第四十四話
「いつまでもさぼりまくってたら、恋人さんに呆れられますよ?」
アケビさんが余った紙に落書きしていると、スイさんがそう言った。そういえば、アケビさんには恋人さんがいるんだっけ?確か、同じ植物屋さんで働いている、ってルイは言っていた気がする。どんな人なんだろう?
「ちょっと、スイちゃん!?他の人の前でそれを言わないでよ。恥ずかしいんだけど?!」
「あ、別に大丈夫ですよ。昨日、ルイに聞いたので、知ってました。」
「はい!??…って、何でルイとそんな話をしてるのよ……?」
「話の流れでルイに好きな人はいるか、って話になったんですよ。その時に成り行きで」
すると、なぜかアケビさんとスイさんが顔を見合わせた。そして、こそこそと話し始める。
「ちょっと待って。本当に何でそうなった?そもそも、聞き方ストレートすぎない?ルイ、その時大丈夫だったのかな?思わぬところから攻撃された気分だったんじゃない?心配になるんだけど…」
「同感ですね。さっき会ったときは何ともなさそうでしたけど…、心の中は分かりませんからね。というか、結花さま、天然すぎませんか?!あ、天然と言うより…、鈍感…?」
「うん、そうだよね。まあ、そもそもルイも鈍感だしな…。あんな感じじゃいつになっても関係が進展しない気がするんだよね…。というか、ルイは何て答えたんだろう?まさか…」
何を言っていたのかは全く分からなかったが、しばらくすると、二人してほぼ同時に私の方を向いた。息ぴったりだ。そんなことを思っていると、アケビさんが質問してきた。
「で、その時、ルイはそれに関して何て言ってたの?」
「誰が好きかは明言してなかったですけど、好きな人がいることは認めてましたよ。一体、誰なんでしょうね?お二人には、心当たりとかありますか?」
すると、二人は再びひそひそと話し始めた。な、何か私、変なこと言ったっけ?言ったつもりはないんだけど…。というか、何の話をしているんだろう?気になる…。
「こ、この質問、答え方に困らない?!まさか、結花ちゃんだよ、ってわたしたちが言うわけにもいかないし。というか、絶対にわたしたちが言っちゃいけないことだし!かと言って誰だろうね?ってはぐらかすのも無理だし…。わたしの演技力じゃ、絶対ばれる…!」
「ですね…。というか、そもそも、結花さまはルイ様のことをどう思っているのでしょうか?あの感じを見ると、たぶん、自分がどう思っているか気付いてないのだと思いますが…、どうなんでしょう?」
「確かに気付いてなさそう。ルイも大変だな…。やっぱりルイ、大丈夫かな…?」
二人は再び私の方を見た。やっぱり息ぴったりだ。すると、スイさんが言った。
「私たちは何となく察しがついていますが、その上でお聞きします。結花さま自身、ルイ様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
「え、わ、私、ですか?うーん…、よく分からないですね…。ジェシカさんには、私はルイのことが好きなんじゃないか、って言われましたけど…」
「「!?!?」」
なぜか二人が目を丸くした。え…、そんなに驚くことだった?でも、私も聞いたとき、驚いたしね…。まあ、そもそも、私自身、よく分かってないんだけど。すると、アケビさんが言った。
「まあ…、それに関しては、どうしても気になるならルイに聞いた方がいいんじゃないかな?それと、自分の気持ちに関してはこの前も言ったけど、たぶん自分の気持ちだから、いつかはちゃんと気付くんじゃないかな?すぐに、かは分からないけどね…」
「???そう…、ですか…」
自分の気持ち…、とは、一体何なのだろう?難しい…。ぐるぐると考え込んでいる私にアケビさんは柔らかく笑って言った。
「そろそろお昼ごはんの時間じゃない?これ以上遅くなるとルイもさすがに心配になるだろうし、帰った方がいいかも。ルイによろしくね」
「…分かりました、お店に戻ります。イラスト描くの頑張ってくださいね」
私は植物屋さんを後にした。結局、自分の気持ち、というものがよく分からないままだ。うーん…、謎。何だかもやもやするので、お祭りのことを考えることにした。ただ、どんな感じなのかがよく分からない。どうしても、元の世界のお祭りを想像してしまう。わたあめとか売ってるのかな?あ、あと、かき氷とか。最近は特に暑いので、やっぱりかき氷が食べたいな。あと、焼きそばとかりんご飴とか?…って、食べ物ばかり想像してしまった。そこまで食い意地張ってないはずなんだけどな?でも、お祭りと言えば食べ物、って感じがどうしてもしてしまう。うん、とりあえず、食べ物の話はおいておこう。…そういえば、出店に出す商品、何にしようかな?この前サーニャ様に作ったみたいな水の中の花でも良いかもしれないけど、時間がかかってしまう。誰かに手伝ってもらえればいいのかもしれないけど、手伝ってくれる人、いるかな?あ、あと、この前、途中で考えるのを止めてしまった、ティーバック。それが商品化できたら、もっと便利になるはずなんだよね。普段、お店で売ることだって可能だし…。帰ったらルイに相談してみよう。
そう思いつつお店の前に着いた私だったのだが、その直前で思わず立ち止まってしまった。お店の前に一人の少女が立っていたからだ。その傍らには、いつかの時のような馬車があって…。すると、少女が私の方を見た。そして、満面の笑みを浮かべた。
「結花、お帰り!あと、久しぶり!怪我は大丈夫?」
「ネネ!王宮にいるんじゃなかったの?どうしてここに?というか、あなたから手紙をもらったばかりなんだけど…」
そう、そこにいたのは、ネネだった。服装は貴族風のドレスじゃなくて、ここら辺にいる人が着ているような割とシンプルな服だったから一瞬誰だか分からなかったけど、印象的な黒髪は、間違いなくネネの物だ。それにしても、本当にびっくりした。
「今日はね、王宮でお祭りみたいなことをしていて、お仕事がほとんど全くないの。だから、帰ります、って言ってこっちに来ちゃったんだ。先輩も認めてくれたからいいかな、って」
どこかいたずらっぽくネネは笑った。でも、ちょっと不満げにこう言った。
「でもね、王宮から戻ってきて、真っ先にここに来たら、ルイに追い払われたんだよね。『帰ってきたなら先にサーニャ様のところに行け。あと、結花は今、外出中だ』って。だから、意地でもここにいようと思って、扉の前で立ってた、ってわけ」
ルイ?!そんな対応しちゃっていいの?!かなり不安なんだけど…。でも、ネネはそこまで気にしてなさそうだった。私がそのことにほっとしていると、ネネが尋ねてきた。
「で、怪我は大丈夫?本当にごめんね、あたしのせいであんなことに…。ずっと心配だったんだけど、王宮へ行かないといけない日が決まってたから、タイミングが合わなくて…」
「ジェシカさんが傷薬みたいなものを塗ってくれたから、たぶん大丈夫だと思うよ。でも、私こそ終わった後で倒れちゃって、迷惑かけちゃったし…」
「全然迷惑じゃないよ!迷惑だったとしても、あたしがかけた迷惑よりはだいぶましだと思う…。でも、ルイにはかなり心配かけたんじゃないかな?結花が倒れた後、ずっと心配そうな表情してたから…」
「え…。そうだったの?全然知らなかった…。私、あの後三日間くらい寝てたんだけど、ルイからはポプリを買いに来たお客さんへの対応が大変だったことくらいしか聞いてない…」
すると、ネネは何とも言えないような表情になってつぶやいた。
「全く、ルイは何をやってるんだか…。そんなんだから、結花に自分の気持ちが伝わらないのよ…。見てるこっちがもやもやしてくるんだけど…」
「…?ごめん、今、何て言ったの?」
「何でもなーい。それより、お店に入らない?外で話してたら熱中症になりそうだし…」
「それもそうだね。私もルイに帰ってきたこと伝えなきゃいけないし」
私はお店の扉を開けた。すると、何かを書いていたらしいルイが顔をあげた。
「お帰り。意外と早かったな。アケビのことだから、夕方くらいまで結花のこと、引き留めておくかと思ってた。…あ、さっき、ネネ様が来てたけど、会ったか?」
「会ったも何も、お店の目の前で立ってたよ。というか、私の後ろにいるけど…」
もしかして、ルイから見ると、ネネの姿が私の陰に隠れちゃってて見えないのかもしれない。私は、少し横にずれることにした。すると、ネネがルイにひらひらと手を振った。
「やっほー。さっきぶり。ところで、今、何してるの?」
「祭りの出店の書類作り。面倒すぎて書く気が起きないから困ってる。というか、まだ帰ってなかったのかよ…。ほら、さっさと帰れ」
「扱いひどくない!?あたしは別にいいけど、他の貴族の人にそんな態度取ったら絶対に怒られるからね!?それで、罰されても知らないからね?!」
「あー、はいはい。分かりました。次から気をつけます。ということで、帰ってください」
「言葉は丁寧だけど、全然態度が変わってない!!」
…。仲がいいのか悪いのか、よく分からない。でも、このままにしておくと更にヒートアップしそうなので、私は無理矢理、間に入った。
「ストップストップ。とりあえず二人とも落ち着こうよ、ね?それに、お客さんが入ってきた時に驚くだろうから、少なくとも今は喧嘩しちゃダメ」
そう言うと、二人とも大人しくなったので、ひとまず大丈夫そうかな。
「ところで、出店の書類作りってことは、今年のお祭りで何か売るの!?」
「そのつもりだ。具体的にはまだ決めてないけどな…」
「へー。いいなー!あたしもお祭り行きたい。頑張れば、お休みもらえるかな?うーん…、王宮に戻ったら、とりあえず予定の確認をしてみよう。今から楽しみだなー」
ネネは本当に楽しそうにそう言ったが、ルイが水を差すようにこう言った。
「まだ、来れるかどうか決まってないだろ…。喜ぶならちゃんと決まってからにしろよ」
「た、確かにそうだけど!想像するくらい別にいいでしょ!?というか、本っ当にルイって意地悪だね?!そんなこと言ってると、好きな人に嫌われちゃうんだからね!」
ネネがそう言うと、ルイはそっぽを向いた。
「は?関係ないだろ…。ってか、本当にあんた、屋敷に帰れ。サーニャ様に怒られるぞ」
「その前にルイが怒ってるけどね。それに、言われなくてももう帰るもん!」
ネネはそう言ってついさっき入ってきたばかりの扉に手をかけた。
「結花、また来るね!あ、もしルイに意地悪されたら、あたしに遠慮なく言ってねー」
そう言ってネネは扉を開け、風のごとく去っていた。その後で、ルイがこうつぶやいた。
「…。竜巻が来たみたいだったな…」
なかなかお祭りの話に行かない…。スピードアップしないと…。と思っているのに、全然上手くいってない人です。
読んで下さり、ありがとうございました。




