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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
三章 異世界花屋とお祭り ー準備編ー
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第四十九話

その後、私はお店の方に行った。ルイは、前に私がフィオナちゃんたちと作ったような栞を作っていた。でも、もともとは私が半分適当に作った物だったので、いくつか作り方が不明だったところがあったらしい。私もそれを手伝うことにする。二人で作ったおかげでスピードが上がったので、あっという間に紙が少なくなってしまった。いつの間に…。自分でも驚いた。代わりに、出来上がった栞がテーブルの真ん中に大量に積みあがっている。いつか雪崩が起きそうで怖い。もしそうなったら、片付けが大変そう…。かなり心配になったので、一旦机の上の栞を片付ける。

「私、文房具屋さんに行って、紙を買ってこようか?まだまだ作るよね?」

「悪い、頼む。俺が行っても追い払われそうだしな」

…ということで、私は文房具屋さんに行くことになった。


何となく、散歩したい気分だったので、河原のそばを通る、少し遠回りな道を歩くことにした。…ちなみに、ちょっと遠回りすることはルイに言ってない。そこまで遅くならないはずだし、まあ大丈夫だろう。遅くなったとしても、行先は分かっているから心配されないはずだ。道をてくてくと歩いていると、その途中で小さな空き地を見つけた。確かここには、ついこの前まで木造の建物があったはずだ。どうやら、壊してしまったらしい。また、新しい建物が建つのかな?そう思いつつ、のんびりと歩いた。しばらくすると、河原に辿り着く。石がごろごろと転がっていた。夏は近くに住んでいる子どもたちがよく遊んでいるそうだ。しかし今は、もう秋に入りかけているせいか、子どもたちはいない。…と、そこである花が生えていることに気付いた。少し遠い場所にあったので、近づいてみる。そこに咲いていた花。それは…。

「やっぱり、ナデシコだ!この世界にもあるなんて…」

ナデシコは、七月から十月にかけて咲く花で、秋の七草の一つ。ナデシコ科の花だ。ちなみに、ハギ、オミナエシ、フジバカマ、クズ、キキョウ、オバナも秋の七草に含まれている。春の七草は有名だけど、秋の七草はあまり知られていない。辺りをよくよく見ると、けっこうたくさん咲いている。

「これ、摘んでいってもいいのかな…?お店に飾りたいなー」

「ここら辺の野草は摘んでも大丈夫ですよ。中には摘んではいけない場所もありますけど、ここはいいみたいです。あそこの看板に書いてありました」

急に声をかけられた。…って、この声、どこかで聞いたことがある。そう思って振り返った私は、一瞬固まった。そして、つい言ってしまう。

「うわ…、また出た…。というか、何でここに?」

「出た、って言うのやめましょうよ。私は幽霊ではないですよ…」

そこにいたのは、ヘルさんだった。少し久しぶりな気がする。でも、本当にどうしてここに?魔法協会にいるのかと思っていたんだけど…?

「ついさっき、魔法協会が解放してくれました。ついでに好きなところに転移させてくれたので、シェーロン国に来ることにしたんですよ。驚きました?」

「当たり前じゃないですか…。というか、魔法の花があればさっさと転移できるんじゃないんですか?」

「いやー、残念なことに、今はもう、魔力はないんです。だから、魔法の花があっても何もできないんですよ。外に出るには、魔力を失うことが条件だったので」

つまり、交換条件だった、ってことかな?…そういえば私、ジェシカさんたちにヘルさんがどうなったか聞いていなかったな。まさか、また会うなんて思ってもいなかった。

「これからどうするんですか?」

「そうですねー…。世界中を放浪するのもいいかもしれませんね。ひとつの場所に留まるのは苦手なので。それか、旅しながら何か書くのもいいかもしれませんね」

何か書く、って、俳句とか、物語とか…?何か想像できないんだけど…。そもそも、この世界に俳句はあるのだろうか?あ、でも、もし私と同じ異世界人がそういうのを書いていたら、本になっているかもしれない。本屋さんとかに売ってるかな?少し気になる。

「そういえば、怪我は大丈夫ですか?すみません、痛かったですよね」

「ばっちり治りましたけど…、どうしたんですか、急に?」

「魔法使いの…、確かジェシカさんでしたっけ?その人に怒られました。何の武器も持ってない人に攻撃するなんて最低だ、とか何とか。すごい剣幕でしたよ」

…!!?怒られた、って…。そうだったの?聞いてないんだけど…。お店に戻ったらジェシカさんに聞いてみよう。

「私は別に気にしてないですけど、どっちかと言うと、ルイの方が気にしてましたよ。…あ、もしかしたら、ルイに会わないほうがいいかもです。会ったらたぶん、大変なことになりますから」

確かこの前、ルイは、ヘルさんに今度会ったら植木鉢を投げつける、とか何とか言ってた気がする。たぶん、そんなことしないと思うけど、少し怖い。まあ、たぶん、今は来ないはずだから大丈夫だよね。

「それなら、この辺りに来るときは気をつけたほうがいいかもしれないですね」

ヘルさんはそう言ったが、その表情はどこか楽しげだ。恐らく、面白がっているのだろう。

その後もしばらくヘルさんと話していると、不意に誰かがこっちにやって来ていることに気付いた。あの人って、もしかしなくても…。

「結花、いい加減に遊んでないで店に戻って来いよ。ってか、何で文房具屋じゃなくて、ここにいるんだ……って、ヘル?!あんた、何でここに…。まさか、魔法協会から逃げ出してきたんじゃないだろうな?」

やっぱりルイだった。ヘルさんと鉢合わせしてしまってるけど、大丈夫かな?!

「会うなりそれはひどいですよ…。ちゃんと許可はもらってるので、ご心配なく」

「別に心配はしてない。店にジェシカたちもいるし、もし逃げてきたなら捕まえてもらおうと思っただけだ」

「久しぶりだと言うのに、扱いがひどいですね…。そこは穏やかに挨拶くらいしましょうよ」

二人がそんな感じで話している間、私はずっと、辺りを見ていた。植木鉢があったらどうしよう、と思ったのだ。念入りに何回も見てみたが、植木鉢っぽい物はなさそうなので、ほっとした。

「…さて、私はそろそろ行きます。祭りの準備があるんですよね?」

「そうですけど…、何で知っているんですか?」

私がそう尋ねると、ヘルさんは向こうのほうを指さしてこう言った。

「そこら辺で宣伝してましたよ。だから、そうなのかな、と。楽しそうですねー。私も行きたいです」

しかし、ヘルさんのその言葉をルイはばっさりと却下した。

「絶対来るな。来たら追い返すからな」

「ひどいですね…。まあ、ものすごく行きたいわけではないし、あの方にも会いたくないのでやめておきます」

そう言ってヘルさんは歩き始めた。…え、ちょっと待って。説明なし!?すごく言葉の続きが気になるんだけど…!あの方、には何となく心当たりはあるけど、でも、本当にその考えは合っているのだろうか?

「ヘルさん!あの方、って、それは……!」

私がそう言うと、ヘルさんは立ち止まった。そして、こちらを振り返って言った。

「たぶん、予想はつくのでは?大変なことになりそうですけど、まあ、頑張ってくださいね」

他人事…。まあ、お祭りに来ないみたいだし、そうなのかもしれないけど…。でも、少し不安。だって、ヘルさんのその言葉は予言めいていたから。そして、私はヘルさんの言う通り、その人物が誰か、何となく分かっている。それは恐らく、ルイもだろう。


ヘルさんの姿が見えなくなった後のこと。

「ヘルさんが言ってた、あの方、って…。ルイのお父さんのことだよね…?」

「…ああ。ヘルが会いたくない相手ってそれくらいしかいなさそうだし。その可能性が高い。それに、ヘルがあんなにきっぱり言うってことは、絶対あの人が来るってことだと思う…」

沈黙が落ちる。何となく重い雰囲気になってしまった。すると、ルイがその場の空気を変えるように、話の話題を変えた。

「そういえば、結花、何でこんなところに来たんだ?文房具屋に行くにはここは通る必要がないだろ?」

「気分転換にちょっと遠回りしようかな、って思って…。それで何となく河原に来てみたんだけど、そしたらナデシコを見つけて。摘んでもいいのかな、って思ってたらヘルさんが来て、そのまま話してた」

私がそう答えると、ルイは少し呆れたような表情になって言った。

「あのな…。遠回りするのはいいけど、何でヘルと話してるんだよ…。一応、お前に怪我させた奴だぞ」

「確かに…。でも、ちゃんと謝ってくれたよ?ルイが来る前のことだけど…。だから、いいかなって。ヘルさん曰く、ジェシカさんに怒られたらしいよ」

「…??ジェシカが…?何があったんだろうな。後で聞いてみるか」

「そうだね。……あ!そうだ、ナデシコ、摘んでもいい?」

「…いいけど、早くしろよ。そうだな…、あと十秒で。十九八七六…」

早いってば!!ルイのカウントダウンは相変わらず容赦ない。カウントダウンされると余計焦るからやめてほしい!それと、さすがに十秒は短すぎる。せめて、一分にしてほしい。…と思っているうちに、あと一秒になった。

「ゼロ。…って、全然摘んでないけどいいのか?」

「ルイの意地悪!!!そんなにすぐに摘めるわけないでしょ!!!どうせなら長持ちするように蕾が多い花にしたいし…、ちゃんと確認しないと」

「はいはい。待っててやるからゆっくり選んどけ。どうせ店に飾りたいんだろ?だったら、いいのを選べよ」

私はうなずきかけたが、あることが引っかかってルイの方を見た。

「私、ナデシコをお店に飾りたい、って言ったっけ?飾りたいな、とは思ってたけど…」

「結花のことだから、そうだろうな、って思っただけだ。当たってただろ?」

「あ、当たってるけど…。分かってたならカウントダウンとかしないでよ…。焦るんだけど…」

「悪い悪い」

ルイはそう言ったが、その表情はどう見ても悪いとは思っていなさそうだ。むしろ、面白がってる気がする…。そういうところはある意味、ヘルさんに似ているような気がするのだが、気のせいだろうか?

秋の七草という言葉自体は知っていましたが、どの植物なのかや由来を全然知らなかったため、今回、この話を書くにあたって調べてみたら、面白かったです。植物図鑑で調べたところ、万葉集の山上憶良の歌に出てくる七つの秋の草が秋の七草なのだそうです。かなり驚きました。

読んで下さり、ありがとうございました。

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