいそうな気が…?そしたら、鉢が割れちゃって、ルイに怒られそうだな…。うーん…、まあ、とりあえず行ってみよう。もしお化けが出たら、その時はその時だよね!

しばらく歩くと、本当に端っこの方の部屋の前でルイは止まった。ここ、初めて来たんだけど、こんな場所あったっけ?私はルイの後ろから恐る恐る扉を見た。が、ルイは普通に、何のためらいもなく扉を開けた。私は慌ててルイの陰に隠れた。だって、お化けが急に出てきたら怖いし!!すると、ルイが不思議そうに聞いてきた。

「何で隠れてるんだよ?別に、隠れなくても何も変なものは出てこないけど…」

え、そうなの?私はそーっと扉の向こうを見た。確かに、何もいなさそう。…ということは、お化けはいないんだ。良かった。…じゃあ、さっきの謎の沈黙は一体?そう思いつつ、私は中に入った。電気はついていないけど、日の光のおかげで明るい。そして、部屋の中には何もなかった。何でここ、何にも使ってないんだろう?居心地の良さそうな部屋なのに…。使わないのがちょっと勿体ない気がする。でも、冬に植物を置いておくにはちょうど良さそうな部屋。それに、朝とか水やりに行くとき、寒い思いをしなくて済むのが嬉しい。わーい。…あ、でも、朝だとすると、どうせ小屋から庭を経由しないとここに着けないんだし、あまり変わらないかも?

「とりあえず、幽霊とかいなさそうで良かった!そもそも、全然暗くないし」

「…何で幽霊?もし、出てたら、とっくに除霊とかしてるだろ。…って、そんな話じゃなくて。ここなら、たぶんあったかいから植物が成長すると思う。種も、ここで育てればいいんじゃないか?」

そう言って、ルイは持ってきていた鉢をそこに置いた。そして、すぐに部屋を出ていく。まだ鉢があるし、そっちも暗くなる前に運んだ方がいいよね。私も鉢をそこにおいて、出ようとした…のだが。そこで私は、あるものを見つけてしまい、その場で固まった。

「く、クモがいる…!!!な、何でここに、というか、どこから来たの!!?っていうか、近づかないで!」

クモさんがゆっくり近づいてくるんですけど!どこか行ってほしい!!私がこの部屋を出ればいいだけの話かもしれないけど、クモがいるの、入り口の近くなんだよね…。あー、どうしようどうしよう!屋根裏部屋のおかげで少しは慣れたけど、こんなに急に出てくると、さすがにびっくりするんだって!私があわあわしてると、私の声が聞こえたのか、焦ったようにルイがやって来た。

「どうしたんだ、結花!!?何か叫んでたけど、何かあったのか?!」

ものすごく心配そうに、そう言われた。私は、そーっと入り口近くのクモを指差した。さっきよりも私の方に近づいてきてる…。何で?他にも行くところあるよね!?ルイはそれを見て、あからさまにほっとしたような表情になった。安心してる場合じゃないよ!?ルイは安心できても、私は安心できないよ!!

「びっくりした…。何か大変なことでも起こったのかと思ったよ…。でも、やっぱりか。全然使ってなかったから、クモが発生してると思ってたんだ。ってか、お前、本っ当にクモが苦手だよな…。屋根裏部屋の時もクモのせいで梯子から落ちかけてたし」

た、確かにそうですね…。でも、しょうがないじゃん、苦手なものは苦手なんだから!…そういえば、さっきのルイの沈黙はこのせいだったのかな?というか、そうだと思ってたなら一言言おうよ…。と思っていると、ルイは普通にどこかから持って来た紙に素早くクモを乗せると、そのクモを窓から外に逃がした。おお…、さすが…。というか、よくクモに近付けるよね…。本当にすごいと思う。そう思って、私はぱちぱち拍手をした。

「こんな調子で大丈夫かよ?もし、毎回水やりに来るたびに、クモが出てきたらどうするんだ?クモの一匹くらい、適当にそこら辺へ追い払っとけば何とかなるだろ」

「それはそうだけど…。でも、クモっていきなり現れるから怖いんだもん。…あ、そうだ!それなら、クモが出るたびに、今みたいな感じで私がルイを呼べば、ルイがささっとクモを追い払ってくれるからそれが一番いいんじゃない?そしたら、無事に水やりできるよ!」

「俺はクモ処理係かよ…。絶対にやりたくないからな、そんなの。ってか、向こうからこっちに来るのが面倒だし、効率が悪いだろ」

……。正論だ。うーん、そうなると、クモを先に退治しておいた方がいいのかな?でも、またここに入ってきちゃいそうだし。ということは、やっぱり、私がクモに慣れるのがいいかな…。私が色々、解決策を考えていると、ルイが質問してきた。

「ってか、前から思ってたけど、何でそんなにクモが苦手なんだよ?植物の世話をしてる時とかに、他の虫…、例えば、ミミズとか、アリとか、そういうのを見た時は何にも反応してないよな?」

「うーん、何でだろう??特にこれと言った理由はないけど…。あ、形とかかな?それか、クモの巣を作るから?もしかしたら、急に現れて、色々な所に移動するからかも?まあ、でも、冬になればクモだって、活動停止するんじゃない?きっと大丈夫だよ!それに、さすがに私だって何回もクモに反応することはない…はずだし」

「どうだろうな…?意外とここ、気温が冬でも高めだし、何とか生き延びそうな気はするけど」

そ、そんな…。あ、でも、元の世界のお家でも、冬にクモがたまに出てきたことがあったような気がする、ということは、やっぱり、冬場でも出てくる可能性が…。その時だった。ルイが私から少し視線を逸らし、私の左後ろを見た。何だろう?と思ってそっちを向くと、…何故かそこに、またクモがいた。

「な、何でまたクモ?!この部屋って、クモのための部屋になってるんじゃない?」

若干、怖いな、と思い、クモから距離をとった。でも、さっきみたいにこっちに来たら嫌だ、と思ったので、部屋の外まで退避する。ルイは、相変わらずの私の様子に呆れつつ、再びクモを窓の外へと追い払っていた。そして、呆れたように言った。

「やっぱり、クモはダメみたいだな…」

と。おっしゃる通りです…。何とかして、クモ嫌いを克服したいな…と思ってしまった。そうじゃないと、一生この部屋に、落ち着いて入ることができなさそう。入るたびに無駄に緊張してたら、時間がかかっちゃいそうだし。…そこまで考えた時、私は気付いた。そういえば私、まだルイに、クモを外に追い払ってくれたことへのお礼を言っていなかった。しかも、二回も…。なので、私はちゃんとお礼を言うことにした。

「ルイ、クモを追い払ってくれてありがとう。あと、わざわざ戻ってこさせちゃってごめんね。それに、作業も中断しちゃったし。早く運ばないと、日が暮れちゃう」

「…別に。まあ、何事もなかったから良かった。…でも、そうだな、そのせいで運び込む時間が短くなったし、スピードを上げないとだな」

最近は日が短くなってきたし、あっという間に日が沈みそう。うーん、終わるかな…。でも、終わらせないと、あの通路が通れないままになっちゃうんだよね…。よし、頑張ろう。…でも、次はクモが出ないといいんだけど。そう思いつつ、私はルイと鉢が大量に置いてある場所へと向かった。


鉢を全部部屋に運び終えると、庭がすっきりした。そして、通路も普段通りに戻っている。寒さに弱い花、意外と多かったんだな…、と改めて実感した。でも、庭に残っている花が少ないってことは、外にいる時間が短くて済みそう!それなら、冬でも何とかなりそうな気がする。あ、でも、中は中でクモがいっぱいいるから大変そうだし…。というか、ここら辺の冬って何度くらいになるんだろう?ちょっと気になったので、聞いてみることにした。

「ねえ、ルイ、ここら辺の冬の気温って何度くらい?零度とか?」

「いや……。普段はそこまで気にしてないけど、本当に寒いときは、庭のところにある温度計がマイナス十度くらいだった…気がするような?さすがにあの時は寒かったな…。でも、普通はたぶん、零度くらいだと思うけど」

ま、マイナス十度…。少なくとも、私が住んでいた地域では体感したことのない寒さだ…。き、聞かなかった方が良かった気がする。何だか、聞いただけなのに寒くなってきたような…?ふと、庭から冷たい風が吹きつけてきた。どこか澄んでいて、冷たい風。それは、まるで、冬の訪れを告げているかのようだった。

読んで下さり、ありがとうございました。

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