第五十九話
しばらく投稿できず、すみませんでした…。五十九話です。
管理場所まで商品を持って行った後、私たちはテントに戻った。ここが、待ち合わせ場所だから。少しすると、二人が戻ってきた。道には人がたくさん…。すると、私と同じことを思ったのか、ジェシカさんがこう言った。
「あと十分くらいで花火だけど…。見られるかな?人がすごすぎて、無理な気がするんだけど…」
「実際、ここまで戻ってくるのも大変でしたよね…。どうしましょうか?」
私とジェシカさんは顔を見合わせた。でも、いい案は全く出てこない。そもそも、ここら辺にはあまり詳しくないのである。すると、ルイがあることを提案した。
「一つだけいい場所を知ってるけど、そこに行くか?そこだったら、人も全然いないし、空も見やすいと思う。ただ、少し歩かないといけないが…」
「え、本当?!それなら、そこがいい!どこにあるの?」
「行けば分かる。…でも、そこそこ距離があるし、急ぐか。早くしないと、花火が始まる」
行けば分かる、って…。私も行ったことがある場所なのかな??よく分かっていないまま、私たちはルイについていくことにした。…けど、数分して、私はちょっと不安になってきた。だって、段々花火の場所から離れていっているんだもん。本当にこっちで合ってるのかな…?当たり前だけど、ルイの方がここら辺に詳しいから、大丈夫なんだと思うけど…。そう思ったところで私は、あることに気付いた。
「…って、あれ?何かここ、見たことがあるよ?もしかして、ここ、お店にそこそこ近い?」
「ああ。そろそろ着く。たぶん、あの人、入っていいって言ってくれるはずだけど、断られたらどうしようか…」
え、誰のところに行くの???あの人、って本当に誰?やっぱり不安だ…。と、ルイが立ち止まった。
「ここ。結花は一回だけ来たことがあるんじゃないか?」
「…あ!暗くて一瞬分かんなかったけど、もしかして、おじいさんのお家??」
そう、何故か私たちは、おじいさんの家の前に来ていた。…でも、クモとか虫とかたくさんいるお家が、何で花火の見やすい場所?一方、ジェシカさんとゼンさんは、ここどこ?と言うような表情をしている。そういえば、二人はここに来たことがなかったっけ。なので、私はこの家に住んでいるのは、お店の大家さんだということを説明した。…その時。急にドアが開いて、中からおじいさんが姿を現した。
「誰かと思ったら、ルイと結花と…、その友人か。どうしたんだ?」
おじいさんのその問いに、ルイは短く答えた。
「花火」
それだけじゃ伝わらない気がするんだけど…!?しかし、私の予想とは裏腹に、おじいさんは納得したような表情をして私たちを中に入れてくれた。そして、言った。
「確かに、会場周辺は人が多すぎるからな…。賢明な判断だ」
ま、待って、展開についていけない…。たぶん、ルイとおじいさん以外はどういうことかさっぱり分かっていないと思う。しかし、ルイは説明せずさっさと廊下を歩いていった。私たちも慌てて追いかける。廊下には、虫かごとか水槽がたくさん置いてあった。その中に、虫がいる…。クモとか、色々。昼間ならまだいいんだけど、夜に見ると、ちょっと怖い。ジェシカさんが、思わず、って感じで呟いた。
「行ったことないけど、まるで幽霊屋敷みたい…。雰囲気がすごい…」
すぐにゼンさんに口を塞がれていたが…。と、不意にルイが立ち止まった。その横には、梯子がある。…って、梯子??何でここに?それに、そこだけ不思議と明るい。廊下には明かりがほとんどないのに…。
「あ!窓だ!!もしかして、屋根の上に出れるの??」
ジェシカさんがそう言いながら天井を指さした。確かにそこには、窓がある。どうやら、そこから月の光が差しているからここだけ明るいみたい。そこでようやく私は、理解した。
「屋根の上に出れば、ここら辺の空を見渡せるってことね!ここら辺には高い建物がないから空を遮るものはないもの。だから、花火が綺麗に見える!」
この場所だからこそ、できることだ。元の世界の私の家の周辺には高い建物が多かったから、あまり遠くの景色が見えなかった。でも、この辺りは綺麗に建物の高さが揃っている。私のその言葉に、ルイはにっと笑って言った。
「大正解!ってことで、早速上るか。そろそろ始まるだろうし」
そして、素早く梯子を上っていった。カチッと音が鳴り、天井の窓が開く。そこから、夜の涼しい風が中に入ってきて、髪を揺らしていく。
「次、誰が上りますか?」
私が聞くと、ジェシカさんもゼンさんも何故か私を見た。…何で??でも、譲り合っていたら花火が始まってしまうかもしれない。そう思ったので、先に行かせてもらうことにした。梯子自体は、毎日、小屋の屋根裏部屋に行くために使っているから慣れているけど、暗いから踏み外しそうで、少し怖い。
「…結花、手。俺につかまれ」
危なっかしい私を見かねたのか、ルイがそう言ってくれた。そして、私に向かってすっと手を伸ばす。こ、これは、つかんでもいい、ってこと、なのかな…?つかまれ、って言ってたから、たぶんそうだよね?私がそーっと右手を伸ばすと、ルイはぐいっと力強く、かつ、丁寧に私を上に引っ張り上げてくれた。おかげで何事もなく、屋根の上に辿り着いた。
「あ…、ありがとう…。おかげさまで無事です」
「それなら、良かった。全く、あのじいさん…、何で電球を取り付けないんだよ…。危ないのに…」
そんな話をしていると、ジェシカさんがひょっこりと窓から顔をのぞかせた。上ってくるの、早い…!すると、何故かジェシカさんはじーっと私たちを見た。そして、私たちの方に歩いてきつつ、尋ねた。
「質問なんだけど…、二人とも、いつまで手を握っているつもりなの?もしかして、いつの間にか付き合い始めた?」
一瞬、思考がフリーズした。そのせいで、ジェシカさんの言葉の意味が分からなくなった。…一旦落ち着こう、私。えーと…、今、ジェシカさんが言ったのは…。…いつまで、…手を、…握っているつもりなの?………って!!!ようやく、ジェシカさんの言葉の意味を理解した。何故かルイの方を見ることができなくなる…。それなのに、分かる。左手は、少し冷たい風のせいで、ひんやりと感じる。でも、右手は。さっき、ルイに向かって伸ばした右手は、未だ、温かくて、何かに包まれているようで。そして、気付いてしまったせいで更にそのことを意識してしまう。ど、どうすればいいんだ、私…!??手を離しちゃっていいのかな?あ、でも、急に離したらそれはそれで何か…。色々と複雑に考えてしまい、どうすればいいのか全く分からなくなってしまった。しかし、そっと手が離れていってしまう。右手もひんやりとした空気を感じ始めた。それはそれで、少し寂しい…。私は小さくうつむいた。
と、その時。急に、何かの音がして、空が明るくなった。私ははっとして顔をあげる。
「わああああ……!!」
どこまでも広がる、闇色の空。そこに、光の花が咲く。空に近いところにいるせいか、その花がとても大きく感じる。そして、それは、静かに闇の空に落ちていった…。
「すごい!すごいすごい!!すごく綺麗…!!!」
いつの間にか私の隣に来ていたジェシカさんがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。その隣で、ゼンさんがそれをなだめている。
「ジェシカ、もうちょっと落ち着いて。とりあえず、座らない?」
確かに、屋根から落ちてしまいそうで少し心配…。すると、ジェシカさんは大人しく、私の左に座った。そして、ぎゅっと私に抱きつく。
「わたし、今、すっごく幸せ!それにしても、ルイ、よくここを知ってたね?」
「一昨年くらいに知ったんだ。俺が祭りに行かないで店に引きこもってたら、突然じいさんがやって来て、無理矢理ここに連れてこられたんだよ。で、ここに上らされた。その時は面倒だったけど、じいさんには感謝だな。そのおかげで、今日、ここで皆で一緒に花火を見られたから」
そう言うルイの横顔は、どこか格好良くて…。…って、何を考えてるんだ、私。せっかくの花火なんだから、今はそっちに集中しないと…。私は、再び視線を花火の方向に戻した。色とりどりの光が、夜空に浮かび上がっては消えていく…。美しくて、でも、儚くて…。でも、しばらくして、隣のジェシカさんがすごく静かなことに気付いた。ちらっと隣を見ると、ジェシカさんはいつの間にか、ゼンさんに寄りかかって寝ていた。はしゃぎまくっていたから、疲れてしまったのかな。…というか、こんなところで寝て、寒くないの???さっきから、若干冷たい風が吹いているんだけど。風邪ひいちゃったらどうしよう…。
「…去年は、ここで誰かと一緒に花火を見るなんて想像もしてなかったな」
不意に、ルイがつぶやいた。私は花火を見つつ、黙って話を聞いた。
「そもそも、自分が誰かと一緒に店で働くことなんて、考えてもいなかった。でも、今は、結花がいて、ジェシカとかゼンとかもいて…。たまに、これは夢なんじゃないかと思う」
「…それを言ったら、私だって別の世界に行くなんて、考えてなかった…。でも、ここでの生活は、なんだかんだ言って、すごく楽しいよ。だけど、その感情は夢じゃない。それに、今吹いている風が冷たい、って思うし。そう感じる、ってことは、夢じゃないと思うよ?」
「…寒いのか?」
ものすごく心配そうな口調でそう聞かれた。
「え?!いや、手だけだから大丈夫。全然平気。…あ、でも、このままここにいたら、ジェシカさんが風邪ひいちゃうかな?」
「ジェシカのことなら、大丈夫ですよ。ヴェリエ国の中でも寒い地域の出身なので、このくらい、平気だと思います。前なんか、雪の日にコートとか着ないで外に出て遊んでましたし。でも、全然何ともなさそうでしたよ」
ゼンさんがそう答えてくれた。…初耳。でも、そもそも寒かったら寝られないだろうし、たぶん大丈夫だろう。
「じゃあ、もう少しだけここにいるか」
ルイのその言葉の後。ふわり、と右手が再び何かで包まれた。…??!私は右を見た。そして、再び、どうすればいいのか分からなくなった。なぜなら、屋根に置いた私の手の上に、ルイの手が重なっていたから。
「え…っと。あの、ルイ…?」
「片方だけで悪いけど。でも、この方が、まだましだろ」
ルイがこっちを向いていないので、その表情は分からない。でも、耳が少し赤いような気がした。けれど、花火が打ち上げられているとは言え、そこそこ暗いし、もしかしたら、私の見間違いだったのかもしれない。
自分でも、五十八話目ということに驚いています。
読んで下さり、ありがとうございました。




