第四十二話
翌日のこと。眠っていた私は、誰かの声にいきなり起こされた。
「結花、起きて起きて!お願いだから早く起きて。時間がギリギリなの!早くー!」
私は瞼をゆっくりと開けた。…と、そこにいたのは、ジェシカさんだった。え、何でここに?何が起こった?昨日の今日だよ。というか、魔法協会にいなくて大丈夫なのかな?
「あ、起きた。おはよう、結花。早速だけど、怪我したところを見せてくれる?治療するから」
「えーと、状況が全く読めないんですけど、どういうことですか?」
ジェシカさんは私の腕の包帯をほどきながら答えた。
「結花のこの怪我なんだけど、魔力を帯びたものでできた傷だから、ちょっと工夫しないと治らないんだよね。だから、わたしが治療しに来たの」
「そ、そうなんですか?ありがとうございます。でも、協会抜け出して大丈夫なんですか?」
「微妙かな。というか、かなりまずい?なかなか上手く話し合いがいってなくて…、忙しいんだよね。簡単に言うと意見が対立してる、って感じかな…」
「そうなんですね…。まあ、千年もかかった問題ですし、すぐ解決できないでしょうね…」
「そういうこと。協力者たちのおかげで何とか外に出られたけど、ばれたらかなりまずいかなー」
ジェシカさんはそう言いつつ、私の腕のまだ塞がっていない傷に何か薬らしき物を塗っくれた。い、痛い…。ものすごく染みる。
「ごめん、痛いよね。でも、寝てる間はこれを塗っても全く反応してなかったよ?」
え、そうだったの!?こんなに痛いのに…。何で気付かなかったんだろう…?自分でも不思議。
「はい、これでオッケー。これで大体塞がるはずだよ。でも、念のため明日も来るね」
「本当にありがとうございました。あ、話し合い、頑張ってくださいね!」
「ありがと。じゃ、来たばっかりだけど、もう行くね。遅くなりすぎると、わたしの抜け出しにものすごく協力してくれてるゼンに怒られるからね…」
ジェシカさんはそう言っていつの間にか手に持っていた魔法の花を一振りした。すると、その直後、ジェシカさんの姿がその場から消えた。傷を見ると、さっきまでは開いていた傷口が三分の一くらい塞がっている。早っ!でも、すごい。あ、でも、包帯は巻いておかないと。私は四苦八苦しながら包帯を巻いた。ちょっと変だけど、まあ大丈夫だよね。…たぶん。ちょっとだけ自信がない。恐らく、なんとかなるはずだ。
とりあえず包帯はほどけなさそうなので外に出ることにした。庭に置いてあるハーブが目にとまり、私はお祭り用のポプリのことを思い出した。
「ハーブどうしようかな。摘み取ろうかな?でも、取りすぎちゃいそうで怖いんだよね…」
すると、ガチャリ、とドアが開いて、ルイが姿を現した。…と思ったら、何故かじーっと私の腕に巻かれた包帯を見た。あれ、どこかおかしかったかな?巻き方、雑すぎた?
「おはよう。…お前、勝手に包帯取ったのか?どう見ても、巻き方がおかしいけど」
「おはよう。変な巻き方なのは認めるけど、私が取ったんじゃなくて、ジェシカさんが取ったんだよ」
私はさっきの出来事についてルイに話した。ルイは、ジェシカさんが来たことに驚いたらしいが、納得してくれた。
「ってか、ヘルの奴…、なかなか治らないような怪我をさせるとか、全部終わった後まで最低だな…。やっぱり、今度会ったら植木鉢投げつけようか…。で、その包帯を巻いたのもジェシカなのか?」
植木鉢を投げつける、って…。これはもしや、殺人予告!?何か怖い。ヘルさんがルイの前に現れないことを願う。あと、ヘルさんがこれ以上ルイの逆鱗に触れないことも願う。
「……包帯を巻いたのは、私です。ジェシカさん、忙しいらしくてすぐ帰っちゃって…」
「やっぱりそうか。ジェシカがお前に包帯巻いてるの見たことあったけど、その時はすごく綺麗な巻き方だったからな…」
包帯巻くのが下手ですみませんね…。私だって、もう少し上手くできるかな、って思ってたんだけど、意外と難しかった。そもそも、自分のってやりにくい。
「しかも、結び方が雑…。これじゃ、いつほどけるか分かんないな」
そう言ってルイは、私の腕の包帯をほどこうとした。が、私は反射的に避けてしまった。
「逃げるなよ…。巻き直せないだろ」
「で、でも、さっき自分で見たら、けっこう傷口酷かったから…。見ない方がいいと思うよ?」
「…うん、やっぱり、植木鉢を用意しておいた方が良さそうだな。傷口に関しては結花が三日間の眠りについていた時に見たから大丈夫だ」
うわー…。逆鱗に触れちゃった…。ごめんなさい、ヘルさん。私は心の中で謝った。
「ってことで、包帯巻き直すな」
いつの間にか、ルイが、私が広げた距離の分だけ近付いていた。本当にいつの間に。忍者みたい…。私は大人しく腕に包帯を巻き直されていた。悔しいが、ルイの方が巻くのが上手い。そういえば、お屋敷の時も包帯じゃなくてハンカチだったけど、綺麗に巻いていたっけ…。
「よし、できた。これから、包帯外すときはちゃんと言えよ。俺が巻くから」
そう言ってルイは顔をあげた。が、その距離が意外と近くて驚いた。どうすればいいのか分からず、固まってしまう。というか、何で急にそんなことを思ってしまったのだろう。どう反応すればいいのか分からなくなってしまった。
「…?結花?固まってるけど、大丈夫かよ?」
ルイのその言葉で我に返った。やっぱり距離が近い…。私はそーっと距離を置いて答えた。
「え?!あ、うん。たぶん大丈夫?」
「何で疑問形…。ってか、今、さりげなく離れただろ!」
何で気付いたの?!すごくさりげなく離れたのに…。私が分かりやすすぎるのか、ルイの勘みたいなものが良すぎるのか…。もしかしたら、どっちもなのかもしれない。私は適当にごまかすことにした。
「き、気のせいじゃない?あ、包帯ありがとう!ルイの言う通り、これからは包帯、他の人に巻いてもらうね」
…何か、自分でも早口になっちゃってるのが分かるんだけど。ごまかし、失敗した気がする。実際、ルイは少し疑わしそうなな表情だった。なので、話を変えることにした。
「あ、そろそろ水やり始めないと、開店時間に間に合わなくなっちゃうよ?」
すると、その作戦は成功したらしく、ルイはまだ微妙そうな表情だったけど、水やりを始めてくれた。ものすごく微妙、って感じの表情だったけど…。
お店の時間になり、私はとりあえず、ポプリの箱を持って来た。お客さんがいない時に作ろうと思ったのだ。でも、お客さんがいる時間の方が多くて、なかなか作れない。今もお客さんが一人来ていて、お花を選んでいる。家に飾る花を買いに来たのだそうだ。お客さんは十分ほど迷った末、小さめの花でできた花束を買って行った。昨日、ルイが頑張って作っていた物だ。ものすごくセンスがいい、と思ったのを覚えている。そして、私はと言えば、三日間何もしなかったせいで、数字の感覚が少し鈍っていた…。何とか会計を終え、お客さんに花束を渡したちょうどその時、外に出ていたルイが帰ってきた。手に何かを持っている。そして、それを私に差し出してきた。
「えーと…、これ何?私が受け取っていいの?」
「ああ、これ、結花宛の手紙だ。ネネ様から。最初、差出人の住所を見た時、王宮とか書いてあってびっくりした…。しかも、結花の名前が書いてあったから、お前が何かやらかしたのかと思った」
「何か傷つくんだけど!?」
そう言うと、ルイはけたけた笑っていた。もしかして、いつもの意地悪…?!でも、とりあえずネネからの手紙が気になったので、受け取る。封筒に書いてある文字はシェーロン語。なので、どこに何が書いてあるのか分からない。もしかして、中もシェーロン語だったりするのかな…?私は恐る恐る封筒を開封した。便箋を開いてみると、ちゃんと日本語だった。良かった…。そして、便箋がとてもおしゃれ。日本っぽい桜色がとても綺麗だ。
手紙には、王都での出来事や、新しくできた友達、王宮のあちこちにあるからくり(!?)などについて書かれていた。どうやら、何だかんだ王宮で上手くやっているようだ。ちなみに、からくりについては、敵が来た時の為に備えてつけられているものらしく、よっぽど変なことをしない限り、からくりは動かないそうだ。まあ、すぐに反応するからくりがあったら怖すぎる。毎日、言葉通り、命がけの生活を送らなくてはならなくなってしまうだろう。…にしても、枚数がすごい。十枚近くあるんじゃないかな?内容がとても面白いから読むのは苦痛ではないけれど、これだけ書くの大変じゃなかったのかな…。それと、元の世界だったら、切手の料金が通常の値段より高くなりそう…。この世界の郵便事情は全然知らないけれども。
「ルイ、私もネネに手紙出したいんだけど、どうやったら届くかな?」
「王急に直接届けるのは無理だろうから、屋敷に届けた方がいいんじゃないか?ってか、お前、シェーロン語の読み書きできないだろ…」
そういえばそうでした。…ということは、手紙が送れない!日本語で宛先を書いたって伝わるわけないし…。シェーロン語を学んでから送った方がいいのかな?
「それじゃあ、ルイ、私にシェーロン語を教えて下さい!」
「いいけど…、お前、数字だけでも苦労してただろ…。果たして習得できるかどうか…」
「頑張るから!それに、数字だって何だかんだ覚えられたよ?あと、私も文字を読めた方が何かと便利でしょ?だからお願いします!」
顔の前で手を合わせてそう言うと、ルイは一瞬黙ったが、少ししてオーケーしてくれた。わーい!
「手紙を書きたいなら、宛先とかに必要なシェーロン語からやるか。その方が早く手紙を出せるだろ?」
「え、いいの?ぜひぜひ!それじゃあ、ルイ先生、よろしくお願いします!」
「……、先生はやめろ。次言ったら、教えないからな」
「すみません、二度と言いません…」
でも、これで少しはシェーロン語を知ることができる。…ただ、花の名前を書いている時に思ったんだけど、シェーロン語って全体的ににょろにょろしている。まるで、日本の平安時代とかの文字のように。なので、区別がほとんどつかない。そもそも、私は数字で手こずっていたので、文字は更に手こずることになると思う。なので、まずそこが不安だ。
この時の私は、シェーロン語が読みづらいだけでなく、実は、ものすごく複雑なことをまだ知らない。ついでに言うと、ルイの教え方がものすごく厳しいことも全く知らなかった…。
今週と来週は都合により、かなり不定期の投稿になると思います。あらかじめご了承ください。
読んで下さり、ありがとうございました。




