第六十二話
「…ってことで、三人でお祭りに行きたいんだけど、いい?」
私がそう言うと、ルイは少し驚いたような表情をした。たぶん、急にネネが登場したからだと思う。それと、いきなり私がそう言ったからかな。
「いいけど…、大丈夫か?この辺りに詳しい人が一人もいない気がするんだけど。迷子になったらどうするんだよ?特にネネとか、色々心配になる…」
「な、何であたし!?一応、この国にいる年数は、二人よりも長いんだけど!それに、ほとんど毎年、こっそり遊びに来てるんだから、大丈夫だよ?あと、いざとなれば忍者っぽい人が助けてくれるはずだし」
ネネがちょっとむっとしたような表情でそう言った。…というか、ネネの発言に色々つっこみどころがある。まず、忍者っぽい人って?…こっそり、ネネに付いてきている護衛さん、ってことかな?どこにいるのか、少し気になる。それと、こっそり遊びに来てる、って…。護衛さんがいるとは言え、防犯的に大丈夫なのかな??もし、ばれちゃったら色々と大変なことになる気がするんだけど…。
「そう…なのか?まあ、とりあえず気をつけて行って来いよ。怪しい人に話しかけられたら絶対にその場から逃げるんだぞ」
ルイがものすごく心配している。…ちょっと過保護??そんなことを思っていると、ジェシカさんが笑いながら、からかうようにこう言った。
「あはは!やっぱりルイってお母さんみたいだね!ものすごく心配そうだし。いつか、結花の保護者になっちゃうんじゃない?…ところで、ルイは今日、どうするつもり?」
「何をするかは全く考えてないけど。そうだな…、とりあえず、あまり人がいないところを回ってみるとか?人ごみ、苦手だし…。本音を言うと、ここでぼーっとしてたいけど、そしたら昨日の午前みたいな感じで、誰かに魔法で色々といじられそうだからな…」
…?魔法でいじられる、とは…?昨日の午前中、一体何があったんだろう?私が相当不思議そうな表情をしていたのか、ジェシカさんが説明してくれた。
「昨日、ルイが全然外に出ようとしなかったから、わたしとゼンで魔法を使ってちょっといたずらしたんだ。で、それに降参したルイは、ちゃんと外に出ましたとさ。めでたしめでたし、って話だよ!」
大体の話の流れは分かった。でも、細かい内容がかなり省略されているんだけど…?でも、ルイがかなりげんなりとした表情をしているところを見ると、かなり大変だったのだろう。心の中で、ご苦労様でした、とつぶやいた。…と、ネネが私の腕を引っ張って言った。
「そろそろ行こうよ?早くしないと、すごく混んじゃうよ!人気のお店とか、本当にすごいんだから!」
「分かったけど、お魚さんに海藻をあげてくるから少しだけ待ってくれない?」
私は急いで小屋に戻り、細かくした海藻を金魚鉢にそっと入れた。すると、お魚さんが海藻のところまで泳いできて、パクパク食べ始めた。可愛すぎる…!ずっと観察していたかったけど、ジェシカさんとネネが待っているし、お魚さんもじっと見られてたら食べづらそうだと思ったので、私は再びお店の方に戻った。すると、何故か、私が海藻をあげに行っていた短い間に、ジェシカさんとネネが意気投合していた。…この二人の間に、一体何があったんだろう?…と、二人が私に気付いた。ネネが話しかけてくる。
「あ、結花!お帰り。今ね、ジェシカとどこを回るか、色々話してたんだけど、どこに行きたい?」
うーん…。そもそも、何があるんだろう??昨日、アケビさんたちと回ったとは言え、一部だし、そもそも初めてなのでよく分からない。
「…取りあえず、ネネとジェシカさんが行きたいところに行って、もし、そこに行く途中で気になるお店があったら、言うね。それでもいい?」
私がそう言うと、二人はうなずいてくれた。ジェシカさんは、植物屋さんのところに行きたいみたいで、まず最初にそこに行くことになった。
「それじゃあ、行ってきまーす!昨日と同じくらいに戻ってくるね!」
「ああ。くれぐれも気をつけろよ。あ、あと、楽しんで来い」
その言葉は、なぜかとても優しく聞こえたような気がした。
「ところで、いつの間にか二人がすごく仲良くなってるんだけど…、何で?何の話をしてたの??」
さっきから気になっていたので、私は二人にそう尋ねた。すると、ジェシカさんが答える。
「まあ、色々だけど…。例えば、お祭りについてとか、この世界と、結花たちがいた世界の違いとか。けっこう面白かったよ。実は、前に、魔法を使って他の世界に行くことはできるか、って言うテーマで調べ物をしたことがあったんだけど、ネネの話を聞いたら、行けそうな気がしてきた」
その言葉に、ネネが首をかしげて言った。
「…ってことはつまり、もしその魔法が成功したら、こっちに来ちゃった人が元の世界に戻れることも可能になるってことだよね?」
「まあ、確かにそうなるね。でも、基本的に魔法は既に失われたものだから、成功したとしても、大々的には発表できないと思う…。だから、実際に元のところに戻れるかは何とも言えないかな。…二人は、もし、元の世界に戻れるようになったらどうする?ここに留まる?それとも、さっさと戻っちゃう?」
ジェシカさんがそう尋ねた。私とネネは顔を見合わせる。戻れるなんて考えたこともなかったせいか、自分がどうしたいか分からない…。でも、ネネは案外あっさりと言った。
「あたしは、今のところ戻る気はないかな。もし、結花と会ってなかったら戻る、って即答したと思うけど。でも、今は結花もいるし、何だかんだ言って、この世界にもいっぱい大切な人がいるから…。結花は?戻っちゃうの?」
「分からない…。元の世界の家族とか友達がどうしてるかは気になるけど…、でも、この世界を離れるのも寂しいし。どちらとも言えない、かな…」
「まあ、もしもの話だし、そもそも別の世界に行ける魔法はまだないからねー。そこまで気にしなくていいと思うよ」
ジェシカさんがそう言って、その話はおしまいになった。元の世界に戻れる、なんて考えたことがなかったし、これから先、本当にそんな魔法が使えるようになるとは限らない。…でも。もし、本当に可能になったならば。私は、どのような決断をするのだろう?
植物屋さんのところまであともう少し、というところで、野菜売り場を見つけた。もしかして…。
「ひょっとしてジェシカさんが野菜を買ったのって、ここでしたか?」
「え?うん、そうそう!最初通った時は、重そうだから止めておこうと思ったけど、結局諦めきれなくて買っちゃったんだよねー。だって、シェーロン国の野菜は美味しいんだもん!」
「ルイが、余った野菜は持って帰らせる、って言ってましたけど、大丈夫ですか?」
「余裕余裕。いざとなれば、魔法でちょちょっと運べばいいだけだしね。というか、実を言うと、買った時も、魔法をちょこっと使って荷物を軽くしてたんだー。…あ、そうそう、このこと、ゼンには絶対に内緒だからね?ばれたら絶対に怒られるから…」
ジェシカさんが唇に人差し指を当てた。ネネが大きくうなずく。でも、このことを誰も言わなかったとしても、ゼンさんにはいつかばれちゃいそうな気がするんだけど…。大丈夫かな?私が少し心配になっていると、不意にネネがジェシカさんにとある質問をした。
「そうだ、あたし、前にジェシカと会ってからずっと気になってたことがあったんだよね!ゼンさんとジェシカさんってどういう関係なのかなー、って!」
「…!!?ね、ネネって意外とませてるよね…!?どういう関係、って言われると…、同僚的な感じかな?あ、若しくは、友達みたいな?向こうはどう思ってるか知らないけど…」
「そっかー。もし、二人が付き合ってるなら、色々聞きたかったんだけどなー」
ネネは残念そうにそう言った。ジェシカさんの言う通り、ネネはどうやら大人っぽいところがあるみたい。朝会った時も、「明けの明星」って言葉を知ってたし…。少し意外だな、と思った。
「あ、たぶんあそこだよ!!というか、絶対にそう!植物がいっぱいあるし、人もたくさんいるもん」
ネネが通りの向こうを指さして言った。そこには確かに、たくさんの植物が…。でも、それ以上に人の数がすごい…!その辺りだけ、人が溢れかえっている。何で…?少しその辺りを見ていた私は、不意に見知った影を見つけた。あの人は…。
「アケビさん!おはようございます!」
ジェシカさんも気付いたらしく、元気にそう言った。ついでに、手を大きく振っている。
「あ、ジェシカちゃん!それに、結花ちゃんまで。……って、もう一人??……え!!?ね、ネネ…」
私は、アケビさんの口を慌てて手で押さえた。ごめんなさい…!でも、「ネネ様」と呼んでしまったら周りの人たちにばれてしまう可能性がある。私は少し経ってからアケビさんの口から手を外した。
「び、びっくりしたー。でも、今のはわたしも悪かったね。ごめんごめん」
どうやら、アケビさんは的確に私の意図を読み取ってくれたみたい。でも、急に口を塞いだのがとても申し訳なかったので、私はアケビさんに謝った。
「こちらこそ、すみません。痛くなかったですか?」
「大丈夫だよー。全然気にしないで。ところで、三人は何をしにここへ?人がすごいから、何も買えないかもしれないけど…、大丈夫?」
そういえば、ジェシカさんは何でここに来たいと思ったんだろう?理由を聞いていなかった。私はジェシカさんを見た。ジェシカさんは珍しく、少しもじもじしながら答えた。
「特に深い理由はないんですけど…。植物屋でもお店を出す、って聞いたので、何をするのかな、って」
「いつもと同じ、植物販売。でも、普段は一般の人には販売してないでしょ?だから、街の人たちはここぞとばかりに買いに来てくれるのよねー」
アケビさんがちょっと嬉しそうに答えた。やっぱり、たくさん売れるって嬉しいことみたい。…と、そこにスイさんがやって来た。
「師匠!こっちにいたんですね!管理人さんが呼んでいましたよ。今日の夜の飾りについて、聞きたいことがあるみたいなんです。早く行かないと、また怒られてしまいますよ」
「ううう…。ごめん、三人とも。もうちょっと話したかったんだけど、行かなくちゃ。それじゃ、お祭りを楽しんでいってね!」
アケビさんはそう言って、走って去っていった。それを見送ってから、ネネがこっそりと私に言った。
「あのね、ジェシカは、アケビさんに憧れてるんだって!」
「あ、だから、植物屋さんに行きたい、って…」
すると、その会話に、何故かスイさんが入ってきた。
「師匠が誰かに憧れられる、ってちょっと意外です…」
スイさんは他にも何か言おうとしていたけど、誰かに呼ばれて行ってしまった。…本当に忙しそう。…と、ジェシカさんが私たちにこう聞いた。
「ねえ、次はどこに行く?ネネはどこか行きたいところとかあるの?」
「うーん、色々あるけど…、一番は射的!!!」
ネネが明るく答えた。しゃ、射的…。私、ものすごく下手なんだけど…。でも、ジェシカさんが大賛成して、行くことになってしまった。どうしよう…。でも、こんな風に、誰かと一緒に遊ぶのって、本当に楽しいな、と思った。
読んで下さり、ありがとうございました。




