第五十三話
お祭り当日編スタートです!
ついに、お祭りの日がやって来た。わーいわーい!ただいま、私のテンションは高いです。それはお祭り当日だから、というのと、もう一つ。昨日の夜、私はなかなか眠れなくて、本日の睡眠時間はたったの三時間なのです…。私、基本的に睡眠時間が八時間は必要なんだけどな…。はあ…。眠い…。でも、考えてみてほしい。昨日、ジェシカさんとあの話をした後で、すんなり寝られる方がすごいと思う!!寝られる人がいたら、その人は相当神経が図太いんじゃないかな…?…というか、こんな状態でお祭り乗り切れるだろうか…。自分でも不安になる。
屋根裏部屋から下りた私は、とりあえず髪を結ぶことにした。その方が自分の中のスイッチみたいなものが入りそうだから。気分を切り替えられそうな気がする。…けれど、頭の中に昨日の会話が一気に浮かび上がって来て、私はフリーズした。我ながら、かなり気にしているんだな…、と思う。私はゴムを伸ばしたりぐるぐるしたりしながら、しばらくぼーっとしていた。何だか、心の中が全然落ち着かない…。と、その時。急に指先にあったゴムの感覚がなくなった。…?何が起こった?急にゴムが行方不明?慌てて辺りの床を見てみると、ゴムが落ちてた。良かった、見つかった…。でも、何か変、……って。私があることに気付いて再びフリーズしたちょうどその時、ジェシカさんもこっちに下りてきた。
「結花、おはようー。でも、眠いー…。もっかい寝たい!って何で固まってるの?何かあった?」
「私のゴムが切れちゃった…。元の世界から一緒に来た、数少ない物のうちの一つなのに…」
かなりショックだ。でも、この世界に来る前にも一回切れてしまっていたので、その時点で既に寿命を迎えていたのだろう。うう…。でも悲しい…。
「うわー…。綺麗にぷっつり切れてるねー…。まあ、ちょっとついていなかった、ってことで!」
たぶん、ジェシカさんなりに励ましてくれたのだろう。でも、これは運ではなく、完全に私のせいだ。私がゴムをいじっていなかったら、もうちょっと持ったと思う…。
「とりあえずゴムは取っておいて…。髪、どうしようかな…。せっかくだし、この機会に切ってもいいかもですね」
「全然せっかくじゃないよ!?絶対に切っちゃダメだからね!?」
まあ、切ろうと思っても自分で切れなさそうだし、諦めよう。前に自分で髪を切ったら、びっくりするほど斜めになってしまったことがあったし。でも、結んでいないと食事の時とか面倒なんだよね…。それに、いつものイメージと違いすぎて、アケビさんとかに戸惑われそう…。そんなことを思いつつ、空いている小さな箱に、切れてしまったゴムを入れた。もう使えないけど、私にとってはとても大切なものだから…。その後で、私たちはお店の方の建物へ向かった。
そして、いつものようにその扉を開けようと思ったんだけど…。私はついそこで止まってしまった。
「…?結花?どうしたの?入らないの?」
入ります!入るんだけど…。ルイと普通にいつも通りに話せる自信が全くないのだ。あー、どうしよう。
「平常心、平常心、平常心……」
「…結花、気持ちは何となく分かるんだけど、何か呪文を唱えているみたいで怖いからやめようか?」
「やっぱり無理です!平常心ってどんなものでしたっけ?!」
私が少しパニック状態になっていると、ジェシカさんに少し呆れられた。
「知らないよ…。それは、自分にしか分からない物なんじゃないの?そんなに緊張するならわたしが開けようか?その方が早い気がするんだけど」
と、そんな話をしていたその時だった。取っ手に二人とも触ってないのに、急に扉が開いた!…怪奇現象でも起きたのかな?朝なのに…、と思っていたら、その隙間からルイが顔を出した。い、いきなり…!心の準備が全くできていないのに!どうしよう、本当にどうしよう。
「何か話し声が聞こえると思ったら、やっぱり結花とジェシカだったのか」
そんなに話し声大きかったっけ?というか、何て言えばいいんだ?えーと……。あ。
「ルイ、おはよう。………」
挨拶したはいいけど、その後何を話せばいいのか分からなくなってしまった。…と、何故かルイがじーっと私を見ていることに気付いた。もしかして、髪下ろしてるのが珍しいのかな?
「ゴムが切れちゃったから、髪が結べなくて。だから下ろしてるんだ。そのうち、何とかするつもりだから、ご心配なく」
ちょうど良かったので、これを話題にした。これで少しは会話が続くはず。…たぶん。が、なぜかルイが黙ったままだ。もしかして、びっくりするほど、髪を結んでいないの、似合ってないのかな…?ちょっと不安になっていると、少ししてからようやく言葉を返してくれた。
「そ、そうなのか…。最初、ちょっとびっくりしたけど、その、何ていうか…」
なぜかルイはそこで不自然に言葉を切った。何ていうか、の後に続く言葉が気になる。けど、ちょっと怖い。すると、急にジェシカさんが口を挟んだ。
「…もしかして、見とれてた、とかだったりして??」
「は……!!?急に変なこと言うな!!ってか、何でその言葉を選ぶんだよ…」
ジェシカさんがすごくにまにましている。そして、ルイがなぜか慌てていた。こういうルイを見ることってなかなかない気がする。というか、ジェシカさん…、完全にルイをからかって遊んでるよね?私が少し呆れていると、そこにゼンさんもやって来た。たぶん、私たちがなかなか来ないから様子を見に来たのだろう。
「ジェシカ…、いい加減、人をからかう癖、直した方がいいと思うんだけど…。この前も魔法協会で、誰かさんが僕をからかってた気が…」
「わーわー、その話なし!!ごめん、本当にごめんなさい、だからその話はなかったことにして!」
相変わらず仲が良さそう。そして、心なしか、ゼンさんがどこか楽しそうに見えた。
「とりあえず、中に入らないか?ここだと場所が中途半端すぎるだろ?」
確かに、ルイの言う通り、お店の建物と庭の境界線で話しているから、中途半端な気がする…。なので、私たちはわいわいしながら中に入った。ジェシカさんとゼンさんのおかげで少しだけ緊張が解けた気がする。なので、今度はすんなりと言葉が出てきた。
「似合わないんだったら、やっぱり切っちゃおうかな。それか、午前中、どこか髪留めとか売ってるお店に行ってもいいし。どっちがいいかなー…」
すると、なぜかルイがぎょっとしたような表情で言った。
「は…?!似合わないとは言ってないだろ。絶対、切ったらダメだからな」
「え…、あ、うん。切らないよ。たぶん、私が切ったらがたがたになるし。じゃあ、やっぱり切らないでおこうかな。でも、いつも結んでるから、何か変じゃない?」
「いや、全然おかしくない。その…、だから、つまり、悪くない、と思う」
おかしくない、と断言されたので、少し驚く。最後がちょっとかたことだったけど…。でも、嬉しい。すると、ジェシカさんが再び、にやにやしながら会話に加わった。
「あ、ルイもとうとう本音を言ったね?悪くない、ってことは、つまり、いい、ってことでしょ?ちゃんとはっきり、そう言わないと伝わらないよー?」
「ジェシカ、あんたな…、いちいち解説するな!」
そんな感じで、その日の朝は、賑やかに過ぎていった。
朝ごはんの後。小屋に戻って私がお祭りのための支度をしていると、アケビさんとスイさんがやって来た。私が髪を結んでないことにちょっと驚いているみたい。
「結花ちゃん、何か心境の変化でもあったの?」
「いや、そういうわけではないんですけど。ゴムが切れちゃっただけです。そのうち、新しいのを買うと思います。食事の時とか、大変なので」
さっきも、かなり食べるときに大変だった。耳にかけても、すぐに髪が落ちてきてしまうのだ。ゴムのありがたさが分かったような気がする…。でも、どこで売っているかがよく分からないので、少し困っている。後で二人に聞いてみようかな。
「でも、下ろしてる方もけっこう似合ってるよ!むしろ、そっちの方が似合ってるんじゃないかな?いっそのこと、下ろしたままで過ごせば?絶対、いいと思うんだけどなー」
すると、なぜかスイさんまでもがアケビさんに同意した。
「私も珍しく師匠に賛成です!絶対にそのほうがいいですよ!保証します」
「そ、そうですか…?うーん…、とりあえず保留でお願いします…」
ちゃんとまとめていた方が自分ではしっくり来るんだけど…。案外、他の人から見るとそうでもないのかもしれない。私たち三人は、お店の扉へ向かった。既にお祭りは始まっているらしく、窓から見える通りは賑わっている。すると、ルイが見送りに来てくれた。
「忘れ物とかないだろうな?」
「うん、ないけど…、何かお母さんみたいなセリフだね、それ?」
…って、何言ってるんだ、私。心配してくれたのに、何でこんなことしか言えないのだろう?
「そうか?まあ、とりあえず、人が多いから気をつけろ。あと、店が始まる、三十分前には帰ってこいよ」
すると、アケビさんがちょっと苦笑いした。
「そんなこと言うから、お母さんみたいに思われるんじゃないの?」
ルイは少し不機嫌そうな表情になった。
「アケビ、うるさい…。三人とも早く行ったらどうだ?時間がなくなる」
ちょっと強引に話を変えたけど、確かにそうだ。私たちは外に出た。柔らかい光が、お祭りで彩られた街を照らしている。
もしかしたら、ちょこちょこ番外編を入れるかもしれないです。
読んでくださり、ありがとうございました。




