第七十話
時間が遅くなってしまい、すみません…。三日目編スタートです!
いよいよ、三日目。お祭り最終日…。そして、ロディル卿が来る日。でも、そう考えると何だか怖いので、あまり考えないようにすることにする。朝、私がベッドの上で髪を紐でくるくる結ぼうとしていると、ジェシカがやって来た。そして、いいこと思いついた、というような感じでこう言った。
「そうだ、わたし、結花の髪を結んでみたかったんだよね!さらさらしてるから、気になってたんだー」
そう言って、私の後ろに座ると、いつの間にか私の手からなくなっていたくしで髪を梳かし始めた。そういえば、友達に結んでもらうのって初めてかもしれない。私は大人しく座っていることにした。ジェシカは、くしでのんびりと髪を梳かしつつ言った。
「いいなあ。わたしも、これくらいさらさらな髪が良かったんだけど…。風が吹いたとき、ふわーってなびきそうだよね!しかも、綺麗な黒だよー!何か神秘的でかっこいいなー…」
「そう??私は、ジェシカの少しふわふわな髪の方が好きだよ?色もチョコレートっぽくて可愛いし、綺麗だし。…というか、この世界って、髪を染める技術みたいなのって無いの?」
私がそう聞くと、ジェシカは不思議そうな表情になった。…ないみたい。大人になったら茶色とかに染めてみたいな、って思ってたんだけど…。残念。そんなことを思っているうちに、ジェシカが私の耳の辺りの髪をいじり始めた。…?何してるんだろう?でも、まあいいか。変な風にされてたら自分でやり直せばいいもの。なので、私はそのままの態勢でいることにした。
「…はいっ、完成!紐で結ぶのって案外大変なんだね…。結花、よく、ささっと結べるね!ある意味すごいと思うよ!」
と、何故か褒められた(?)。私はジェシカにお礼を言ってベッドを降りた。そして、鏡を見てみる。ジェシカは一体、何をしてたんだろう?そう思いつつ鏡を見てはっとした。ぱっとジェシカの方を見る。すると、ジェシカは自慢気な表情で言った。
「かわいーでしょ?結花っていっつも同じ髪型しかしないから、たまにはいいかなー、ってね。我ながら上手くできたと思うよ!たぶん、ルイは驚くだろうね。だって結花、すっごく可愛いもん!ふふふ、反応見るのが楽しみだなー♪」
驚く…かな?いまいち想像できない。そもそも髪型変えたことに気付くかどうか…。何とも言えないなー、と思いつつ、私はもう一回鏡を見た。今日の私の髪は、耳のところが編み込みになっている。私は他の人に編み込みするのはいいんだけど、自分では上手くできないので、やったことがほとんどないのだ。というか、ジェシカ、すごい…。ものすごい綺麗なんですけど!しかもしっかりしているから、一日ほどけなさそう…。夜ほどいちゃうのがもったいないくらいだ。すると、ジェシカが扉を開けた。
「それじゃ、そろそろ行こっか。早くしないとルイに怒られちゃうしね!そういえば、最近ゼンも口うるさくなってきたんだよね…。何でだろう?」
何故か急に、ジェシカの愚痴が始まった。けど、これ、ゼンさんに聞かれてたらどうするんだろう?大変なことになる気がするんだけど…。そう思いつつ、外に出る。…って、ちょっと待って、寒い…っ!昨日までこんなに寒くなかったはずなんだけど??こういう時に、元の世界の気象情報のありがたさが身に染みる。気象情報って意外と重要。でも、ジェシカは寒さが気にならないらしく、普通に話し続けていた。一瞬、小屋に戻って、上に羽織れるようなものを探そうか迷ったけど、時間がかかりそうだし、それに、外にいるのは一瞬だからまあいいか。そう思ったので、結局戻らなかった。
「…でね、ゼンがその時に…」
と、ジェシカが言ったその時だった。急にばたん、と勢いよくお店の建物の方の扉が開いた。急すぎて、驚く私たちの前に、開けた張本人が姿を現した。それを見たジェシカは、しまった、というような表情になる。なぜなら、その張本人―つまり、ゼンさんはどこか怖い笑みを浮かべてそこに立っていたからだ。やっぱり、そうなっちゃったか…。何か嫌な予感がしてたけど、まさか当たるとは…。
「ジェシカ、誰が口うるさいのかな?僕の名前が聞こえたような気がしたけど、気のせい?」
「…うわ、出た、ゼンの地獄耳!!…で、でも、たぶん、空耳だと思うよ!うん、絶対そう!」
何か矛盾していることを言ってるような気がするんだけど…。地獄耳なのに空耳って…。ジェシカも自分でそれに気付いたらしく、どうしよう!?というような表情になっていた。でも、今さら言い直すこともできず、黙り込む。一瞬、その場がすごく静かになった。が、その静けさは、不意にゼンさんによって破られた。
「あははははっ!!ジェシカ、取り繕うの下手すぎ…!」
今まで見たことないくらい、ゼンさんが笑っていた。一方、ジェシカはむっとしたような表情になっている。そして、どこか悔しそうにつぶやいた。
「そういえばわたし、一度もゼンに論戦で勝ったことがないような気がする…!何でだろう…。というか、悔しい!いつか絶対、論戦で勝つんだから!」
「前にも言ったけど、ジェシカの言葉が矛盾しまくってるからだよ。そういうところ、昔から全然変わってないよね。あと、今の感じだとジェシカが僕に論戦で勝てる日は、一生来ない気がするよ。…あー、面白かった」
そんな話をしつつ、お店の建物へと入る。どうやらさっき、ゼンさんがジェシカの言葉を聞きとれたのは、ただ単にジェシカの声が大きかったからだそう。地獄耳ではないらしい。まあ、でも、確かに、ジェシカの声って割合大きいし、通りやすいから離れた場所にいても聞こえやすいのかもしれない…。その分、ジェシカを探している時は声で分かりそうな気がする。そんな感じでわいわいとリビングルームに入った。と、そこには、既にルイの姿が…。ちょっと呆れたような顔をしている。
「あんたら、何で会うたび言い合いしてるんだよ…。よく飽きないよな…。ある意味、尊敬する」
どうやら、ジェシカとゼンさんのことを言っているみたい。というか、もしかして、ここまで二人の声が聞こえてたのかな?二人もそう思ったらしく、顔を見合わせた。そして、再び言い合いを始めてしまった。
「ほらー。ゼンのせいでルイに怒られたじゃん!ゼンがあそこで何も言わなければ怒られずに済んだかもしれなかったのに。今日のは絶対、ゼンのせいだからね!」
「何で全部僕に責任を負わせるかな…。少なくとも、きっかけはジェシカだったと思うけど?そもそも、ジェシカがあんなこと言ってなければ、僕も何も言ってなかった気がする。せめて、責任を半分にしようよ」
二人がどんどんヒートアップしていく。これじゃあ、仲がいいのか悪いのかよく分からなくなる…。でも、最終的にはいつも元通りに戻ってるから、何だかんだ仲はいいんだろうけど、こういうところを見ると、ちょっと不安になっちゃうんだよね…。すると、ルイが段々、二人の言い争いを聞いているのが面倒になってきたのか、こう宣言した。
「二人とも、これ以上喧嘩するなら、今日の朝食なしにするけど、それでもいいか?今すぐ停戦するなら、このままにしておくけど?どうする?」
二人がぴたりと止まった。そして、両方とも大人しく席に着く。す、すごい…!ルイが二人の扱いに慣れてしまっている…。ルイは、一件落着、というように笑って、椅子に座った。私は心の中で拍手したのだった。
そんな感じで賑やかすぎる朝ごはんの時間が終わった後。私は、のろのろと台所で食器を洗いながら考えていた。…今日、何しようかな?アケビさんやネネ、ジェシカとお祭りを回ってしまったので、特に行きたいところがないんだよね…。カメメロンパンも買っちゃったし。何だったら、小屋でのんびりしてようかな?たまにはそういう時間を過ごしてみたい。そう考えていると、ジェシカがやって来た。そして、どこか楽しそうな表情で私にこう聞いてきた。
「ねーねー、結花は今日、誰かとお祭りに行く約束とかあるの?」
「…?ない、けど…。だから、今日はどうしようかな、って考えてたところ。何で?」
私がそう言うと、ジェシカは更にふわふわと楽しそうな(何かいたずらを考えているような)笑みを浮かべた。本当に何なの?!何か怖くなってきたんだけど…!!すると、ジェシカはぱちん、と手を合わせた。そして、完全にいたずらっぽい笑みになってこう言ったのだった。
「それならちょうど良かった!あのね、ルイも暇そうだから、一緒にお祭りに行ってあげて!…あ、ついでに言うと、ルイにも同じこと言っておいたから!だから、拒否権はないからね!」
「は…?…え、ちょ、ちょっとストップ。待って、どういうこと?というか、私の予定を聞く前にそれを言ったの?!もし、私に他の約束が入ってたら、どうしてたの?」
「まあ、その時はその時でどうにかしてたと思うよ。…ってことで、頑張ってね!」
いや、説明が雑すぎる!ついでに言うと、かなり無理矢理だと思うんだけど…?!というか、そもそも、ルイの方には約束とか、一緒に行きたい人とか、いなかったのかな?そこだけ少し心配なんだけど…。そして、私自身、展開が急すぎて、ついていけていない…。なので、色々とジェシカに言いたかったけど、何から訴えようか考えているうちにジェシカはさっさと台所から出て行ってしまった。ジェシカめ…。何故だか、罠にはめられたような気分になった…。特に、罠や仕掛けがあったわけではないんだけれど。というか、私は一体どうすればいいんだろう?ルイとお祭りを回るとか、全くの想定外だったせいで、パニックになっている…。すると、ジェシカが戻ってきた。
「あのね、三十分後に外に出る、って!」
「うう…。ジェシカのばか…。急すぎて、どうすればいいのか分からないんだけど…!!」
「まあまあ、いつも通りの感じでいけば、何とかなるんじゃない?わたしはいつも、そんな感じだよ!」
いつも通りって、難しい…。いつも通り、ってどういう感じだったっけ?考えれば考えるほど分からなくなってきてしまった。…今日一日、無事に過ごせるかな…。非常に心配になってきた。
ジェシカの行動力に、作者自身が驚いています…。
読んで下さり、ありがとうございました。




