第六十一話
二日目編スタートです!
お祭り二日目。朝起きた私は、そっとカーテンを開けてみた。雲一つない青空が広がっている。どこまでも、どこまでも高い空…。何故か今日の空は特別、綺麗で、果てしなく遠いような気がした。しばらく眺めていると、不意に一羽の鳥が空を横切って行った。鳥って、どこらへんの高さまで飛べるんだろう…?と、どうでもいいことを考えつつ、紐を使って髪を結ぶ。けど、何か微妙…。どこか違和感がある。午後までにはほどけてしまいそう。お祭りを回るとき、気をつけないと…。やっぱり、ちゃんとしたゴムを買った方が良い様な気がする。
「あ、結花、おはよう。早いねー。眠たくないの?わたし、起きたばっかりだけどもう一回寝たいなー」
いつの間にか、ジェシカさんが起きていた。でも、眠そうに目をこすっている。
「ジェシカさん、おはようございます。でも、もう一回寝たい、って…、昨日の夕方も寝てましたよね?いつも何時間くらい寝ているんですか?」
「えーと……。九時間くらい?全然寝足りないけど。たぶんわたし、誰にも邪魔されなかったら、一日ずっと寝ていられるんじゃないかな?試したことはないけどね。一回やってみたいなー」
「逆にすごいですね、それ…。でも、一日寝ちゃったら、しばらく寝られない気が…」
と、私たちは朝から睡眠に関する会話をしていた。ふと時計を見ると、かなり時間が経っていた。
「そういえば、お魚さんのご飯はどうするの?何を食べるんだろうね」
ジェシカさんのその言葉で、私は昨日、スイさんに魚に関する質問をしようと思っていたことを忘れていたことに気付いた。どうしよう…。元の世界には普通に魚用の餌とか売ってたけど、ここら辺では見たことないから、何をあげればいいんだろう…。スイさんに朝のうちに会えるかな?私があわあわしていると、ジェシカさんに少し呆れられた。
「結花、少し落ち着きなよ。そんなにすぐに生き物は死なないんだから…。生き物って案外、生命力強いんだからね?だから、そんなに心配しなくてもきっと大丈夫だよ」
「それもそうですね…。とりあえず、向こうの建物の方に行きましょうか」
その前に、ちょこっとだけ、魚たちを眺める。…可愛い。ひらひらと優雅に泳いでいる。赤い方は、ちょっと金魚みたい。本当に食用になるのかな…?というか、食べちゃうのがもったいない…。と思ってしまった。もし、元の世界にこの魚たちがいたら、絶対に水族館で展示されていると思う。まだまだこの世界には不思議なことが多い…。
かちゃり、と扉のカギを開け、外に出ると、穏やかな風が吹いてきた。少し肌寒いかも。秋なんだな…。そう思いつつ、庭を見渡す。…と、ルイの姿を見つけた。水やりをしている。でも、こちらに気付いて、一旦それを中断した。
「…あ、結花。おはよう。起きてたのか。なかなか来ないから、まだ寝てるのかと思ってた」
「おはよう。けっこう前から起きてたけど、魚の観察とかしてたから…。あ、そうだ、水やり!ごめん、早速やるね。もし、今度遅くなっちゃったら、扉をノックしてくれればたぶん起きると思う!」
私がそう言うと、ルイはなぜか急に真剣な表情になって尋ねてきた。
「お前、夜の間はそこの扉のカギ、かけてるだろうな?」
「大丈夫、しっかりかけてるよ!この前まではやってなかったけど、最近は毎日、ちゃんとかけてる」
日本の治安がかなり良かったせいか、私の危機管理能力はこの世界の人からしたらかなり低いみたい。今はお祭り期間だし、かなり気をつけないといけないな…。昨日はとりあえず大丈夫だったけど、掏りとかには本当に注意しないと。気付かない間に取られてそうでちょっと怖い…。
「それならいいけど、本当に気をつけろよ。ここら辺は治安がいい方だけど、だからと言って悪人がいないわけじゃないからな。出かけるときもちゃんと周囲の状況を確認した方がいい」
「うん、そうだね、気をつけないと…」
「はーい。でもさ、昨日も思ったけど、やっぱりルイ、結花の保護者みたいだね!だって、すごい心配そうにしてるんだもん。ふふ、何か面白い。でも、ずっとそのままだと伝わらないよ?」
ジェシカさんがそう言って何故かすごく笑っていた。というか、最後の言葉がすごく謎…。そして、ちょっと怖い。とりあえず、ジェシカさんのことは一旦置いておいて、水やりをすることにする。一方、ルイはと言うと、一瞬フリーズした後で、ちょっと不機嫌な感じでジェシカさんにこう言った。
「ジェシカ、あんたな…。それ以上笑うなら、水かけるぞ」
「え、それは嫌かも。寒いし、風邪ひいちゃいそうだし。あ、でも、もし水で濡れちゃったら魔法で乾かせばいいからまあ、何とかなるかも!別にかけてもいいよ!」
「…いや、やめとく。本当にかけたらゼンが怖そうだから。後でものすごく怒られそうだな…」
そう言ってルイはお花への水やりを再開した。ジェシカさんはどこか楽しそうにそれを見ていた。
「…そういえば、この前摘みまくってたナデシコはどうしたんだ?」
「ナデシコ?あー、屋根裏部屋で大切に育ててるよ。最近、涼しいおかげかまだ綺麗に咲いてる。でも、ちょっとだけ、萎れてきちゃった。また摘んでこようかな?」
元の世界だと花を長持ちさせるような液体があったけど、残念ながらこの世界にはないみたい。でも、今は夏ではないので、それがなくても花が長く咲いてくれる。ちょっと嬉しい。そういう意味では、秋や冬の寒さはとてもいい物だ。
「いつか、小屋の中が花で埋め尽くされそうだな…。ほどほどにしろよ?」
さすがにそこまで摘むことはないと思うけど、たぶん…。でも、夢中になって摘んでいたらいつの間に…、ってことはあるかもしれない。なので、気をつけよう、と思った。と、その時、庭にゼンさんがやって来た。
「三人ともここにいたんだ…。建物中探しても誰もいなかったから、皆して消えちゃったのかと…」
「悪い、ゼン。すぐ行くから少し待っててくれ」
ルイがそう答えた。どうやら気付かない間にけっこう時間が経ってたみたい。私はささっと水やりを済ませた。そして、お店の方の建物に向かった。
朝ごはんの後。お店の方からこんこん、と誰かが扉を叩く音がした。誰だろう?でも、その音に気付いたのは私だけだったらしく、誰もお店のスペースに行かなかった。なので、私が行くことにする。
「はーい。どちら様ですか?」
私はそう言って扉を開けた。…そこにいたのは、スイさんだった。まさか、スイさんから来てくれるとは思っていなかったので、少し驚いた。私に用があるわけではないのだろうけど、お魚さんのことを聞けるからちょうどいい気がする。
「結花さま、おはようございます。あなたに少し用事があったので来たのですが…、今、お時間頂いても大丈夫でしょうか?」
「あ、私だったんですね。ルイに用事があったのかと思ってました。大丈夫ですよ。私も聞きたいことがあったので、ちょうど良かったです。どうしたんですか?」
「魚の件でお話ししたいことがありまして。本当は昨日、お伝えしたかったのですが、忘れていたのと、忙しくて…。すみません」
「いえいえ。私も魚について聞こうと思っていたんですけど、結局聞けなくて…。良かったです」
すると、スイさんは持っていたバッグから何かを取り出し、私に差し出した。受け取ってください、ってことかな?私はそっとそれを手に取った。透明な袋の中に何かが入っている。濃い緑色の、何か。もしかして、…海藻かな?でも、何で海藻がここに?何か料理を作ってほしい、ってこと??頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。
「この海藻、普通にその辺りで売っている物なのですが、これを魚に食べさせればいいんです。要するにこの海藻は、魚の餌です。自分たちの食用にしないでくださいね」
あのお魚さんたち、海藻を食べるんだ…。後であげてみよう。
「ありがとうございます!これでお魚さんたちが飢えずに済みそうです」
その後、しばらく、お魚さんの育て方に関する話をしてからスイさんは帰って行った。すごくマニアックなことも知っていたので、かなり驚いた。スイさん、お魚好きなのかな??でも、そのおかげでお魚さんの育て方をちゃんと知ることができた。スイさんには本当に感謝しかない。海藻も頂いてしまったし。
「早速、お魚さんたちにあげてみようかなー。細かくちぎった方がいいんだっけ?」
そうつぶやきつつ、お店の中に入ろうとしたその時だった。
「あ、結花だ。おはよう!!昨日、行けなくてごめんね」
声がした方向を見ると、そこにはネネがいた。その近くには、いつもみたいな馬車もある。
「ネネ、おはよう。でも、早くない?何時にお屋敷を出たの?」
「うーんとね…。何時だっけ?確か…朝五時半とかだったかな?まだ明けの明星が見えていた気がする」
「ネネ…。よく明けの明星なんて言葉知ってるね…。明け方に見える金星のことだったっけ?」
「そうそう。昨日はね、ずっとお屋敷にいたんだ。…って言うのも、準備の日にこっそりお屋敷を抜け出したことをお母様に怒られちゃって。それで、昨日は外出禁止令が出ちゃったんだよね…。だから、昨日はずーっとお屋敷にいて、長い時間寝てたの。そのおかげで今日は早く起きられたんだ」
どうやらネネは昨日、ほとんどずっと、自分の部屋で過ごしていたみたい。ある意味、籠城…?
「ってことで、結花、あたしと一緒にお祭り行こう!今日はどうせ一日自由だし。ね?」
今日は、誰ともお祭りを一緒に回る、という約束はしていなかったはず。なので、私はうなずいた。
「いいよ。ただ、私は午後からお店だから、午前中だけだけど…。それでもいいなら、いいよ」
「もちろん!…あ、あなた、確か…、ジェシカさん、だったっけ?」
ネネが私の後ろを見てそう言った。振り向くと、そこにはいつの間にかジェシカさんがいた。
「そうだよ!改めまして、ジェシカです!わたしも一緒に行きたいなー、って思ったんだけど、ダメかな?」
「全然ダメじゃないよ!ぜひぜひ、一緒に行こう!!大勢の方が絶対楽しいし」
…ということで、急だったが、三人でお祭りに行くことが決まった。一体、どうなることやら…。
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