第三十九話
三章スタートです!秋っぽい(?)お話になるはずです。
夕方、私はルイと植物屋さんに行った。すると、中に入った瞬間、お店の奥からアケビさんが走って来て私に抱きついてきた。バランスを崩しかけたが、何とか耐える。ちょっと危なかった…。
「結花ちゃん!良かった…。怪我はもう大丈夫なの?」
「まだ完治してないです。でも、ほとんど痛くないので大丈夫ですよ。ご心配おかけしました」
すると、アケビさんの後ろからスイさんもやって来た。スイさんは静かな微笑を浮かべた。
「師匠ったら、ルイさまから結花さまがなかなか起きないことを聞いてからずっと、『結花ちゃん、大丈夫かなあ…』って言っていましたよ。さあ、師匠。結花さまが起きたことですし、いい加減、溜まった書類を片付けましょう。お祭りに関する書類が大量です」
「うう…。スイちゃんの鬼…。って、待って、スイちゃん、ルイに渡すものがあったんだ!」
そう言うと、スイさんが「あ」とつぶやいて、持っていた書類の中から一枚の紙を取り出して、アケビさんに渡した。アケビさんはそれをルイに見せる。私も見てみたが、シェーロン語なので、読めなかった。ネネに手紙を送るためにも、シェーロン語を誰かに教えてもらわないとな…。
「あー、それ、祭りの出店届けか。早いな、もうそんな時期なのか…」
「そう。いっつもルイ、参加してないけど、今年くらい参加したらどう?結花ちゃんもいるんだし。…ってことで、それ、一枚あげるわ。帰ってから検討してみて」
…話が読めないのですが。すると、スイさんがタイミングよく説明してくれた。
「毎年、この辺りでは三日間のお祭りがあるんです。かなり大規模なので他の地域からもたくさん人が来るんですよ。で、今、お二人が話していたのは、出店についてなんです。お祭りの日に外にお店を出したい人は申請書を書く必要があります」
なるほど。そう言えば、ジェシカさんも一か月後のお祭りがどうこう言ってた気がする。何だろう、って思ってたけど、このことだったのかな。
「アケビさんとスイさんも何かお店を出すんですか?」
「植物屋全体でお店を出すので、個人的に出す、というわけではないですね。ただ、お店番が交代制なので、一応接客とかはしますよ。…師匠には、このお祭りまでにさっさと書類を終わらせて頂きたいものです。…って、私、結局師匠の書類整理を終わらせられませんでした!今度結花さまが来るまでに終わらせる、って言ったのに…」
スイさんがしょんぼりとした。そういえば、この前、そんなことを言ってた気がする。
「えっと…、それじゃあ、お祭りの日にでも一緒にお店を回りませんか?」
「そうですね、そうしましょう。楽しみにしています」
すると、ルイもちょうどアケビさんと話し終えたらしく、私に声をかけた。
「そろそろ行くぞ。これから買い物しないといけないからな」
すると、アケビさんがルイをじっと見て言った。
「結花ちゃんに無理させたら絶対にダメだからね?」
「分かってる。さすがに俺だって怪我人に大量に荷物を持たせないし。じゃ、また来る」
「二人とも、お気をつけて。では、師匠、まず最初に書類の間違いを直してしまいましょう。記入する場所を間違えている物が大量すぎます。全部、書き直してくださいね?」
「ええー!ちなみに、本当は聞きたくないんだけど今日は何枚書けばいいの?」
スイさんは少し考えてから再び微笑を浮かべてこう答えた。
「書き直しが十六枚、昨日が提出期限だった物が同じく十六枚。そして、今日が提出期限の物が五枚。合計、三十七枚ですね。まだ間に合います、頑張りましょう」
「えええ…。何それ!?何で昨日が期限の物が十六枚もあるの!?」
「溜めずにさっさと終わらせておけば、この量にはなってなかったと思いますよ…」
二人はそんな会話をしつつ、店の奥へと行ってしまった。アケビさんもスイさんも大変そうだな…。
「俺らも買い物行くぞ」
ルイが歩き出したので、私も後を追った。
「うん。それにしても、前から思ってたんだけど、何で書類が多いんだろう?」
「前に、ここは貴族が管理してる、って言っただろ?そのせいで決まりとか報告しないといけないこととかが多いんだよ。それと、アケビが面倒がって溜めている、ってのもあるけどな。あと、今の時期は祭りの書類とかあるし」
そうなんだ…。植物屋さんってすごい…。
「お祭りって何があるの?花火とか盆踊りとか?」
日本のお祭りを想像してそう言うと、ルイは少し怪訝そうな表情になった。
「その、ぼん何とかってのは知らないけど、確か花火はあった気がする。行ったこと全然ないからよく分からないけど、毎年店の中にいても音が聞こえてたからな」
「へー。盆踊りないんだ…。というか、ルイ、お祭り行ったことないの?楽しそうなのに…。何で?」
「一回だけなら行ったことあったな。でも、色々面倒なことがあってそこから行ってない」
面倒なこと、とは一体…?何があったんだろう?気になったが、ルイは教えてくれなかった。アケビさんならその理由を知ってるかな。今度、アケビさんに聞いてみよう、と思った。
植物屋さんを出て道をお店がたくさんある場所へ続く道を歩いていると、唐突に後ろから誰かに声をかけられた。
「おお、久しぶりだな。…って、結花が怪我してる!?何があった?」
振り向くと、そこには文房具屋さんの店主さんがいた。お散歩中かな?
「お久しぶりです。怪我してますけど、痛くないんで平気です。店主さんはここで何を?」
「暇だから歩いていただけだ。君たちは何を?」
「植物屋さんに行ってました。これから買い物です。…あ、そういえば店主さんはお祭りの日にお店出したりするんですか?」
店主さんは首を振った。
「別に祭りの日に特別売るものではないし、店番してたら遊べないからな。数えるほどしか出店したことはない。それに、書類を書くのが面倒だ…」
アケビさんと同じようなことを言っている…。
「君たちは何かお店を出すのかい?でも、去年は祭りでルイの姿は見てないが…?」
「だろうな。毎年、祭りの日はとりあえず、家に引きこもってた。どうせ客も来ないだろうと思ってな」
え、そうだったの?全く外に出てなかったの?せっかくのお祭りなのに…。でも、毎年そんな感じなら今年も出店とかはしないのかな?少し残念…。と思っていると、ルイが店主さんに言った。
「まあ、今年くらいはやってもいいかな、とは思ってる。結花がいるから一人よりは準備が楽だろうし。もしかしたらやるかも」
「本当に?今から楽しみだなー」
私がそう言うと、ルイに呆れられてしまった。
「早い。あと、正式に決めてないからな。書類も書いてないし…。それに、準備がかなり大変だし、当日も店番があるからなかなか他の店とか回れないけどいいのか?」
確かにその通りだ。…ということは、スイさんともどこかに行けないのかな?それは嫌かも。でもでも、出店するのもすごく気になるし…。私がかなり真剣に考えていると、ルイがあることを提案してくれた。
「祭りも回りたいなら、午前も午後もずっと出店するんじゃなくて、午後だけ出店、みたいにするか?それだったら、午前中は暇になるけど?」
「え、そんなことできるの?それだったら、スイさんとお祭り回れそう!でも、いいの?」
「別に。その方が俺も楽だし。あ、でも、お店出すならメアリさんに来てもらうか…」
私も、メアリさんの予定が空いていたら、ぜひ来てほしい、と思った。すると、店主さんが言った。
「そうかそうか。店を出すなら、行ってやってもいいぞ」
「まあ…、あんたは別にどっちでもいいな…」
いや、それ言っちゃダメでしょ。しかも、言葉がストレートすぎる…。もうちょっとオブラートにしようよ?案の定、店主さんが不機嫌になってしまった。
「ふん。それなら、君がいない時間に邪魔することにする。それではな」
そう言って行ってしまった。私が非難を込めた目でルイを見ると、ルイは言い訳し始めた。
「いや、だって考えてみろよ?今まで不仲だった人が急に店に来る、とか言いだしたら怖くないか?」
「そこは、その人に何か心境の変化があった、ってことで受け入れてあげようよ?」
「絶対に無理だな。…ってか、話してたせいで遅くなった。結花、ここから商店街までダッシュな」
そう言ってルイは走り出そうとしたが、その直前で立ち止まり、私をじっと見た。何だろう?
「そういえば、お前、三日間寝てたんだよな…。まだ走らない方がいいか…?でも、歩いていくと時間かかるし…、よし」
いや、一人で完結されても何がどうなったか分からないよ?!というか、「よし」って何???なんか怖いんだけど、どうすればいいのだろうか…。
「後で文句は聞くから、大人しくしてろよ」
「は……?何が?だったら、先に言ってくれた方がいい気がするんだけど…?というか、何の話?」
私がそう質問すると、ルイは少し言いづらそうに言った。
「つまり…、本当は結花の体調とか考えたら歩いていった方がいいんだろうけど、走らないと時間的に間に合わないから、…手、繋いでおけ。そしたら、バランスとか崩しても何とかなるだろ?」
「は!??」
何でそうなった?!いや、たぶん、大丈夫だし、普通に歩けたし、何とかなるはずなんだけど…!心の中でそう叫んだが、声に出してないので、もちろん伝わるわけがない。ルイは私の手を掴むと、走りだした。でも、少し遅めだ。たぶん、私に気を遣ってくれているのだろう。ただ、走ってみて分かったんだけど、意外と足が上手く動かない。歩くのはまあまあ大丈夫だったんだけど…。明日からちゃんと足を動かした方がいいかもしれない、と思った。
いや、それはとりあえずいいんだけど…。この状況にすごく緊張しているのは私だけだろうか…?正直、足は動かしづらいけど、安定はしている。たぶん、ルイのおかげだ。だから、それはすごくありがたい。ありがたいんだけど…。心拍数が高いのは、気のせいじゃないはずだ。まだ、そこまで長い距離を走ったわけではないのに…。たぶん、緊張してるだけ、のはずだ。でも、何となくだけど、それだけではない気がした。でも、緊張している、以外に何の理由があるのだろうか?もう一つの理由が全く思いつかなくて、でも、気になって、どうしようもなかった。
読んで下さり、ありがとうございました。




