第四十五話
「で、お祭りのことなんだけど…」
私はそう言って、ティーバックの話をした。ルイはとても真剣に聞いてくれた。
「確かにそれがあったら便利だろうな。普段だって使えそうだしな。で、どうやって作るんだ?」
「それが問題なんだよね…。どこかの工場で大量生産された物を買ってただけだから…」
「こーじょー?たいりょー…?何だそれ?」
まさか、この国にはない言葉だったとは…!でも、確かに、元の世界みたいに保存料とかないみたいだから、大量に生産しても食べ物とかは無駄になってしまうのだろう。
「あまり気にしないで。要するに、自分で作ったことがないから分からない、ってこと」
「そうか…。ティーバックじゃなくて、他の売り方じゃダメなのか?」
「別にいいんだけど…、その方が便利なんだよね…。でも、ダメなら普通に缶みたいなものに茶葉を入れちゃってもいいよ。それに、もしかしたらティーバックで売っても使い方が分からないかもしれないし…」
「そうだな……。俺は、いい案だと思うけど、色々問題があるな…。ティーバックは来年の祭りまでの課題にして、とりあえず今年は、他の何かに入れて売るか?」
私はその言葉に反応した。
「来年のお祭り、ってことは、来年も出店するの?」
「いや、まだ決めてないけど。でも、せっかくいい案を出してくれたんだし、ちゃんと形になった方がいいだろ?ただ、茶葉がそこまでないのと、ティーバック作りに時間がかかりそうだから、とりあえず今年は他の商品に集中しておいた方がいいかと思ったんだ。でも、結花がどうしても作りたい、って言うんだったら、寝る時間削って協力する」
「!?いや、こだわってるわけじゃないから大丈夫だよ?!あと、体に悪いからちゃんと寝てね!」
「さすがに徹夜はしたことないから大丈夫だ。心配するな」
徹夜はしたことない、ってことは、寝る時間削ったことはあったのかな?睡眠ってけっこう大事なのに…。まあ、私も元の世界で、テスト前は徹夜で勉強したこともあったから、人のこと言えないんだけどね…。あの時は、真面目に授業聞いとけば良かった…、って後悔したな…。あと、宿題終わらなくて遅くまで起きてたこともあったっけ?…うん、やっぱり人のこと言えない。
「って、悪い、話が逸れたな。で、どうする?もともと結花の案だし、どうするかはお前が決めろ」
「んー…。ティーバックは作りたいけど、ルイの言うことも一理あるんだよね…。どうしようかな…」
結局、今年はティーバック作りはしないことにした。そっちに時間をかけていたら、ポプリとか間に合わなさそうだし…。なので、ハーブティーの茶葉は何か他の物に入れることにした。
「あ、でも、何ミリリットルに対してどれくらい入れるのがいい、とか書いておいた方がいいよね?そうじゃないと、濃くなる可能性があるし」
すると、それを聞いたルイがなぜか楽しそうに笑った。…なんだか、嫌な予感がするんだけど、たぶん、気のせい…だよね?
「よし、それじゃあ、字の練習ついでに、その説明の紙を書けばいいな。そしたら、字も覚えられるし、祭りの準備もできるし、一石二鳥だろ?」
「確かにそうだけど!手紙を書くためにも字は書けるようにしたいけど!なんか、すっごい嫌な予感がするよ?!」
「気のせい気のせい。心配するな。何とかなるんじゃないか?」
やっぱり、なんか不穏…。だって、ルイがこういう顔をしてる時って、絶対に何か企んでる時だ。数字を教えてもらった時もそんな感じだったもん。でも、最初に文字を教えてほしい、って言ったのは私だ。だったら、最後までちゃんとやりきりたい。
「ってことで、今日から早速やるか。難しいと思うから、覚悟しとけよ」
やっぱり不穏だ…。何だか逃げたくなった。いや、逃げないけど。ちゃんとやるけど、何か怖い…。
夕方のこと。私は紙に文字を大量に書いていた。なのに、ちっとも上達しない…。まだ、一文字目なのだが、未だに上手く書けない。三十分くらい書き続けてるんだけど。…何でだろう?自分ではかなりできた、と思っているのだが、ルイにびっくりするほどダメだしされる。まあ、数字の時もそんな感じだったから、何となく予想はしていたんだけど…。
「今度こそ書けたよ!今度は絶対に、絶対に成功!…したはず?」
「何で途中まで自信満々なのに、最後だけすごい自信なさそうな感じなんだよ…?」
ルイはそう言って文字が大量に書かれている紙を取ってじっと見た。
「…さっきよりは、ほんの少しだけましだな。でも、何かおかしい…。ここの点の部分か?これ、似てる字があるから、ちゃんと正確に書かないと間違われるぞ」
と、その時だった。お店の扉が開いて、再びネネが登場した。…お昼頃、帰ったはずじゃなかったっけ?確か、ここからお屋敷って、けっこう時間かかるはずなんだけど?
「やっほー。母様が偶然、植物屋さんにいたから、屋敷まで帰る必要なかったんだ。だから、また来ちゃった」
「…出た」
ルイがぼそっとつぶやいた。『出た』って…。言い方が…。すると、ネネにもそれが聞こえていたらしく、むっとしたような表情でルイを見た。
「ちょっと!?出た、って何よ、出たって?!どういう意味?あたしはお化けじゃないんだけどな?」
「今日、もう一回来るとは思ってなかったんだよ…。あんた、神出鬼没すぎる」
ネネのことを『あんた』呼ばわりしちゃっていいのだろうか…。少し不安になる。でも、それを言ったら、ルイはお昼の時もネネを追い返していたんだよね…。まあ、その時ネネは特に何も言っていなかったし、たぶん大丈夫だろう。
「まあ、それはいいとして。二人とも、何やってるの?…ん?紙?何か書いてるんだ?」
そう言ってネネは、文字が大量に書かれている紙をじっと見た。そして、怪訝そうな表情になった。首をかしげ、つぶやく。
「これ…、何?シェーロン語…、かな?かろうじて読めなくもないけど…。これ、誰が書いたの?」
「私。ルイに文字を教えてもらってるんだ」
私がそう言うと、ネネは微妙そうな表情でこう言った。
「うーん…。これ、言っていいのかどうなのかよく分からないけど、言っていいかな?結花、あなた、シェーロン語の才能…、才能って言うのか分からないけど。あ、センスって言えばいいのかな。…まあ、つまり、そういうのが全然ないよ。諦めた方が早い気がする…。というか、ルイ、逆によくここまで根気強く教えられたよね。ある意味、尊敬するよ」
……うん、何となく、数字の時から分かってたよ。薄々そのことには気付いてた。だって、知らない言葉とは言え、書けるようになるまですごく時間がかかったもの。でも、はっきりそう言われると、けっこうぐさっと来る…。そんな私をよそに、二人は話を続けた。
「尊敬する、って言われても、嬉しいような嬉しくないような…。まあ、とりあえずありがとう」
「どういたしまして。でも、大丈夫?結花、上達するか分からないよ?あたしだって、一番最初はかなり下手で、母様に呆れられるほどだったけど、結花ほどじゃなかったよ?」
「やっぱりそうか?数字の時もこいつ、大変だったんだよ…。何とか習得したけどな。ただ、そうなると、どうやって教えるべきか…」
「えええ!??数字、大丈夫だったの?!すごい…。まあ、確かに数字くらいはちゃんとやっておかないと、買い物とかお店の会計の時に困るもんね。でも、やっぱり、ルイってすごい。シェーロン語が壊滅的にできなさそうな結花に教えるなんて…。ちょっと見直した」
うう…。すごく、ぐさぐさ来るんだけど…。そもそも、この二人、私がいること忘れてるんじゃないかな?なんか、そんな気がする…。というか、壊滅的、って、そんなにひどいんだね…、私のシェーロン語。でも、習得しないとこの先不便そうだしな…。ルイには迷惑かもしれないけど、できるなら教えてもらいたい。あ、何だったら、他の誰かに頼む、とか?でも、それはそれで、その人に迷惑かな…。そんなことを考えていると、ふと二人の会話の続きが耳に入ってきた。その話の話題はなぜか、シェーロン語の話からかなりずれていた。…いつの間に。
「見直した、って…。逆に、何であんたの俺に対する評価みたいなのが下がったんだよ?ほとんど話したことないだろ…。まともに話したの、今日が最初なんじゃないか?」
「まあ、確かにそうだね。理由は…、色々だよ、色々…。ここで言っちゃうとまずいから言わないけどねー」
「は!?何だそれ?意味分かんないし…」
「まあ、超簡単に言うと、ルイは間抜けなほど鈍感だ、ってことだよ!」
間抜け、って…。けっこう辛辣だ。というか、何で鈍感?何に対しての鈍感なんだろう??よく分からない。ルイも意味分からん、というような表情をしていた。
「ってか、あんたな…、間抜けって何なんだよ?!表現が謎すぎる…」
「反応するの、そっち?あたしが言いたかったのは、どっちかと言うと、鈍感の方だったんだけど…。上手く伝わってなかったかな??うーん…、それなら、あたしが今までに会った人の中で一番鈍感って言えばいい?」
「あんたの基準がよく分からん…。それと、何で俺が鈍感なんだよ?」
「さあ?何ででしょう?自分で考えることも大切だよ!」
ネネはにっと笑って私の方を見た。
「で、どうするの、シェーロン語?続けるの?上達するかは、保証できないよ?」
「確かにそうだけど…。でも、最低でも、読めるようにはなりたい、かな。それと、手紙に書く宛名も。そうじゃないと、ネネに手紙書けないし」
「あー…、そういえば。別にいいよ、あたしが一方的に送るだけでも。結花が迷惑じゃないなら」
「でも、約束したでしょ?手紙を送る、って。約束したんだし、手紙を送らないと気が済まない…」
すると、ネネは目を丸くしたが、その後で嬉しそうに、でも、どこか照れたように笑った。
「…ありがとう。ま、それならせいぜい頑張ってね。すっごく大変だろうけど。一年くらいなら返事が来るの、待ってあげる」
一年…。けっこう長い。
「何で上から目線なんだ…」
ルイが小さくつぶやく。まあ、確かに、微妙に偉そうな感じだったね。でも、たぶんネネは…。
「ネネ、もしかして照れてる?」
「う、うるさいな。わざわざそれを指摘しないでよ…。もうあたし帰る!」
ネネはそう言ってさっさと行ってしまった。何だか可愛い。
「何か…、ネネと話すとすごく疲れる…」
なぜかルイが脱力している。あ、そういえば、さっきの「鈍感」って言われた理由、分かったのかな?ルイにそれを聞くと、一瞬黙った。
「分かったような分からないような…。けど、さっきこの話をしたときのネネが何か怖かったから、ちゃんとどうしてか考えた方が良さそうなのは確実だ…」
そうなの?私は全く何も感じなかったけど…。私にもよく分からないので、とりあえず、文字の続きを書くことにした。
恐らく、今日からいつものペースに戻れると思いますので、よろしくお願いします。
読んで下さり、ありがとうございました。




