第三十七話
少し空いてしまいましたが、三十七話です。攻撃シーンです。
「ここもダメでしたね…。次、行きましょう」
ルイとゼンは片っ端から道を調べていた。しかし、なかなか目的の、階段に繋がる道が見つからない。違う道に行くと、いつの間にか、元の場所に戻ってしまう仕組みになっていた。今も、とある角を曲がったかと思ったら、気付かない間に曲がる前の場所に戻っていた。誰かに道を聞こうと思っても、全く人がいない。
「想像以上に厄介なものを出してきましたね、ヘルは…」
「本当だな…。ってか、サーニャ様とかメイドとかこの中にいる人たち大丈夫か?全然会ってないが…」
「そうなんですよね…。でも、誰もいないみたいですし、大丈夫なんじゃないですか。というか、そう信じたいですね」
ルイはうなずいた。その時、適当に曲がり角を曲がろうとしていたゼンが突然立ち止まった。そして、感覚を研ぎ澄まそうとするように目を閉じる。ルイは何をしているのか聞きたかったが、ゼンが集中しているようなので黙っていた。しばらくすると、ゼンは目をゆっくりと開けた。そして、嬉しそうな、でも、どこか不安そうな表情になって言う。
「ヘルの気配を感じました。…たぶん、彼が魔法を使ったのでしょうね」
「まさか、結花たちに何かしようとしたんじゃ…」
「可能性ありです。伝わってきた方向は…、たぶんこっちです。急ぎましょう」
ゼンは自分たちの真後ろにある道へと向かった。しばらく歩く。今度は元の場所に戻らなかった。思わず二人で顔を見合わせる。
「正解…、みたいだな」
「ですね。でも、ここからまた、分岐が大量です。地道な作業、再びですね…」
そう言われて辺りを見ると、自分たちが今通ってきた道はまっすぐに戻っていたが、それ以外は相変わらず、おかしい道になっていた。ルイは思わずため息をつく。
「いつまで続くんだよ、これ…。ヘルもよくこんなの作ろうと思ったな…」
「相当時間がかかったと思いますよ。あと、かなりの力も必要だったんじゃないでしょうか?」
そう話していたその時だった。不意に、真横にある扉からサーニャが出てきた。
「!?ど、どういうことなの?天変地異でも起きたのかしら?」
曲がっている道を見て、サーニャはぎょっとしていた。ゼンが説明する。
「ヘルの仕業です。サーニャ様、ここにいて頂けますか?むやみに動くと危険です」
「わ、分かったわ。この部屋にいるメイドたちにもそう伝えておくわね」
サーニャはうなずいて、再び部屋に戻って行った。ルイとゼンはそれを見届け、改めて正しい道探しを始めた。
部屋の中を風が吹き荒れ、部屋の棚に置いてあった小物が舞い上がる。そして、それらは一斉に私とネネの方へ向かってきた。私はネネの前に立って、そこら辺にあるものでそれらを叩き落とし、ネネになるべく当たらないようにした。でも、怖いよ、これ!?それに、手に取った物は案外小さいから、大きい物は防ぎにくい。近くに枕があったので、持ち変えて飛んできた物を叩き落とした。床に物が散乱する。まるで、泥棒が入った後みたいだ。
「避けないで下さいよ…。面倒じゃないですか…」
ヘルさんがなぜか不満そうに言う。いや、こっちだって怪我したくないんだけど…!?
「面倒なら、魔法使うのやめて下さい!あと、危ないんですけど!」
「それは無理ですね。諦めて下さい」
いやいや…。こっちだって、諦めて下さい、って言われて諦めるわけにはいかないのだ。しかし、ヘルさんのその言葉と同時に、再び物が浮きあがった。…と思ったら、ものすごい速さでこっちに向かってきた!枕を構える時間がないので、腕でかばうことにする。一応、腕に当たっただけで済んだが、ちょうど角が当たったのと、スピードが速かったのとで、当たった場所が切れた。でも、ちゃんと傷を確認する暇もなく、更に物が飛んでくる。今度はちゃんと枕で払った。一段落ついたところで、ネネが私の隣に来て、言った。
「結花!だ、大丈夫?それ、絶対痛いよね…!?は、早く手当てしないと…」
ネネが切れたところを強く押さえる。そんな大袈裟な…、と思ってちゃんと傷口を見たところで仰天した。意外とざっくり切れている。うわー…、ルイに怒られるな、これ…。それに、この状態がずっと続くとかなりまずい気がする。ヘルさんはまだ余裕みたい…。とりあえず、ネネだけでも逃がさないと…!そう思ったのだが、ヘルさんが入り口近くにいるので、どう突破するかが問題だ。それに、思いついたとしても、ヘルさんに読み取られたらダメだし…。色々考えていた、その時だった。
「ようっやく見つけた!お屋敷にいる、って書置きはあったけど、そんなのどこにあるか知らないし?!地図とか欲しかったんだけど。でも、着いて良かった。遅くなっちゃってごめんね?」
再びカーテンが大きく揺れ、窓から誰かが入ってきた。聞き覚えのある、その声。でも、その人は今、ここには来られないはずじゃ…?
「な、何でここに?私たちがお店を出た時にはまだ眠ってましたよね…!?」
「まあね。でも、ついさっき起きたんだ。ところで、ヘルがいるってのに、ゼンはどこよ?」
「実は、このお屋敷の廊下が迷路に変化して、なかなかたどり着けないようにされたんです」
私がそう説明すると、ジェシカさんはヘルさんの方に向き直った。そして、手をかざす。
「結花、お願い、その子を連れてゼンたちを探してきて。たぶん、迷路、って言うなら、どこかで出会えるはずだよ。わたしがこいつを足止めしておくから。ね?それに、結花に…、わたしの大事な友達にこれ以上怪我をさせるわけにはいかないもの」
一瞬躊躇したが、このままここにいても、邪魔になるだけになるだろう。
「…分かりました。絶対にすぐに戻って来ますから!」
「ありがとう。でも、怪我してるんだし、これ以上無茶したらダメだからね?」
ジェシカさんがそう言い終えた瞬間、部屋にやわらかい魔法の光が現れた。それは、徐々に強くなっていき、ヘルさんを包んでいく。
「今だよ!」
私はネネの手を握って、思いっきり扉に向かって走った。途中で壁に怪我したところが当たり、強い痛みが走ったが、気にしない。そのまま通り抜けて廊下へと飛び出した。
「結花、今、怪我したとこが壁に当たってたでしょ?大丈夫?」
どうやらネネに気付かれていたらしい。ものすごく心配そうにしていたが、「大丈夫」と答えておいた。
「…にしても、道が多い…。どうにかルイたちを探さないとね」
…と言っても、どの方向に行けばいいかさっぱり分からない。適当に右の方にあった道に入ってみたが、なぜかさっきと同じ場所に戻っていた。…何で?
「確か、普段だと左の方に行けば階段があるんだけど…。合ってるかなあ…?」
そう言ってネネが左にあった道へ進んだ。すると、ネネの姿がパッと消えた。…え、消えた!?そして、そのまま戻ってこない。ええ…、どういうこと?私はネネの後を追った。すると、今度はさっきの場所に戻らず、違う場所に行った。
「あ、結花。一応、今の道は正解だったんだけど、まだまだ迷路が続いてるんだよね…」
私を待ってくれていたネネが顔をしかめた。ふと後ろを振り返ると、そこには普通の廊下が続いていた。…本当にこの魔法は何なのだろうか?
「ここはたぶん…、階段の近くだから、次、正解したら下に降りられるはずだよ」
ネネが心配そうに私の腕を見つつ、そう言った。その時だった。どこかから足音が聞こえた。一瞬、幻聴かと思ったが、その音は確かに聞こえている。そして、それはだんだんとこちらに近付いてきていた。
「ネネ、何か音が聞こえない?パタパタ、って…。足音だよね?」
「んー?…あ、確かに。たぶん、階段を上ってる音じゃないの?」
…ってことは。ここまで上ってくる人物は、二人しかいないはずだ。
「あ、結花さん…、とネネ様も?!何でここに…」
たくさんある道の一つからゼンさんが現れた。
「ゼンさん!早く、ジェシカさんのところに行ってあげて下さい。ネネの部屋にヘルさんが現れたんですけど、ジェシカさんが来てくれて、それで…」
ゼンさんはその言葉だけですぐに状況を理解したらしく、うなずいた。そして、私たちに
「二人とも、後からルイさんが来ると思うので、そっちはよろしくお願いします」
と言って、その場から掻き消えた。恐らく、ジェシカさんのところに行ったのだろう。
「ゼン、早い!早いに越したことはないけどさ、あんた、早すぎ…」
ちょうどその時、ルイが現れた。でも、ゼンさんはいなかったので、一瞬驚いていた。私は、怪我した方の腕を隠してルイに話しかけた。
「ゼンさんは、ネネの部屋に行った。ジェシカさんがそこでヘルさんと戦ってて…」
「そっか。…ところで、質問だけど、怪我してないよな?」
念のため、というような感じでそう聞かれた。…ある意味、勘がいい気がする。怪我をしてない、と言おうとしたところでネネが先に口を開いた。
「怪我してるよ。腕のところ。ちょうど、あなたのところからは見えないけれど。でも、結花を責めないで!結花はあたしを守るために怪我を…」
「ちょっ…、ネネ…」
しかし、ネネは私の声を無視してルイに話し続けた。
「あの魔法使い、物を浮かせてあたしたちの方にぶつけてこようとしたの。そしたら、結花が枕とかを使って払い落としてくれて。でも、一個だけ、すっごいスピードで飛んできたのがあって、結花は自分の腕で叩き落としてくれたの」
待って待って、そんな詳しく話さなくていいから!ルイに怒られる要素が増える…。でも、今から止めようにもネネが全て話してしまったので、もう遅い…。
「やっぱり…。そうだと思った…。悪い、俺たちがもっと早く着いてたら良かったんだけどな…」
「え、いや、そんなことないよ!私が勝手にやったことだし…。約束破っちゃってごめんね」
怒られなかったことに驚きつつそう答えると、ルイは私が隠していた方の腕を取った。
「うわ、ざっくりいってるな…。意外と重症。何かでちゃんと止血しといた方がいいんじゃないか?」
「あ、あたし、ハンカチ持ってるよ。それでもいい?」
ルイはネネが取り出したハンカチを受け取って丁寧に私の腕に巻き始めた。
「…上手いね」
「そうか?前にメアリさんが教えてくれたからかな。…よし、終わった」
「ありがとう」
少しきつめだが、これなら血が止まりそう。そう思ったその時、ルイが唐突に言った。
「それじゃ、俺はヘルのところに行ってくる」
『それじゃ』ってどういうこと?!何でそうなった?
「で、結花に怪我させた件について尋問してくる」
一瞬、ルイが鬼のように見えた。正直言って、かなり怖い。ヘルさんとはまた違った怖さだ。このままだと、大変なことになりそう…。
「…じゃあ、私も連れてってくれたらいいよ」
「お前、怪我人だろ。むやみやたらに動くな。それに、これ以上無茶されたら困る」
「だって、私が行かなかったら、今度はルイが無茶しそうなんだもん」
すると、ネネが私に加勢するようにこくこくとうなずいた。少しの間、押し問答していたが、結局ルイの方が折れてくれた。ネネも行きたい、と言ったので、私たちは三人で部屋に行くことにした。…ジェシカさんとゼンさん、大丈夫かな?怪我してないといいんだけど…。
読んで下さり、ありがとうございました。




