第四十八話
その次の日のこと。お店は定休日だったけど、私は早めに起きて、小屋に籠ってお祭り用の商品作りをしていた。でも、なかなか進まない。何となく、作ることに集中できないのだ。なので、私は一旦手を止めた。そして、ポプリの瓶が大量に入っている箱に目をやる。一つ一つは小さいけれど、とにかく量が多すぎるので、運ぶ時、大変な気がする。絶対、重いだろうな…。というか、お祭りが三日間開催されるとは言え、こんなに売れるのかな?少し心配になる。でも、売れ残ったらお店で売ればいいわけだし、まあ大丈夫だろう。食べ物じゃないから、賞味期限とか考えなくていいし。しばらく私は箱の中をぼーっと見ていたが、時間がかなり経ってしまったことに気付き、慌てて作業を再開した。…のだが。
「どうしよう、やっぱり全然進まない…」
今日のうちにやっておかないと、後で大変なことになるのは分かっているが、進まないものは進まないのだ。その理由は自分でもはっきりと分かっている。ぼーっとしていると、なぜか昨日のことを思い出してしまうのだ。そして、少しパニック状態になってしまう。ただ、進まない原因は分かっているのに、その対処法が全く分からない。本当にどうすればいいのだろう?なんだかもやもやする…。
「困ったな…。気分転換に何か別のことでもしようかな?…って言っても、何しよう?」
私がその場にばたん、と寝転がると、不意に私ではない、他の人の声が聞こえた。
「何が困ったの?あと、気分転換するなら、わたしと遊ぼうよ?最近、遊べなくてつまらなかったし」
その声の主はそう言って、私の顔を覗き込んだ。その顔を見て、驚く。私は慌てて起き上がった。
「ジェシカさん!魔法協会をまた抜け出してきたんですか!?傷薬には感謝してますけど、抜け出しすぎるとさすがにばれちゃいますよ?」
「違うよ!?ちゃんと仕事は全部終わらせたからね?あと、その言い方だと、わたしが脱走魔みたいだよ!」
脱走魔、って…。つっこむところ、そこなんだ!?というか、仕事が終わった、ってことは…。
「無事に話し合い、終わったんですか?」
「無事でもないけどね。みんなの意見が思いっきり割れすぎたせいで大喧嘩…じゃなくて、大論戦が何回も起こりまくっちゃって、そのせいで会議室が魔法で滅茶苦茶になっちゃったんだよねー。その修復が大変だった…。それに、ここに来る許可を取るのも大変だったんだよ?」
そう言ってジェシカさんは魔法協会での出来事を話してくれた。
「えー、全部仕事終わったんだから、いいじゃないですか!いいって言ってくださいよ!」
ジェシカは不満げにそう言った。ジェシカはお祭りに行くための許可を得るために、隊長にそのことを直談判しているところだった。しかし、隊長はなかなかうなずいてくれない。基本、魔法使いは協会の外に出てはいけない、という決まりがあるからだろう。しかも、ついさっきまで、協会内が大荒れだったので、外出は絶対に禁止だったのだ。でも、ほんの少し前、全ての仕事が終わったため、ジェシカは早速隊長のところに行って、シェーロン国に行く許可を取ろうとしたのである。
「ダメなものはダメだ。そもそも、そこに何をしに行くつもりなんだ?」
「えーっと…。それは…」
お祭りに行く、と言ったら絶対に許可してくれないだろう、と思ったジェシカは言葉につまった。すると、隊長はやっぱり、というような表情になった。そして、近くにあった魔法の花に触れる。その瞬間、ジェシカは隊長の部屋の前に転移させられていた。
「あ、やっぱりダメだったんだ。ジェシカ、ドンマイ。それにしても、よく諦めないよね…。今ので、交渉するの十回目くらいじゃなかったっけ?」
部屋の前で待っていたゼンが苦笑いする。ジェシカはため息をついた。
「うるさいなー。ゼンも一緒に行ってれば、すぐに隊長を説得できたのに…。何で一緒に来てくれないのよ?」
ジェシカは少し恨めしそうにゼンを見た。しかし、ゼンはその視線をスルーして言った。
「だって、ジェシカが何かを隊長に頼むときって、必ず僕に頼ませるよね?だから、たまには一人で行って欲しいな、って思って」
「た、確かにそうだけど!それは、わたしよりもゼンの方が、断然交渉が上手いからで…。というか、ゼンはお祭り行きたくないの?絶対、絶対、楽しいよ?それにわたし、お祭りに最近行ってないから、どんなものか忘れちゃったし…」
「お祭りに行った時の記憶がないのに、絶対楽しい、って…。矛盾してる気がするんだけど、気のせい?」
「気のせい気のせい。細かいところはいいの!…そういう風に細かいところを突いてくるところは隊長にそっくりだよねー」
ジェシカは適当にごまかした。そして、顔の前で手を合わせて言った。
「ゼン、一生のお願い!本当にお願い!お祭りに行きたいの!」
ゼンはしばらく黙っていた。しかし、結局こう言った。
「一生のお願い、って前にも言われた気がするけど…。しょうがないな…。いいよ。やってみる。上手くいくか分からないけどね。もしダメだったらちゃんとジェシカが交渉して」
「…で、ここにいるってことは、結局、許可もらえたんですね」
「うん!あとね、ゼンも一緒に来てくれたんだ。今、ルイと話してるんだけど…。だから、お祭り一緒に回れそう!嬉しいな。…あ、もちろん、結花とも一緒に回るからね?ふふ、今から楽しみー」
「私も嬉しいです。ジェシカさんがお祭りに来てくれるなんて」
「あ、でもね、ゼンってばひどいんだよ?迷子にならないように気をつけてね、もし迷子になっても探さないから、ってわたしに言ったの!わたし、子どもじゃないんだけどな?」
そう言いつつもジェシカさんはうきうきしている。ゼンさんと一緒なのが本当に嬉しいのだろう。それに、なんだかんだゼンさんってジェシカさんに甘いよね。何かいいなー…。すると、ジェシカさんがにこにこしながら言った。
「結花は、ルイと一緒にお祭り回ったりしないの?」
「…!!?え、や、その…、と、特にそういう話は全然…!そもそも出店の準備で忙しくて、そういう話をしているどころじゃなくて…。何でですか?」
ジェシカさん、急にその質問しないでほしい…。確かに、一緒に回りたいな、とは思うよ。思うんだけど、今の状態だと一緒に回れないんだって…!たぶん、回ってる途中でどうすればいいか分からなくなって、その場から逃げ出してしまう気がする…。で、後からルイに怒られそう…。それに、ルイには好きな人がいるみたいだし、私じゃなくて、その人と一緒に回りたいんじゃないかな?でも、そう考えると、なぜかちょっと寂しくなった。…?私、そんなに寂しがり屋だったっけ?そうでもないと思うんだけど…、よく分からない。
「え、何でって…。普通に、そうなのかなーって。…っていうか、そういう話をしてないってことは、全然距離が縮まってない、ってことなのかな…。残念だなー」
最後の一言をジェシカさんはかなり小声で言っていたが、聞こえてしまった。というか、残念、って何が残念なんだろう?あと、距離が縮まっていない、って…。一体、誰と誰の?
「そういうジェシカさんは、ゼンさんとはどうなっているんですか?すごく気になるのですが…」
すると、ジェシカさんの顔が急に赤くなった。そして、やや視線を逸らしながら言った。
「ま、まあ、一応、協会では一緒にいる時間が多かったし、色々話したんだけど…。でも、どうにもなってないよ。特に何も進展はない!…って、やっぱり自分がこういう話をするのは、めちゃめちゃ恥ずかしいんだけど?!この話、一旦ストップ!」
どうやら照れているみたい。やっぱり、ジェシカさんって可愛いな、と思ってしまう。…と、その時だった。急に小屋の扉が開いて、ゼンさんが入ってきた。タイミングが良すぎて驚く。ジェシカさんなんて、驚きすぎて、叫びかけてた。
「お久しぶりですね。…あ、ジェシカがうるさくなかったですか?いつもすみません」
「ゼンさん、こんにちは。ジェシカさんと話してると楽しいですし、全然うるさくないので大丈夫です」
私はそう言ったが、ジェシカさんがむっとしたような表情でゼンさんを見る。
「ちょっと、ゼン…!?何でそんなこと言うの!わたし、そんなにうるさくないと思うんだけど!」
「そうかな…。うるさくないならいいんですけど…。あ、そうだ、ルイから伝言です。至急、店の方に来るように、とのことだそうです」
!?待って、何でゼンさんに伝言役やらせてるの!??そこはちゃんと自分で言いに来た方がいいものでは?全く…。ゼンさんは気にしていないようだけど、何だか申し訳ない。
「すみません、ルイの人使いが荒くて…」
「いえ。ルイも準備で忙しそうですし。何だったら、僕も何か手伝いましょうか?さっきも軽くルイの方を手伝ってきたんですけど…」
「あ、大丈夫ですよ。たぶん、お祭りには間に合うと思うので。それに、どっちかと言うと、ルイの方が心配です。最近、夜遅くまで起きてるみたいだし…」
「えー、でも、結花もさっき、全然進まない…、とか言ってなかった?本当に大丈夫なの?」
え、聞いてたの?それにそれを聞いてたってことは、ジェシカさんは私に話しかける少し前からここにいたってこと…だよね?一体いつから…?
「それに、結花がぼーっとしてるって、何か珍しくない?何かあったの?何だったら相談のるよ」
「いや、別に、大したことではないんですけど…。たぶん、時間が経てば大丈夫です。…たぶん」
「二回もたぶん、って言ってるけど、本当に大丈夫?何か心配になるんだけど…」
ジェシカさんにすごく心配そうな表情をされてしまった。…でも、もし私がその理由を言ったら何て言われるかな?というか、言うのが恥ずかしいんだけど…。うん、今は言うの、やめておこう。それで、もしもずっとこんな状態が続くようだったら、ジェシカさんに相談しよう。それが最善策だと思う。…と思っていたら、再び扉が開いて、ルイが入ってきた。
「遅いから、何かあったのかと思って様子見に来たけど…、話してるだけだったのか」
「ごめん、ついつい長話しちゃって。でも、ジェシカさんたちがいるし、お店のすぐそこだから、何かあってもたぶん大丈夫だよ?」
私がそう言うと、ジェシカさんが「そうだそうだー」と何故か賛成してくれた。
「確かにそうだけどさ…。心配なもんは心配なんだよ」
ルイはそう言って、さっさと小屋から出ていってしまった。
「あ、ルイ、待って!じゃあ、二人とも、また後で!」
私はルイの後を追った。
小屋に残されたジェシカとゼンは結花たちがいないのをいいことに、色々話し始めた。
「ルイって、案外、過保護なのかな?少ーし時間が遅いだけでも様子を見に来るなんて…。何か意外!」
ジェシカのその言葉にゼンも同意した。
「確かに。でも、もうちょっと上手く自分の気持ちを伝えればいいと思うんだけど。あの感じだと、まだまだ伝わるのに時間がかかりそうだよね」
「でも、前よりはまだましじゃないの?前はもっと、分かりにくかったもん。この調子で行くといいんだけど。お祭りとか、絶好の機会じゃない?…あ。でも、結花がさっき言ってたんだけど、一緒にお祭り回る、とかそういう話、全然してないみたいだよ」
「……。やっぱり、まだまだだね」
二人の魔法使いは、苦笑した。
ジェシカとゼンが再び登場です!
読んで下さり、ありがとうございました。




