第六十話
花火が終わり、お店に戻った後。結局、屋台で何も買えなかったので、お店で夕食にすることになった。ルイは少し疲れているみたいだったので、私も料理作りを手伝おうと思い、ルイにそう言った。普段は追い払われるけど、今日は普通に手伝わせてくれた。やっぱり、疲れているみたい。たぶん、それは、身体的なものだけでなく、ルイのお父さんが来るかどうか、っていう精神的なものもあるのだろう。でも、そう言う私もけっこう疲れている。そもそも、今日、あまり寝てないし…。今日は絶対に早く寝よう、と決めた。
「ルイ、明日大丈夫そう?無理しないでね」
「たぶん、大丈夫。何だったら、明日の午前中寝てたっていいし。結花こそ、体調に気をつけろよ」
「うん、今日は早く寝るね。ありがとう」
私はそう言いつつ、小屋の棚で見つけた紐を取り出した。二つの色の糸で編んであるもので、すごく可愛い。何に使うものかはよく分からないけど、長さがちょうど良かったし、保存状態も良いので、使わせてもらうことにした。これを何に使うのかと言うと、髪を結ぶため。結んでいないと、料理の手伝いをする時に邪魔だし、衛生面でも良くないだろう。手伝わないにしろ、あって不便なことはないと思う。私はくるくると紐で髪を結んだ。初めて紐で結んでみたけど、たぶん、大丈夫。少し緩いかもしれないけど、しばらくはほどけないだろう。…と、ルイが質問してきた。
「そういえば、ジェシカは?まだ夢の中?」
私はうなずいた。ジェシカさんは花火が終わった後、一応起きたんだけど、かなり寝ぼけていた。何とか下に降りられたのだが、その後で再び眠り始めてしまい、ゼンさんが小屋まで運んでくれた。そして、その後、ずっと寝ている。さっきまでずっとジェシカさんを見ていたのだが、全く起きる気配がなかった。
「ぐっすり寝てた。でも、大丈夫かな?今、熟睡してたら夜、眠れなくなりそう…。これを作り終えても寝てるようだったら、一回起こした方がいいかもね。そういえば、ゼンさんは?」
「そこら辺の部屋に籠って何かしてる。中に入るな、って言われたから何してるか知らないけど」
…???謎だ…。二人とも、食事の時に来るかな…。
「まあ、たぶん大丈夫だろ。…ところで、魚は?」
「魚??あー、魚すくいの?ちゃんと金魚鉢を見つけて入れておいたよ。…もしかして、調理するとか?」
「しないけど。猫じゃあるまいし、水の中にいる魚を取るわけないだろ…。しかも、人のだし」
「そうなの?でも、この前、ああいうカラフルな魚も食用だ、って言ってたから…。びっくりした」
私は、カラフルな魚たちを思い出した。くるくると金魚鉢を回る魚って、見るだけで和む。こう言うのをアニマルセラピーって言うのかな?あ、でも、魚だからフィッシュセラピー?そんな言葉、あったっけ?
そんな話をしながら、のんびりと食事を作る。何故か野菜が大量…。洗うのに時間がかかる…。
「何でこんなに野菜があるの?いつの間に買ってたんだ?食べきれるかな、この量…」
「俺が買ったんじゃない。ジェシカが何故か大量に買ってきたんだよ。シェーロン国の野菜はすごくおいしいから、とか何とか。そう言いつつ、自分では料理しないんだよな…」
野菜、どこに売ってたんだろう?明日、探してみようかな…。というか、こんなにたくさんの野菜、よく持って来られたね…。量だけじゃなくて、大きさもすごいし…。
驚きつつ、野菜をトントン切っていく。…あ、トマトだ。確か、ルイはトマト嫌いだった気がする。切っちゃって大丈夫かな?少し心配になったので、聞いてみた。
「ここにトマトがあるんだけど、大丈夫?食べられる?何だったら、切らずに取っておこうか?」
「子ども扱いするな!確かに嫌いだけど、食べれなくはない!」
ルイが何故かむきになっている…。でも、好き嫌いは良くないし、まあいいか。
「じゃあ、切っちゃうね。…でも、無理して食べなくてもいいんだからね?何だったら、少なめとかでもいいと思うよ」
私は、丁寧にトマトを切った。野菜を切るのは得意なのだ。…というのも、元の世界の、自分の家の庭で野菜が少しだけ育てられていて、収穫したものをよく調理していたから。こんなところで役に立つとは…。
「はい、切り終わったよ。これで全部切り終えたかな?…すごく大量だけど、使い切れるかな?」
「一日くらいは持つと思うけど。でも、これ以外にも色々あるから、どうしようか」
…!?え、まだあるの??けっこう高かったのでは…?もし、お祭りだから、ってことで値引きされていたとしても、相当な値段だったと思う。
「結花、こっちはもう大丈夫だから、ジェシカを起こしてきてくれないか?さすがにそろそろ起こさないとさっき結花が言った通り、夜、眠れなくなる」
「はーい。ジェシカさん、起きてるといいんだけど…。もし寝てたらどうやって起こそうかな?」
「そうだな…。あ、耳元で何か叫ぶとかどうだ?前に植物屋でアケビが寝てた時にやってみたら、効果抜群だったから、たぶんジェシカも起きると思う」
そ、そんなことしたの!?というか、普通、誰かを起こすとしたら、その人の体をつっつくと思うんだけど…。何でそれを選んだかな?あと、周りの人に迷惑じゃなかったかな?色々と心配になる。
「うーん……。じゃあ、何をしても起きなかったら、最終手段としてそれをしてみるね」
私はそう言って小屋へ向かった。ジェシカさんは、未だすやすやと眠っている。何か、こんなに気持ちよさそうに寝ていると、起こすのが逆に申し訳なくなってくるんだけど…。本当に起こしていいのかな?と少しの間、考えてしまったが、起こすことにする。
「ジェシカさん、そろそろ起きて下さい。これ以上寝ると、夜、眠れなくなっちゃいますよ。それに、夕ご飯も食べられませんし。ということで、夢の世界から戻ってきて下さい!」
「………………………。…んー?…なーに?もう、…朝??」
ダメだ…、ものすごく寝ぼけてる…。会話がかみ合ってない…。でも、一応起きたから大丈夫かな?
「朝じゃないです!!夜ですよ。でも、まだご飯食べてないですし、ちゃんと起きて下さい」
「……うー…。でも、眠いー…。もっかい寝てもいい……?ってことで…おやすみー…」
「だから、寝ないでくださいってば!ジェシカさんが買ってきた美味しい野菜が待ってますから!!」
そう言うと、ジェシカさんの眠そうな目がぱちっと開いた。野菜の効果、すごい…。
「っていうか、もしかしてここ、小屋??何でわたし、ここにいるんだろう?さっきまで屋根の上にいたはずなのに…。気付かない間に瞬間移動でもしてきたのかな…?」
そこから!!?私はジェシカさんにそう言いたくなった。まあ、でも、ジェシカさんはほとんどずっと寝ていたし、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれないのだけど…。なので、説明する。
「瞬間移動じゃないですよ。そうじゃなくて、ゼンさんが運んできてくれたんです」
「へー。そうなんだー。それはそれは…。……え??!ちょっ…、待って。な、何で?本当に何で??嘘だよね!?」
ジェシカさんは、目をまん丸にして、立ち上がった。ものすごく戸惑っているみたい。
「待って待って。わたし、全然気付いてなかったんだけど!熟睡してたんだけど!!何で寝ちゃったんだろう、わたし!!!あー、めちゃめちゃ恥ずかしい…。結花、そんなことになってたなら起こしてよ…」
「そう言われても…。花火の後、起こしましたけどすぐに寝ちゃいましたし。それに、しばらく待ってみても全然起きなかったので…。でも、すみません。次はちゃんと起こしますね!」
「いやいや、別に大丈夫だよ?!ただの八つ当たりみたいな感じだから、全然気にしないで!」
そうなの???私が微妙に混乱していると、ジェシカさんは再び毛布の中に入ろうとしていた。せっかく起きたのに…!私は慌てて引き留めた。また寝ちゃったら起こすのが大変…。
「ジェシカさん-!!寝ないでくださいってば!美味しいご飯が待ってますよ。眠り姫になってないで、行きましょうよ!」
「ううー…。無理だってばー…。どんな顔してればいいか分かんないんだもん!!急に風邪ひいたから行けない、とでも言っておいてよー」
「たぶんそれ…、すぐに嘘だってばれますよ?それに、今日がお祭り最終日ならいいですけど、まだ一日目ですし、風邪だ、って言ったら明日、お祭りに行けない気がするのですが…。それに、そんなこと言ってると、後で更に会いづらくなっちゃいますよ」
「正論すぎてぐさぐさ突き刺さる…。あー、もう。ここでうだうだしてたら更に正論言われそうで怖いし、行くとしますか…」
ジェシカさんがちゃんと起きてくれたのは嬉しいけど、どこか複雑…。私、そんなに正論言ったっけ?もうちょっとオブラートに言えば良かったのかな?そんなことを考えつつ、二人で小屋を出る。夜空の月が綺麗。…そういえば、この世界にはお月見とかあるのかな??お月見だんごとか作って食べたいな…。たくさん作ったらだんごの山ができそうだし。
「うーん…、ゼンに会ったら何て言おうかな…。とりあえずお礼?いつも通りにいけるかなー…」
「…ジェシカさん、朝の私と同じようなこと言ってますよ?」
「あー、確かに!今なら、朝の結花の気持ちがちょっと分かるかもしれない。どうしよう…、何か緊張してきたかも」
やっぱり朝の私と同じ感じだ。すると、急にお店の建物の扉がゆっくりと開いた。そこにいたのはゼンさん。ジェシカさんは一瞬固まった後でゼンさんに話しかけた。
「…あ、ゼン。えーと…、どうしたの?」
「どうしたの、って…。ルイに、二人がなかなか来ないから呼んで来てほしい、って言われたから」
「あ、あー。そっか」
ジェシカさんがすごく緊張している。かなりぎこちない。
「えーと、あ!ゼンに言いたいことがあったんだ!」
「言いたいこと?何?すごく改まってるけど…」
「えーと、その…、…さ、さっきは、ありがとう!!」
ジェシカさんはそれだけ言うと、黙ってしまった。ゼンさんが少し驚いている。
「え、…あー。別に大丈夫。そのまま放っておいたら風邪ひきそうだったから」
「ってことはつまり、わたしを放っておく、って選択肢もあったってこと?ひどくない?!」
「なかなか起きなかったのはそっちだけど?」
「うぐぐ…。何でわたしの周りにいる人って皆、正論ばっかり言うのー!?」
「ジェシカの発言に穴がありすぎるからだと思う」
いつものように、二人が言い合いを始めた。何だかんだ、ジェシカさんがいつもみたいに話せているので、少しほっとした。でも、このままだと夕ご飯が食べられないような気が…。
「あの、とりあえず、中に入りません?」
「はーい。そうだね。野菜野菜ー♪」
ジェシカさんがすごく嬉しそうにそう言った。ゼンさんがちょっと笑って、大きくドアを開ける。私たち三人は中に入った。
次回から、二日目編です!
読んで下さり、ありがとうございました。




