第四十話
なかなか投稿できず、すみません…。第四十話です。
商店街付近に着くと、ルイはようやく私の手を離してくれた。うう…、疲れたのと、緊張したのと、恥ずかしかったのがごちゃごちゃになってる…。心臓に悪すぎるよ、これ…。というか、足が限界…。私がその場にしゃがむと、ルイは心配そうに私の隣に座って言った。
「悪い、無理させたな。実は昨日、買い物に行った時、今日の夕方、魚を大安売りする、って聞いて…」
元の世界で言う、タイムセールみたいなもの、かな?そう言うのをちゃんと気にしてるってすごい…。私のお父さんは、とりあえずお母さんに頼まれた物が見つかったらよく確認しないで買い物かごに入れていた。そして、時々、どうでもいいものも入れていた。それで、帰ってきてからよくお母さんに怒られていたっけ…。なので、私も一緒に行った時は、ほとんど私が買うものを選んで、お父さんが関係ない物を持って来たら、すかさず止めていた。懐かしいな…。
「でも、何だったら、私を置いていっても良かったんだよ?道はちゃんと分かってるし」
「そういう訳にもいかないだろ…。道端で急に倒れたらどうするんだ。でも、かなりハードだったよな。それに関しては本当に悪かった」
ルイがもう一回謝る。本当に申し訳なさそうだ。
「…ところで、大安売りしてる、ってことは、今日は、魚屋さんに行くの?」
「ああ。今日はとりあえず、魚屋だけ。行けそうか?」
「大丈夫だよ。でも、次やったらアケビさんに言っちゃうからね?」
「……。気をつけます」
何故か敬語になった。アケビさんってそんなに怖かったっけ…?それはさておき、私たちはとりあえず、先に魚屋さんに行くことにした。…んだけど、他の、買い物に来ている人たちからの視線がすごい。恐らく、包帯のせいだろう。痛くないんだけどな…。外してないから分からないけど、案外治ってたりするかもしれない。でも、何も言わずに外したらルイに怒られる気がする。というか、言ってもダメ、って言われる気がする。
「ねえ、ルイ、ダメだと思うけど、念のため聞いていい?」
「ダメだと思うなら言うなよ…。でも、今さっき無理させたお詫びに聞いてやってもいい」
「周りの人からの視線がすごいから、包帯とっちゃダメかな?」
「は??馬鹿だな…。ってか、聞いてものすごく損した気分…」
即答した。というか、さりげなく「馬鹿」って言った!?そこまで言わなくてもいいと思うんだけど!あと、「損した」って何なんだ、「損した」って…。何か傷つくんだけど…。
「あのな…、取るなら医者の許可が出てからにしろよ。また血が出てきたらどうするんだよ?」
「おっしゃる通りです…。包帯取るのは止めておきます…」
「そうしてくれると俺としても嬉しい」
包帯を取るのは諦めることにした。よくよく考えたら、起きた時にジェシカさんがまだ完全に傷口が塞がってない、って言ってたな…。うん、やっぱり止めておこう。
「…でも、さっきはありがとう」
「は?何がだよ?俺、何か礼言われるようなことしたか?」
「うん。さっき、手、引っ張ってくれたでしょ?そのおかげで、かなり安定して走れたから。だから、ありがとう、って言ったの!」
言ってる途中で何故か恥ずかしくなり、最後はけっこう早口になってしまった。
最近、本当に自分の感情がよく分からない。今だってそうだ…。本当に何なのだろうか?そう思いつつルイを見たのだが、何故か固まっている。意外と固まることが多いな…。変なこと言ったかな、って心配になるからやめてほしいんだけど…?すると、ルイは小さくつぶやいた。
「やっぱり、不意打ちだな…。しかも、無自覚……。何か、これからも不意打ちされそうだな」
その声は周りの音に掻き消されて、ほとんど聞き取れなかった。
「ね、今、何て言ったの?ほとんど聞こえなかったんだけど…」
「……。さあ?何だろうな?まあ、聞いてもあまり意味ないけど」
質問に質問で返された!?あと、その前の謎の沈黙は何??というか、そういう言い方をされると余計に気になるのだが…。しかし、私が更に質問しようとしたところでルイは立ち上がった。
「時間ギリギリだし、そろそろ行こう。歩けそうか?」
見ると、日はかなり傾いていて、今にも沈んでしまいそうだった。空は茜色に染まっていて、近くの建物の窓にも夕焼けの色をした雲が映っている。
「うん、行けそう。日が沈みそうだしね…。早くしないと、魚が無くなっちゃうかもしれないもんね」
私も立ち上がって魚屋さんに行くために歩きだした。
結果的に、私たちは無事、普段より安く魚を買うことができた。わーい。この世界で売っている魚は面白い。元の世界で売っていた魚もたくさん売っているけれど、サンゴ礁や、南国の海を泳いでいそうなカラフルな魚も売っている。最初見た時は、一瞬、模型かと思ったのだが、よくよく見たら本物だったのだ。気付いた時はかなり驚いた…。今日も私がじっと彩り豊かな魚たちを見ていると、ルイがやって来た。
「いつもそこら辺の魚見てるけど、欲しいのか?」
「え?ううん、いらない。というか、この魚って、観賞用なの?」
「?! そんなわけないだろ。取っといたら腐るだけだ。ここに売ってるのは、全部食用」
まあ、そうだよね…。死んだ魚を観賞しても、何もいいことはない気がする。そういえば、元の世界の水族館には魚がたくさんいたけれど、何で小魚は大きい魚に食べられないんだろう?あ、あと、この世界には水族館という施設はあるのだろうか?少なくともここら辺にはなさそうだけど。…って、話が脱線してしまった。
「…食べられるんだね。元の世界ではこういう綺麗な魚は観賞用だったよ。だから、驚いてただけ」
「観賞……。何で魚を観賞するんだよ?ってか、どうやって?」
「えっと、大きな水槽にたくさんの魚が入っていて、ひらひら泳いでるのを外から見る、って感じかな。すごく綺麗だよ。小魚が群れになって泳いでいるのとか、本当に幻想的だし…」
私がそう力説したが、ルイはあまり興味がなさそうだった。まあ、水族館とかは、実際に見た方がいいと思う。
「あ、何だったら、今日の夕飯、この魚にするか?けっこう、この国ではよく食べられてるけど?」
「え、それは遠慮する!絶対食べられないし。観賞用だと思っていた魚を食べるなんて…。というか、さっき、他の魚買ってなかったっけ?」
「…そういえば、そうだったな。じゃあ、この魚はまた今度だな」
ルイはどこか残念そうに言った。…何で?この魚、好きなのかな?
魚屋さんを出ると、空はさっきよりも暗くなっていた。ほんの少しだけ紅色がかった空。紅掛空色、というのは、こういう色を指しているのだろうか?私がぼーっと空を眺めていると、いつの間にかルイは遠くにいた。え、置いていかれた!?一言くらい、声を掛けてほしかった…。私は慌てて早歩きでその後を追った。
上り始めたばかりの満月が、優しく街を見守っていた。
その頃、ヴェリエ国のとある貴族の屋敷では。その屋敷のメイドの一人であるメアリが同僚と共に窓の掃除をしていた。…と、その時だった。彼女たちの主人で、この家の当主である男の書斎から、何かがぶつかるような大きな音がした。メアリと同僚は思わず顔を見合わせる。
「ここ数日、何だか荒れていらっしゃいません?何があったのでしょうね?」
同僚の答えにメアリは首をかしげて答えた。
「さあ…。何でしょうね?でも、ついさっき、家令が書斎に入っていった気がするわ。怪我をしていないといいのだけど…」
メアリは小さくため息をついた。最近、屋敷中がピリピリとしている。そして、それは、この屋敷の主人のせいである。仕事が上手くいっていないのか、それとも、プライベートのことなのかは知らないが、本当に空気が重い。メアリは、屋敷が早く元の雰囲気に戻ることを願いつつ、黙々と仕事をした。
一方、書斎の中では。その家の主であり、ルイの父でもある男が苛立たしそうに部屋中をぐるぐると歩きまわっていた。家令は、その様子を見て怯えていた。この行動は、かなりの危険信号なのだ。
「どういうことだ、ヘルからの連絡が途絶えた、とは?」
「分かりません…。ただ、三日程前から、毎日来ていた報告が来なくなったんです…。安否は不明です」
そう言い終えた瞬間、家令の真後ろにある壁に何かが叩きつけられた。そしてそれは、音を立てて割れ、床へと落ちていった。家令は恐る恐るそれを見る。それは、ガラスでできた何かだった。元は何だったのか分からないほど、ばらばらになっていた…。
「この大事な時期に…。一体どうなっているんだ」
忌々し気にそうつぶやく。しかし、家令にも詳しいことは分かっておらず、何も答えられない。そのことに更に苛立ったらしく、ルイの父は恐ろしいほど低い声で言った。
「お前、ヘルを探して来い。見つかるまでここに…、いや、この国に絶対に戻ってくるな」
家令は顔を青ざめさせ、これ以上、自分に向かって何も投げられないうちに、慌ててその場を去っていった。
再び、何かが動きだした夜は、不穏なほど静かに過ぎていった。
次の投稿は今週の日曜日を予定しています。しばらく、続けて投稿できない日が続きそうです…。
読んで下さり、ありがとうございました。




