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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
一章 異世界花屋と私
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第五話

「それで、さっきの花屋でこっちを見てた人のことなんだけど…」

夕食が終わって私が皿洗いを終えた後、ルイはそう切り出した。ちなみに皿洗いは私が半分強引にやらせてもらった。何もしないのは申し訳ないし。でも、ルイはしつこく、

「絶対に皿、割るなよ。割ったら即、追い出す」

と言って任せてくれた。信用されてるんだかされてないんだか…。疑問である。まあ、会ったばかりだから、まだそこまで信頼はされていないのだろう。ついでに言うと、ルイの作ったご飯はすごくおいしかった。びっくり。時々謎の食材が出てきたけど、意外とおいしくて食材名が気になった。ただ、残念なことにこの世界にはお米がないみたい。残念。お米がないことが分かると、なぜか急に今日の朝までいつも三食食べてた白米が懐かしくなってきた。24時間経ってないんだけどね。


話を元に戻そう。ルイのその言葉で私は夕方の出来事を思い出した。

「あー、心当たりがあるって言ってたけど…、その心当たりって?」

ルイはぽつぽつと話し始めた。

「結論から言うと、あいつはたぶん俺の出身国の人間。俺を探しに来たんだと思う」

「探しに来た」ってどういうことだろう?何か事情があるのだろうか?

「母さんの話によると、母さんは異世界から俺の出身国…ヴェリエ国に来たらしい。そして、さる貴族のメイドになった。そこで働いていたところ、偶然主の目にとまり、2人は恋仲になった」

普通に聞けばロマンチックな話に聞こえるかもしれない。でも、ルイの声と表情はとても暗くて、とても辛い話なんだろうな、と私に予感させた。

「ここまで聞けば分かると思うけど、それで生まれたのが俺。でも、母さんの言うことは全然信じてなかった。母さんが異世界から来たことも、異世界にあるっていう夜でも明るく輝く街とかも…。でも、うすうす感じてたけど、あんたが来たから異世界があるってことははっきり分かった。謎の言葉を色々言ってたし、この世界にはない知識を持ってたし」

「謎の言葉…。もし外で使ったらちょっとまずいよね…」

「…それは後々対策を考えよう。…で、俺が生まれた後、母さんと俺への風当たりは強かった。まあ、そりゃそうだよな。どこ出身だかよく分からない人だったから。その後、母さんは俺を連れて屋敷を去り、一人で俺を育ててくれた。でも、五年くらい前、無理がたたって病気になって死んだ」

ルイは私と同じ16歳だから、お母さんを亡くしたのはだいたい11歳の時ということだ。家族がどこにいるのか、という疑問が解けた。でも、どうしてシェーロン国に来たんだろう?

「死ぬ前、母さんは俺に三つの袋を託した。そして、俺に言った」

『ルイ、この中にはね、一つの袋に一種類ずつ、つまり合計三種類の花の種が入っているの。この花はね、どれも異世界にしか咲いていないのよ。…本当は私が育てたかったんだけど、もう無理そうだからルイにお願いするわ』

その袋には咲いた花の写真も入っていたらしい。その写真を頼りに、ルイはお母さんが死ぬ前にその花を見せようと、色々な花の本を見たらしい。でも、どこにもその花らしき写真はなかったそうだ。

「母さんが死んだ後、俺はこの三つの花を育てようとヴェリエ国で花屋を開いた。その方が情報も集まるかと思った…んだけど、ここで問題が起こった。俺の父は正妻との間に子どもができなかった」

「ということはお父さんは、ルイをちゃんとした自分の子供として迎え入れたいってこと?」

「そう、後を継ぐ人がいないからってことで。ヴェリエ国だと、すぐに見つかりそうだからこっちに来たけどあまり変わらなかったな…」

ルイがため息をついた。探されてる中で花屋を続けるなんてすごく大変なことなんだろう。

「そういえば、お前のいた世界は一夫多妻制なのか?」

ルイが気になったらしく、聞いてくる。

「大昔はそうだったみたいだけど、今は全然。そういうことには結構厳しいよ。中には自分の結婚相手に他の相手がいないか調べる人もいたくらい」

「へえ…。その方が良さそうだな。こっちだとそういうのが認められてるから逆に面倒だ」

「でも、もし認められさなかったら、今ここにルイはいなかったのかな?」

「…どうだろうな。二人が会わなかったらいなかったかもな」

意外とそういうものかもしれない。きっと、世の中は少し違うだけで色々なことが変わってしまうものなんだろう。


「…まあ、その話は一旦置いといて、俺といていいのか?もしかしたら、そいつらのせいで面倒なことに巻き込まれるかもしれないから…」

ルイが真剣そうに、そして不安そうに私を見る。

「大丈夫。この世界に来た時から、ある程度の困難は覚悟してたから。…というか、私は二週間だけしかいないかもしれないんだよ?そんな重要な話、私にしちゃって良かったの?」

ルイがよく言うことをそっくりそのまま返すと、ルイはなぜかきょとんとした。そして、はっとする。

「そういえばそうだった!何で忘れてたんだ、俺…!」

「え、気付かずに言ってたの?!」

今日一日、自分であれだけ言ってたのに、何で忘れてるの…。

「あー、もう!何かお前と話してると調子狂う…。今日はさっさと寝ろ!」

いやいや、あなたの調子なんて知らないんですけど……!?

「明日は朝六時には起きろよ。寝坊したら叩き起こすからな」

よく分からないけど、何か怖いので、大人しく小屋に向かうことにした。…と、その前に。

「ルイ、おやすみ。また明日」

寝る前だし、言っておいた方がいいと思ったのだ。

「あ、ああ…。おやすみ…」

私は庭へと続くドアへ向かった。部屋を出る直前、ルイが

「誰かと寝る前に挨拶したの、久しぶりだったな」

とつぶやいたのが聞こえたのは言わないでおいた。


小屋にはちゃんとしたベッドがあった。ルイの話によると、ヴェリエ国でお母さんが使っていたものらしい。捨てるのがもったいなくて持ってきたそうだ。

「わー、ふかふか。よく眠れそう」

あ、寝る前にやりたいことがあったんだ。私は小屋中を引っ掻き回して筆記用具と紙を見つけ出した。そして、ルイに借りた植物図鑑も。そう、私がやりたかったのは、花記録。日本語とシェーロン語で花の名前を書いて、その花の絵を描く、ということをしたいと思ったのだ。とは言っても、今日はもう遅い時間だし、明日は早く起きないといけないので、一種類だけ。私は少し考えて、「ジャスミン」を書くことにした。図鑑をめくってジャスミンの写真を探す。確か、昼間見た時は真ん中らへんにあったはず。

「んー…、あ、あった!これだ、…って、うわ。何なの、この文字!書けるかなぁ…」

花を描くよりもシェーロン語を書く方が大変な気がする。私は四苦八苦しながら何とかシェーロン語を書いた。…うん、けっこう満足。

「今日はもう寝よう…。さすがに眠い…」

私はベッドに潜り込んだ。夏とは言え、この場所の夜は割と涼しい。ちゃんと布団をかけておかないと風邪をひいてしまいそうだ。


私の異世界生活初日はこのようにして幕を閉じた。



その頃、ヴェリエ国では。昼間にルイを見ていた男が急ぎ足である人の元へと向かっていた。

「失礼します。私です。今、シェーロン国から戻って来ました」

そう断ってから部屋の扉を開けた。その奥に広がるのはきらびやかで王宮の一室かと勘違いしてしまいそうなほど豪華な空間。男は豪華絢爛なこの部屋に最初は驚いていたが、今はもう慣れてしまった。慣れというものは恐ろしい。

「帰ってきた、ということは見つけた、ということで良いのだろうな?」

その部屋の主であり、男の主でもある彼が男にそう問いかける。その表情は珍しく明るい。

「ええ、間違いなくあの方です。すぐに連れてきても良かったのですが…」

すると、主は手をあげてその続きを制した。

「構わん。来月になれば、俺もあの国へ行ける。楽しみだなあ。その時は君に案内を任せるよ」

「ありがたきお言葉にございます。…しかし、一つ問題点がございます」

すると、主は不思議そうに男を見た。

「何だね?まさか、恋人ができたなどと言う話ではないだろうね?」

「それが…、そうかもしれないのです…」

「は?」

一気に主のまとう雰囲気が変わった。さっきまでの柔らかい感じが一気に激しい炎のような雰囲気になる。男は少し怯えつつ、言葉を続けた。

「私は植物屋のふりをしていたのですが…、私の並べた品物を熱心に見ている少女がおりまして…。声をかけてみたところ、その少女は誰かの付き添いで来ていたようなのです」

「まさか、その少女がルイに付き添っていたというのか!?」

「さようでございます」

その言葉を聞き、主は―、ルイの父は深くため息をついた。

「全く…、なぜあの息子はここまで俺に手間をかけさせるのだ…」

「しかし、本当にその少女が恋人であるとは限りません。来月、ご自分で確かめてみればいかがでしょう?それか、今すぐシェーロン国に戻ってやっておきましょうか?」

物騒な男の発言にルイの父は首を振った。

「やめておけ。今はこっちが大事な時だ。来月になれば、全てが分かる」

ルイの父は外に見える月を仰ぎ、つぶやいた。

「すべては…、すべて分かるのは、来月」

男はルイの父に自分の今後の計画を話す。

「明日から再びシェーロン国に行って協力者を探すことにします。居場所が分かった今、協力者を見つけ出すのはとても簡単です。それでは、失礼いたします。次にここに帰ってくるのは、あなた様がシェーロン国にいらっしゃる一週間前になると思います」

男はその部屋を出た。しばらくすると、その姿は闇に消えた。



一方、ルイは結花が小屋へ行った後、ある手紙を取り出した。その手紙を出してくれたのは、ルイのちょっとした知り合い。ルイの、というよりは母の、と言った方が正しいのかもしれない。彼女はルイの父の屋敷で働いており、ヴェリエ国にいる父の動向に詳しい。母のこの世界での唯一の友達である彼女はルイのことをよく気に掛けてくれている。

「密偵を数人放っている…、か。面倒なことこの上ないな。そんなことをしてる暇があったら他のもっと俺よりも当主にふさわしい人を探していれば良いものを…」

ずっと庶民として暮らしてきたルイが突然貴族の当主になるのは不可能だということが父には分からないらしい。火を見るよりも明らかだというのに。

「…ったく。…密偵らしき奴に見られた以上、警戒しておいた方が良いだろうな。結花にもこの生活に慣れたら護身術ぐらい身に付けてもらった方がいいかもしれないな。だとすると…、誰にそれを頼むか」

そこまで考えたところではっとする。

「だから…!結花はとりあえず二週間!何でその前提すっ飛ばして考えてるんだよ…!」

今日はなんだか自分がおかしかった。…いや、正確に言えば、結花に会った時からだろうか?ルイは周辺の店のほとんどの人たちから避けられてきた。それなのに結花は突然店に入って来て、突然店で働かせてほしいと頼んできた。最初にそれを聞いたときはなぜここに来たのだろうか?と思った。しかも、話を聞けば異世界から来たという。母と同じ、異世界から。

異世界から来た者はその地に住む民に畏怖の念を抱かれる。そして必ず、国の思惑に翻弄されることになる。もしかしたら自分はそれが嫌だったのかもしれない。父の思惑に迷惑している自分の姿を重ねてしまったのだろう。それか、ルイが見せた植物図鑑を見てキラキラと輝いた結花の瞳を曇らせたくなかったのかもしれない。

でも、このままルイと一緒にいれば、結花もルイと同じように周りに住む人たちから敬遠されるかもしれない。しかし、とりあえずこの世界の常識は教えておいた方が良いと思った。大体二週間くらいあれば常識はほぼほぼ教えられるだろう。そう思って二週間だけと言ったのだが、なぜか自分は二週間、という期限を忘れてしまう。頭の中が結花にずっと働いてもらう前提で物事を考えてしまう。

「…そもそも、俺が勝手に結花がいる場所を決めちゃだめだろ」

でも、結花といるのはとても居心地が良い。だから、何となくずっといてほしいと思ってしまう。今までこんなことはなかったのだが。あまりに今日の自分は傍から見てもおかしかったらしく、アケビに

「何か…、あんた大丈夫?熱、ないよね?でも、よかったんじゃない?一緒にいて何か落ち着くな、って思った人ができたみたいで。それ、けっこう大事なことだよ」

と言われてしまった。あまりに正確に自分の思っていることを当てられたので、ルイは一瞬、アケビは何か特別な力でも持っているのではないかと疑ってしまった。

「あー、…というか、何でこんな調子狂うんだよ。それこそ結花が何か謎の力を持ってたりするのか?」

二週間だけ、と自分で自分に念を押すその一方で、ルイは結花にある期待をしていた。もし、母が託してくれた花を結花が咲かせてくれたら。異世界の花なら異世界の人が育てた方が咲く可能性は高いはずだ。ただ、咲かせてもらうにはどう考えても二週間以上、時間が必要になる。やっぱり結花は二週間だけ、という前提をすっ飛ばしている自分にルイは苦笑した。

「本当、自分がよく分かんないな。こんなの初めてだ」

しばらく考えてみたが、やっぱりよく分からなかったので、ルイは今日はとりあえず寝ることにした。


三人の夜は、こうして過ぎていった。

最近ハーバリウムが気になってます…!

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