第五十六話
一日目の午後編です!
お店に戻る途中で、私はジェシカさんを見つけた。私は少し走ってジェシカさんに追いついた。
「あれ、結花。もしかして、お店に帰るところ?ちょうど良かった。お店に着いたらいいもの見せてあげるから、楽しみにしてて。すごく可愛いから!…って、結花も何か持ってる。それなーに?」
「これ、魚屋さんの魚すくいでとった魚たちです。でも、スイさんの方がもっとすごいですよ。十匹もとってましたから」
「え、それはすごいね!後でわたしも行ってみようかなー?魚すくい、やったことないんだよねー」
そんな会話をしつつ、お店までの道を歩く。やっぱり人が多い。今はお昼頃だから、何か食べたい、って人が多いのだろう。しばらくすると、お店に着いた。…と、何故かそこで、急にアケビさんとスイさんとの会話を思い出した。そういえば私、朝、すごく不自然だったんだっけ…。どうしよう。自然な感じ、ってどういう感じだっけ???分からなくなってしまった。
「…?結花?どうして固まってるの?早くお店に入ろうよ?」
「あの、その前に質問なんですけど、私、朝、挙動不審でしたか?」
一瞬、ジェシカさんは怪訝そうな表情をした。そして、少し考えてから言った。
「まあ、確かに、いつもよりちょっと変な感じはした…、かな?…半分はわたしのせいなんだけどね。でも、ルイは鈍感だから、たぶん気付いてないよ!だから、気にしなくても大丈夫じゃない?」
な、何とも言えない…。どうしよう。大丈夫かな??私はすーはー、深呼吸した。心の中で、平常心…、と唱える。朝、口に出して言ったらジェシカさんに怖い、と言われてしまったので。
「…結花、そんなに緊張するの?毎回そんなことしてたら、身が持たないよ?」
「そ、その内、慣れる……、はずです。…たぶん」
ジェシカさんの言うことが正論すぎて、何も言い返せない…。もう、こうなったら、成り行きに任せるしかないな、と謎の結論に至った私は、お店の扉を、いつもよりゆっくり開けた。既に中には、ルイとゼンさんがいた。早い…。
「三十分前ちょうどだな。まあ、ギリギリセーフってところか」
開口一番、そう言われた。時計を見ると、確かにちょうど三十分前。良かった…。すると、私の後から入ってきたジェシカさんが、持っていた小さな袋を前に突き出して言った。
「ねーねー。突然だけど、今からいいもの見せるねー!」
「そういえば、それ、本売り場のところで会った時にも持ってたよね。何が入ってるの?」
ゼンさんのその質問に、ジェシカさんはにこにこしながら言った。
「すごく可愛いうさぎさんだよ!」
そして、袋からうさぎの置物を取り出してテーブルの上に置いた。今にも動きだしそう…。一方、ゼンさんは少し不思議そうにうさぎを見ていた。
「微妙に魔力を感じるんだけど…、これ、どうしたの?」
ジェシカさんはその質問には答えず、うさぎの背中をそっと撫でた。…と、その瞬間、うさぎが動きだした。…って、えええー!!?動きだした!?な、何で?驚いている私たちの前で、うさぎはぴょこぴょこ跳ねたり、テーブルの上で走り回ったりしていた。しかし、しばらくすると、うさぎは動くのをやめてしまった。一瞬、その場がすごく静かになる。静かすぎて、外の喧騒が聞こえるほどだった。
「…これ、もしかして、魔法仕掛け?何でジェシカが持ってるの?というか、どこで手に入れた?!」
珍しく、ゼンさんがものすごく驚いている。えっと…、魔法仕掛け?…って、一体??
「この置物、中に魔力が入ってて、人間が何かの動作をすると、魔法の力で動くようになっているんですけど、魔法が相当昔に滅びたせいでその効果が切れてしまっている物が多いんですよ。なかなか見られないから、本当に貴重で…」
頭の中にはてなマークが浮かんでいる私とルイに、ゼンさんがそう説明してくれた。
「これはね…、ゼンがいたあの本屋さんの真正面にあった雑貨屋さんで見つけたの!わたしがじーっと見てたら店主さんがくれたんだよね。すごいでしょ?」
ちょっと自慢気にそう言ったジェシカさんに、ゼンさんが呆れたように返した。
「すごいどころじゃないよ、これ!?そのお店の人、大事に家で保管しておけば良かったのにな…。滅多に見られない物なのに手放すなんて…」
もう一回、うさぎが動くところを見たかった私は、さっきジェシカさんがやったように、うさぎをそーっと撫でた。強く触れたら壊れちゃいそうだったから…。すると、うさぎはとことこ、くるくる、テーブルの上をしばらく歩きまわってから止まった。…もしかして、触る人によって、する動作が違うのかな?
「俺も触ってもいいか?」
ルイがそう尋ねたので、私はちょっと場所を移動した。ルイは、けっこう遠慮なく触れた。見ているこっちが、少し心配になるくらい、強め。…すると、うさぎは、ぴゅーっと走って、ジェシカさんのいる方向に行った。そして、止まる。これ…、どう考えてもルイから逃げてるよね?どうやら、うさぎはルイの触り方が怖かったみたい。ジェシカさんが爆笑している。
「あはははっ!!ルイ、うさぎさんに嫌われちゃったね!まさか、ここまで嫌われるとは…。あははっ」
ルイは少し不機嫌そうな、そして、ショックを受けたような表情になった。あれだけはっきり逃げられちゃったから、さすがに傷ついたのだろう。ルイは、うさぎのいる方に行って、今度は優しく触った。…が、さっきと同じように真反対に逃げられていた。それを見て、ジェシカさんは更に大笑い。ゼンさんも苦笑している。…ルイ、ドンマイ。私が憐みの視線を向けていると、ルイはそっぽを向いて言った。
「別にうさぎに好かれなくたって、特に支障はないだろ…!」
「…って言いつつ、微妙に落ち込んでいるルイでしたー」
ジェシカさんが茶々を入れる。そして、しばらく、けたけた笑っていた。
「あー、もう。ジェシカうるさい。そろそろ準備しないといけないから、どっか行け」
「はいはい。後で出店に行くから待っててねー。ゼン、行こう!あのね、結花が魚すくいに行ったんだって。面白そうじゃない?わたしたちも行こうよ!」
「魚すくい…?そんなのあるんだ…?よく分からないけど、面白そうだからいいよ」
そんな会話をしつつ、二人はお店を出ていった。しかし、その直前。ジェシカさんが口パクで私にこう言った。「頑張って」と…。何が?と一瞬、疑問に思ったが、気付いた。ジェシカさんもゼンさんもいない、ってことは、つまり、ここには私とルイの二人だけってことだ……。どうしよう。えっと、とりあえず話題を探そう、話題を。えーと…。そうだ!
「あのね、さっき、アケビさんたちと魚すくいに行ったんだ。久しぶりだったからとれるか心配だったけど、二匹とれたの!見てみて。かわいーでしょ?」
私はそう言ってルイに魚が入っている袋を渡した。ルイは、恐る恐るそれを受け取った。…もしかして、うさぎのこと、かなり気にしてるのかな…?
「…これ、育てるのか?食用じゃなくて?」
「え、食べないで!絶対、食用にしないでよ!?焼いたり煮たりしたら、怒るからね!」
「わ、分かった…。確か、小屋の方に金魚鉢があったはずだから、それに入れればいいと思う」
ルイは私の剣幕に少し驚いたようだったが、そう言ってくれた。…ってことは!
「この魚たち、ここで飼ってもいいってこと!?」
「ああ。でも、ちゃんと世話しろよ。…ってか、こいつら、何食べるんだ?海の魚だから…、海藻類?」
「たぶん?分からないけど…。後で、スイさんに聞いてみる。あと、お魚屋さんにも」
「それが一番良いと思う。……あ、そんなことしてる間に、開店まで残り十分になってる。急ぐぞ」
え、嘘。…って思ったんだけど、確かに時計は、開店の十分前を指していた。私は魚が入った袋をルイから受け取って、安定した場所に置いた。そして、準備をする。間に合うかな…!?でも、その忙しさのおかげで、ルイに対する緊張が少しだけだけど、どこかに飛んで行った。
「…これで全部だな。かなり量があるけど、まあ、何とかなるだろ」
私たちの目の前には、お花とか、それを置くための筒とか、色々ある。本当に何とかなるのだろうか…?すると、ルイはいくつかの物を組み合わせ、それを私に渡してきた。確かに、組み合わせたおかげで見た目は減ったけど…。けっこう重いよ、これ…!?容赦ないな…。でも、運ばないと、お店に間に合わないし、頑張って運ぼう。私たちはお店を出て、出店の場所を目指した。でも、人の数が多くて、ぶつからないように運ぶのが大変…。しかも、私がのろのろしているうちに、ルイがけっこう先まで行ってしまった。そういうところが、どこか忍者に似てる…、と思ってしまった。
私がようやく出店に着くと、残り時間はあと三分。ぎりぎり間に合った…、かな?あれ、でも、ちょっと待って…。何か忘れてるような気が…。あ…!
「「ポプリと栞!!!」」
はもった。どうやら、同時に気付いたみたい。でも、どうしよう。その二つは、お祭りの商品を保管する場所にあるけれど、今から運んで、更に並べるとなると、ものすごく時間がかかってしまう…。正に、絶体絶命。と、その時だった。何故か、魚屋さんにいるはずのジェシカさんとゼンさんがやって来た。
「間に合ったかな?ごめん、わたしが話を長引かせちゃったせいで遅くなっちゃったかと思って…。だからね、はい!箱、持って来たんだ!」
ジェシカさんは申し訳なさそうに、そして、少し得意げにそう言った。そこには確かに、ポプリと栞の箱が…。これ、全部二人で持って来たの!?す、すごい…。と思ったら、ゼンさんが苦笑いして言った。
「実はこれ、少しだけ魔法を使って運びました。…って言っても、重さを少し操作しただけですけど…」
それでもすごい!これなら何とか、開店に間に合うかもしれない。すると、ルイが言った。
「せっかくだし、商品並べも手伝って行ってくれないか?」
「えー…。面倒…。でも、いいよ。かなり時間ぎりぎりだし」
四人で準備したおかげで、開店時間とほぼ同時に準備を終えることができた。
「ジェシカさん、ゼンさん、ありがとうございました。すごく助かりました!!」
「どういたしましてー。それじゃ、また後で、夕方くらいに来るね。実はまだ、魚すくいに行ってないんだー」
ジェシカさんはそう言ってひらひらと手を振り、ゼンさんと魚屋さんの方へ向かった。
「…ってことで、何とか準備が終わったし、始めるか」
ルイがそう言った。ルイは、楽しそうに笑っていた。その表情を見て、何故かどきっとしてしまった。だ、大丈夫かな、私…。少し不安になったけど、それ以上に私はとてもわくわくしていた。
読んで下さり、ありがとうございました。




