第五十七話
お店のテントから、道を歩いている人を見ていた私は、少し驚いていた。不思議な衣装を着ている人が、すごく多い…。たぶん、どこかの国の伝統衣装なんだと思うけど…。まだまだこの世界の事情に詳しくないので、よく分からない。なので、さっきから私は時々、ルイにあれはどこどこの国の物で…、とか色々教えてもらっている。勉強になるけど、知らない国の名前が大量に出てくるため、頭の中が少しごちゃごちゃしている…。
ちなみに、お店はそこそこ順調。今はちょうど、お客さんがいないけど、さっきまでたくさん人が来ていて、忙しかった。どの商品も人気があって、ほっとしている。
「それにしても、何でそんなに国の名前と、経済情報まで知ってるの?ルイって投資でもしてたっけ?」
「してない。そもそも、投資するほどの金を持ってないしな。ただ、母さんとか、屋敷の人とかに教えてもらっただけだ。それを何となく覚えてる」
いや、何となく、の域を超えていると思うんだけど…。だって、今、十か国くらい国の説明を聞いたけど、その国の歴史までかなり細かく、しかもすらすらと言えてたからね!?よく覚えてるなー…、と少し感動した。
「…あ、あの伝統衣装はシェーロン国のやつ。この国は、寒い日が多いから、ああいうのを重ね着するのが主流らしい」
日本の十二単みたいな物なのかな?柄とかは全然違うけど…。でも、裾とか袖に、繊細な刺繍が入っていて、とても綺麗。いつか着てみたいな、と思った。その後ものんびりと歩いている人たちを見ていると、お客さんが入ってきた。オレンジが基調になっている、派手な服を着ている。ふわふわしていて温かそうな服が重なっていて、暑くないのかな、と心配になった。さっき、ルイにどの国の衣装か聞いた気がする…。確か、シェーロン国の更に北にある国…、だったっけ。そんなことを考えていると、お客さんはペラペラと何かを話した。…待って、何語???シェーロン語じゃないのは確かだ。たぶん、英語でもない。というか、そもそもこの世界に英語はないか…。えーと…。どうすればいいんだろう?!私が一人であわあわしていると、隣のルイが立ち上がった。そして、何かを話す。発音の感じが似ているから、たぶん、お客さんと同じ言語だと思う。すると、お客さんにこにこ笑って、再び何かを言った。何て言ってるんだろう??気になったけど、ちょうどその時、他のお客さんがやって来た。若い女性だ。
「すみませーん。ここ、お花屋さんですか?お花を買いに来たんですけど…」
ルイは、北の国のお客さんへの対応で手が離せなさそう。なので、私は、新しくやって来た女性に声をかけた。
「いらっしゃいませ。お花屋さんで合っていますよ。どんな花をお探しですか?」
「実は、父に、何かプレゼントしてあげたくて…。でも、どんな花が好きなのか分からないから…」
そう言って女性は少しうつむいた。私は、何個かある、切り花が入った筒の間を行き来した。何がいいかなー…。花言葉で選んじゃってもいいのかな?花言葉を知らない人だっているだろうし…。そもそも、この世界に花言葉は存在しているのだろうか?うーん…。とりあえず、花言葉で選んでみよう。
「そうですね…。それなら、ピンク色のガーベラやバラがおすすめですが…、可愛すぎますよね…?」
この二つの花の花言葉は、「感謝」。ただ、どちらとも、ピンク色のものが、その言葉を指している。男の人に送るには、少し女の子らしすぎるかな、と思ったのだ。花言葉について女性に説明すると、その人は少し考えていたが、やがて、私に言った。
「あの、可愛くても、構わないです。わたし、自分の感謝の気持ちを伝えられれば、それだけで…」
女性はそう言ってくれたが、私は心の中で葛藤していた。このまま、可愛い感じでまとめて終わるか、それとも、他の花も少し加えて、花束っぽくするか…。私としては、花束を作りたい。でも、他の花と組み合わせるということを、一度もやったことがないのだ。しばらく迷った末、私は筒の中から、ある花を取り出した。そしてそれを、小さめのガーベラとバラに加えてみる。…どうだろうか?すると、女性が私に尋ねた。
「…この花は、何て言うのですか?」
「ブルーサルビア、という花です。この花の花言葉は、さっきの花とは全く関係がないのですが。でも、この花を入れることで、ピンク色の甘さを少し抑えることができると思います」
ブルーサルビアの花の色は、名前の通り、青っぽい紫色。普通のサルビアは赤色だったり、白色だったりする。でも、ブルーサルビアは、かなり落ち着いた色なので、ちょうどいいかな、と思ったのだ。紫は色の濃さによってイメージがガラッと変わるけど、この花は濃い紫だから、少し大人っぽい印象になるはず。もしかしたら、本当はもっといい組み合わせの花があるのかもしれないけど、今の私には、これが限界…。ちょっと悔しい。でも、いつかは、今よりも素敵な組み合わせを考え出せたらいいな、と思う。
「入れない方がいいなら抜きますけど、どうなさいますか?」
「え、抜かないでください!これがいいです。これで、お願いします」
そう言って、女性は笑った。恥ずかしそうな、でも、とても幸せそうな、そんな笑みだった。
女性が帰った後、私ははたと気付いた。北の国のお客さんが、いつの間にかいなくなっている。
「…ってことは、ルイの方はとっくのとうに終わってる!?も、もしかして、私とさっきの女性とのやり取り、見てた?」
「ああ。けっこう最初の方から。お前、ものすごく真剣な表情してたな。でも、悪くなかったんじゃないか?」
「つまり、良かったってこと?わーい。ありがとう!」
「…悪くなかっただけだ。良いとは、一言も言ってないからな!」
…って言いつつ、視線を逸らしている。相変わらず、素直じゃないなー…。最近は、前よりも少しだけ、素直になってきている気はするけれど。というか、結局、さっきの北の国のお客さんは、何を買いに来たんだろう?
「さっきのお客さん、何て言ってたの?全く分からなかったんだけど…。そもそも、何語?」
「あー。あれは、北の果てにある国の言葉。故郷にいる家族に何か花を買って行きたかったらしい。でも、あの国は寒すぎるから、寒さに強い花がないか聞かれた」
「そうだったんだ…。それで、何か鉢植えとか紹介したの?」
「まあ、そんな感じだな。そこら辺に置いてあったやつ、なくなってるだろ?」
そう言われてそっちを見ると、確かにそこに置いてあった鉢が消えている。たぶん、置いてあったのは、パンジーだったはず。パンジーは、小さくて可愛らしいその姿では想像できないくらい、寒さに強い。開花時期も、十月~五月、と相当長いし。元の世界の家の庭にも植えてあったけど、雪が花の上に積もった後でも元気に咲いていた。確かに、寒い地域でも元気に育ちそう。
「でも、北の国の言葉も知ってるなんてすごいね!国のこととかも知ってたし、意外と博識…?」
「意外と、は余計だ。あと、何で最後が疑問形?…それはともかく、この言葉も屋敷で教わっただけ。けっこう前の話だから、覚えてるか心配だったけど、ちゃんと話せて良かった。案外、知ってて損することはないな。言語とかも、普段は全然使わないけど、こういう時に役立つし」
ルイの記憶力、すごすぎる…。と感動していると、今度はアケビさんがやって来た。
「こんにちはー!…って、けっこう売れてるねー。やっぱりみんな、家族とか恋人とかに渡すために買いに来るのかな?」
「そうだな。さっきも家族に渡したい、って人が来てたし。アケビも誰かに花をプレゼントするのか?」
「まあ、そういうことかな!せっかくのお祭りだし、彼に何かプレゼントしてびっくりさせたいな、って思って。だから、来たの」
少し恥ずかしそうにアケビさんはそう言った。…ところで、彼氏さんはどこに??見当たらないんだけど…。ここにはいないのかな?まあ、もしもここにいたら、それはそれでサプライズにならないけれど。気になったので、聞いてみた。
「あの、アケビさんの彼氏さんは、今どこに?」
「植物屋の近くで、お仕事中。元々シフトが入っててね…。だから、今は一人でお店巡り中なの」
「それはともかく、花を買いに来たんだろ?どういう花?ってか、最初から気になってたんだけど、何でここで?植物屋で買えば、時間がかからないと思うけど」
言われてみれば、確かにそうだ。しかし、アケビさんは何故か堂々とその質問に答えた。
「決まってるでしょ、このお店が順調か見に来たのよ。でも、大丈夫そうだし、良かった!」
「アケビはこの店の管理人じゃないだろ…。よく分からん」
「ひどいなあ、ルイ。もうちょっと優しく扱ってくれてもいいと思うんだけど?…って、あああ!管理人さんで思い出した!装飾に関する相談がある、って言われてたのに、それ、忘れてた!どうしよう、また怒られちゃうよー!うう…、こんな時にスイちゃんがいてくれれば…」
と、アケビさんは急に一人で焦り始めた。それを見て、ルイがちょっと呆れる。
「…やっぱり、アケビとスイのどっちが師匠なのか、分からなくなるな…」
しかし、少しすると、アケビさんは平静を取り戻した。そして、にっこり笑った。
「まあいっか!どうせ今から行っても怒られそうだし、ここでお花を買ってから、植物屋に戻ろうっと」
いや、絶対良くないと思う…!早く行った方がいいと思うんだけど…。ルイも同じことを思ったらしく、言った。
「結花、早く花を選んで、すぐにアケビを植物屋に戻らせよう。そうじゃないと、また管理人の血圧が上がるし、スイにも迷惑がかかりそうだ」
私はどのお花がいいか、考えた。お祭りだから、華やかなものがいいのだろうか?それとも、さっきのように花言葉で選ぶべき…?それか、アケビさんっぽい花を選んだ方がいいのかな?な、悩む…。私は花から花へと視線をうろうろさせた。…と、その時、とある花が目に入った。明るくて、お日様みたいな…。
「この花は、いかがでしょうか…?」
「…?コスモスっぽいけど…、あ、もしかして、キバナコスモス?」
私はうなずいた。キバナコスモスは、鮮やかな黄色の花だ。コスモスとは別種だけど、何故かコスモス、とついている、ちょっと不思議な花。でも、その明るい色は、何だかアケビさんみたいだな、と思ったのだ。
「ふふ、結花ちゃんのおすすめならそれにしようかな!うん、この花でお願いします!」
アケビさんはにこにこ笑ってそう言った。その言葉が、とても嬉しくて…。私もアケビさんに笑い返した。
花要素を入れまくっていたら、書くのにかなり時間がかかってしまった…。誕生日によって花があることに驚きました。
読んで下さり、ありがとうございました。




