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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
四章 異世界花屋とお祭り ー当日編ー
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番外編 スイと、お祭りの思い出

スイ視点です。まだ、結花がシェーロン国に来ていない頃のお話になっています。

私がのんびりと荷物を運んでいると、向こうから師匠がやってきました。どこか嬉しそうです。恐らく、屋台で遊んできたのでしょう。楽しむことはいいことだと思うのですが、果たして、仕事をさぼっても良いのでしょうか…?私がじとーっと見ていると、師匠が私に気付きました。そして、一瞬、固まります。こういうところが、分かりやすいな、と思います。師匠は、少し気まずそうに私に近付いてきました。

「スイちゃん、お仕事お疲れ様!あ、そうだ、スイちゃんも休んで来たら?」

「何言ってるんですか、師匠…。今はお仕事の時間です。師匠みたいに、さぼるわけにはいきません」

私が少し呆れていると、急に第三者の声が割り込んできました。

「遊んで来ればいいじゃないか、アケビよりも働いてるんだし」

そう言ったのは、管理人さんでした。どうやら、私たちの会話をいつの間にか聞いていたようです。いつから、ここにいたんでしょうか?管理人さんは、けっこうご高齢で、最近は高血圧に悩んでいます。そして、師匠に一番困らされている方です。報告書などをまとめているのは管理人さんなので、報告書遅れの常習犯である師匠に手を焼いています。本当にいつも申し訳ないです…。でも、とても頼りになる方で、私は管理人さんのところによく相談に行っています。

「そう…、ですか?それでは、お言葉に甘えて、少し出かけてきます。三十分ほどで戻りますね」

私は、屋台に行ってみることにしました。しかし、道を歩いている途中で、あることに気付いてしまいました。私、買いたいものとか、欲しい物が全くない…、と。お腹も全くすいていないので、食べ物を買いたい気分でもありません。一体、どうしましょう…。しばらく悩んでから、決めました。よし、師匠に、日頃のお礼に何か買って行きましょう!そこで、私はあることを思い出しました。そう言えば、私と師匠が初めて会ったのは、数年前のお祭りの日でした…。あの頃はものすごく大変でしたが、今の生活があるのは、その大変さのおかげだったので、結果オーライ、という感じなのかもしれません。懐かしい、と思いつつ、私は、久しぶりに、その時のことを回想しました。


私はもともと、この街ではなく、もっと海に近くて、貧しい、小さな村に生まれました。しかし、私はその町で一生を過ごすのは絶対に嫌でした。その村では、女性は同じ村の男性と結婚するのが決まりだったのですが、あらかじめ決められた人生を歩むなんて、考えるだけでも嫌だったのです。…なので、私は決めました。この村を出よう、と…。少しずつお金を貯め、村を出る算段を整え、数年前、私はその村を出ました。案外あっさりと出られたので、拍子抜けしました。しかし、大変だったのはそこからだったのでした…。私は、村を出たら山の方へ行こうと決めていました。貯めたお金で水上車に乗り、山の方を目指します。そうしてたどり着いたのが、今、私が住んでいる街です。最初、まだお金があるうちは良かったのですが、お金が底をつきかけてから、一気に生活が苦しくなりました。どこかで働こう、とも思ったのですが、色々なお店の人に頼んでも、承諾してくれず、何日も日が過ぎていきました。

「こうなるんだったら…、村を出ない方が良かったのでしょうか…?」

そんなある日。私は、人がたくさん集まっているのを見つけ、何をしているのかが気になったので近付いていくことにしました。そこには、たくさんのお店が並んでいて、たくさんの食べ物が…。どうやら、お祭りのようでした。しばらく、ほとんど何も食べていない状況が続いていたので、一気にお腹が空いてきました。しかし、ほんの少ししかお金が無かったため、買うことができません。私は、ため息をついて、近くにあった噴水のへりに腰かけました。動く気力がなかったのです。目の前をたくさんの人が楽しそうに通り過ぎていきます。それをぼんやりと見つめていた、その時。目の前を通りかかった誰かが、石か何かにつまずいて、持っていた大量の紙を落としてしまいました。

「あああー!!!た、大変、どうしよう!一枚でも失くしたら、管理人さんに怒られちゃう!!早く拾わないと…」

その人は、慌てて紙を拾い始めました。…が、ちょうどその時、運悪く強い風が吹き、紙を巻きあげていきました。そして、そのうちの一枚は、私の方にもひらひらと飛んで来て……。私は反射的にそれを掴みました。もし、私が取っていなかったら、紙は噴水に落ちていたでしょう。その人も、風で巻き上げられた分を慌てて追いかけていきます。それを見ていた私は、ゆっくりと立ち上がりました。力は残っていなかったけど、何となく、手伝わないといけないな、と思ってしまったのです。そう思った理由は今でもはっきりしていませんが、恐らく私は、あの時から、師匠のことが放っておけなかったのだと思います。……そうです。紙を落とした、その人こそが、今の私の師匠なのです。


「ありがとう!本当に助かったよー。もし今度、書類を失くしたら、クビだからな!って、管理人さんに最終通告されちゃってて…。本当に良かった!」

全ての紙を拾い終わった後で、私がその人に紙を渡すと、その人は、本当に嬉しそうにそう言いました。そして、更に、こう言われました。

「そうだ!お礼と言っては変かもしれないけど、一緒にどこかもお店に行かない?実は、わたし、まだお昼ごはん食べてないんだよねー…。どうかな?」

私は、一瞬、返答に困りました。知らない人だったから、というのもありましたが、そもそも私はお金を全くと言っていいほど持っていなかったのです…。それに、服とかちゃんとしていませんでしたし…。私がもごもごしていると、その人は、私の答えを待たず、

「じゃあ、決まりね!…っと、その前に、植物屋に寄らないと、それはそれで管理人さんに怒られちゃうな…。ちょっと待っててね!」

と言って、近くのテントの人のところに行って、紙を渡しました。そして、一言二言、何かを告げた後、再び私のところに戻って来ました。

「お待たせしました!じゃあ、行こうか。…あ、そう言えば、自己紹介してなかったね。わたしの名前はアケビ。そこの植物屋で働いてるんだ。植物屋って言うのは、その名の通り、色々な植物を売っているところだよ。あなたは?」

「私は、スイ、です。あの、でも、私、お金を持ってないので…。何も買えないのですが…」

私が恐る恐るそう言うと、何故かアケビさんはきょとんとした表情をしました。そして、その後で人懐こい笑みを浮かべて言いました。

「大丈夫だよ!お礼だから、わたしがごちそうするから!」

名前しか知らない人から何かをごちそうされる、というのはかなり不思議な状況でしたが、お腹が空いていたので、私は結局、アケビさんについていくことにしました。

「ここだよー。あのね、ここのパンケーキがすごく美味しいんだ!あ、パンケーキ、知ってる?」

私は首をかしげました。どこかで聞いたことがあるような、ないような…。微妙です。でも、食べたことはないと思ったので、最終的には首を横に振りました。すると、アケビさんは説明してくれました。

「生地がふわふわしてて、甘くて、本当に美味しいんだよ!」

その説明を聞いても、あまりピンと来ませんでしたが、とにかく美味しいことは分かりました。パンケーキ、というものを待っている間、私たちは色々とお話をしていました。どうやら、アケビさんは抜けているところがあるようです。でも、話しているだけで相手の警戒心を解くような、そんな温かさを持っている人だな、とも思いました。

「…そういえば、ちょっと立ち入った話になっちゃうかもしれないけど、さっき、お金を持ってない、って言ってたよね?お家まで帰れる?」

私は思わずうつむきました。これから、どうしよう…。そんな不安が一気に襲ってきたのです。

「…私、家出してきたので、帰れません。それに、戻りたく、ないです…」

私のその言葉に、アケビさんは少し考えていました。そして、その後で思いがけない提案をしてきました。

「それなら、植物屋で働かない?たぶん、話してて分かったと思うけど、わたし、かなりスケジュール管理が苦手だし、しょっちゅドジなことするし、色々大変なんだよね…。だから、私の手伝いとかして頂ければなー…。みたいな?あ、嫌だったら別に大丈夫なんだけど…。判断はスイちゃんにお任せするから」

私はその言葉に目を丸くしていました。ほぼ初対面の人にそんなこと言っていいんでしょうか?絶対、独断じゃいけないものでは!!?その時点で、アケビさんは抜けていました。でも、その言葉は、私にとって、とても嬉しくて…。思えば、村を出てから初めて、こんなに嬉しくなったかもしれません。だから、私は、こう答えていました。

「あ、あの…っ!わ、私も、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、お願いできますか?」

「…!うん、もちろんだよ、スイちゃん!それに、たぶん、わたしの方が迷惑かけると思うから大丈夫」

それは本当に、大丈夫と言えるのでしょうか…?少し不思議に思いましたが、私はついつい笑ってしまいました。なぜなら、アケビさんは自信満々にそう言ったからです。しばらくして、パンケーキが来ました。初めてのパンケーキはびっくりするほどほわほわしていて、とても温かく感じました。


それが、アケビさんが私の師匠になった瞬間でした。


その後、私は植物屋でちゃんと働くことになり、今では、かなり仕事にも慣れました。しかし、唯一、上手くいかないことがあります。それは、師匠に書類整理をさせることです。師匠は、やらなければならないことを溜める傾向があるので、何とかしないと、とは思っているのですが…。それに、しょっちゅうどこかに抜け出してしまいます。一体、どうやって抜け出しているのか、本当に気になります。さっきまでそこにいたはずの師匠が消えているのに気がつくと、謎の敗北感を覚えます…。いつか、その仕掛けを暴きたいものです。…でも、私は何だかんだ、師匠のことは頼りになる方だと思っています。いつか、私の家族が私を無理矢理連れ戻そうとした時も、私をかばって下さいましたし…、その上で、家族との関係を取り直してくれたのも、師匠でした…。と、考えているうちに、十五分ほどが過ぎてしまいました。早く何を買うか決めないと、戻る時間になってしまいます。なので、家族とのお話は、いつか、時間がある時にゆっくりと思い出すことにします。

「…あ、何だったら、明日のお昼は、あの時のパンケーキのお店に行くのもいいかもしれません」

戻ったら、師匠に提案してみましょう。そう考えつつ、私は近くにあったお店の中へと入りました。

ですます調が、意外と難しかったです…。

読んで下さり、ありがとうございました。

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