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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
二章 異世界花屋と魔法の花
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第三十四話

遅くなりましたが、三十四話です。長いかもです。

次の日の、午前11時ちょうど。お店の前に馬車が止まった。…本当に馬車が来てしまった。すると、中からサーニャ様がとても優雅に出ていらっしゃった。そして、微笑を浮かべる。

「ルイさん、結花さん、先日はありがとうございました。それでは、早速参りましょうか」

「よろしくお願いします」

そう言ってルイが一礼したので、私もそれにならう。

「ところで…、後ろにいらっしゃる方も一緒に来られる方かしら?」

サーニャ様が怪訝そうにゼンさんを見た。実は、昨日の夜の話し合いの結果、ゼンさんもお屋敷に堂々と行くことにしたのだ。前は、こっそり魔法で侵入する、っていう話も出てたんだけど…。でも、ずっと眠ったままのジェシカさんにはお留守番してもらうことにした。少し心配だが、一応、目覚めた時の為に、メモやご飯はちゃんと用意してある。

「そうです。初めまして。ゼンと申します。お目にかかれて光栄です」

ゼンさんがにこやかに挨拶する。サーニャ様は一つうなずかれて馬車の方に手を向けた。

「どうぞ、お入りになって。余裕で入れるはずだから」

一番先に中に入った私はとりあえず、奥の方に座り、中を見渡した。馬車の中は電車みたいに席が向かい合わせになっていて、意外と広い。たぶん、六人くらい乗れるんじゃないかな?元の世界では馬車って基本的になかったから、写真とかイラストとかで外装くらいしか見ることができなかったけど、中はこうなってるんだ…。私がじっくりと中を見ていると、私の次に乗ってきたルイが不思議そうに聞いてきた。

「もしかして、お前、馬車に乗ったことなかったのか?」

「うん、そうだね。これが初めてだよ」

私がそう言うと、ルイは目を丸くした。え…、そんなに驚くことだった?だって、元の世界で遠くに移動するときは、電車とか車とかで済んでたわけで…。今でも人力車は一応あるけれど、馬車なんて、明治時代にでも戻らなければ乗れないんじゃないかな。もしかしたら、今でもどこかで使われてるのかもしれないけど…。そこまで詳しくない。

「それ、本気か?!どうやって移動するんだよ?」

「車とか、電車とか?少なくとも、馬車じゃなかったよ。そもそも、私が住んでた所に馬車はなかった」

ルイは信じられないような表情で私を見た。そして、この世界の移動方法について説明してくれた。

この世界での移動手段は、徒歩か馬車、もしくは水上車というものしかないらしい。ちなみに、水上車っていうのは、水を利用して進む車みたいなものだそうだ。車って言っても、電車みたいな形をしているらしいが…。すると、いつの間にか乗っていたサーニャ様が会話に加わった。

「この町は湖とか池がないので、導入していないのよ。一応、川を走ることもできるのだけど、この辺りの川は細すぎて、水上車が走れなくて…。あれがあれば、一気に便利になるのだけど…」

…もしかして、今の会話聞かれてた?車とか電車とか、サーニャ様にとっては意味不明なことを色々言ってしまった。異世界から来たこと、ばれちゃったかな…?少し心配になったが、サーニャ様は何もおっしゃらなかった。気付いていないふりをされているだけかもしれないけど…。

「ルイ、私、今度それに乗ってみたい。どこに行ったら乗れる?」

「そうだな……。あ、海の近くに行ったら乗れるんじゃないか?海の近くなら、豊富に水があるだろうからな。今度、暇なときに連れてってやってもいいぞ」

やったやった。水上を電車が走る、って絶対綺麗だろうなあ…。眺めも良さそうだし。

「本当に?嬉しい、楽しみにしてるね!」

って言ったところでどうでもいいけど、気になってしまうことに気付いてしまった。私の真向かいにルイがいる。…ということは、私がどの方向を向いても、ルイが見える、ということだ。隣、っていうのも、近距離だから気になるだろうけど、真正面っていうのはもっと気になる…!うう…、ジェシカさんと話した後から、何となく気になっちゃってるから、何とか気にしないように頑張ってるのに…。しかも、屋敷までは30分ほどかかる。その間、ずーっとこの位置とか辛すぎるんだけど!?かと言って、ずっと窓とか見てたら首が痛くなるだろうし…。うわあ…。どうしよう。ここにジェシカさんがいたらいいんだけど…。こういう時ってどうすればいいんだろう?

「おい、結花、話を聞け。急に反応しなくなるな。魂どっかに飛んだのか?」

私がそんなことを考えていると、ルイがそう言った。…もしかしなくても、私が考えてる間、何か話してた?しかも、私の具合が悪いと思ったのか、顔を近付けてくる。ただでさえ、真正面なのに…!私は慌てて答えた。

「大丈夫、平気だよ!全然気にしないで。…で、何て言ってたの?」

「だから、水上車は領主様のお屋敷の近くにもあるから、用事が終わった後、行ってもいい、って言ったんだよ。ってかお前、本当に大丈夫か?顔、赤い」

「な!?そ、そんなことない、はずだよ?」

「そんなの、自分では鏡でも見ない限り分からないだろ…」

呆れたように言われてしまった。でも、確かにそうだ。ここには鏡はないので、ゼンさんに聞いてみた。すると、ゼンさんはうなずいた。赤くなってる…、ってこと、だよね?

「だから言っただろ?熱でもあるんじゃないか?何だったら、病院でも行くか?」

「大丈夫だって。超元気だよ。…というか、これはたぶん、ルイのせいだし」

そう言った後で、それを言ったことを後悔した。何言ってるんだ私…!ただの八つ当たりにしか聞こえないよ、この発言…。自分でも分かる。というか、自分でも何言ってるのかよく分からない。案の定、ルイは意味不明、というような表情になった。

「何で俺のせいになってるんだよ…。理由を言え、理由を」

「さあ?私にもよく分からないんだけど?」

あっさりそう言うと、ルイは「意味不明すぎる」とつぶやいて窓の外を見た。それを見て、サーニャ様がくすくすと笑った。…笑う要素、どこにあったのかな?

「ふふふ。若いっていいわね。わたくしも若い頃に戻りたいものだわ…」

どういうこと…?…そう言えば、サーニャ様っておいくつなんだろう?ちょっと気になった。失礼かな、と思ったので、結局聞かなかったけど。


その後、のんびりと窓の外の景色を見ていると、急に木ばっかりの森の中から活気のある街の景色へと変わった。中心には小高い丘があり、そこに立派な建物が建っている。それはまるで、ヨーロッパにあるようなお城みたいだった。サーニャ様によると、そのお城風の建物が、領主様やサーニャ様、ネネ様が住んでいらっしゃるお屋敷らしい。でも、これ、屋敷とは言わないと思う。お城、って言っちゃっていいと思う。そこでふと考えた。もし、西洋風の街並みの中に急に日本風のお城が登場したら、戸惑うだろうな…。この世界のどこかには、日本風の国もあるのだろうか…?馬車が大通りに出ると、そこでは高級そうなものを大量に売っていた。すごい…。ここ、この国の首都なのでは?と思ってしまうくらい、人や馬車が多い。元の世界で私が住んでいたところは、そこまで発展していなかったので、こんな人ごみを見ることはなかなか、なかった。すると、サーニャ様が説明して下さった。

「この町は、商人の町なのよ。だから、色々な品物が世界中から集まってくるの。できれば、領地の各地に商人たちを分散させたいのだけど、なかなか上手くいってなくて…。その方がいざこざも少なくなると思うのだけど…。同じ系統のお店が集まると、もめごとが起こりやすくて大変で…」

窓から見える町では、人々が楽しそうに買い物をしている。とても平和なので、もめごとが起こるようには見えないが、確かに、けっこう近くに似たようなお店があることが多かった。しかも、人口密度が高い。やっぱり、サーニャ様のおっしゃる通り、少し分散させた方がいいのかもしれない。

「結花、あそこ、見てみろよ。水上車が走ってる」

不意にルイがそう言って、ある方向を指さした。その先には、路面電車みたいなものがある。でも、走っているのは、大河の水面だ。ちょうどそこには駅があり、開いたドアから乗客が降りてくる。駅はまるで、小さな島のようになっていて、岸から少し離れたところにある。どうやって岸に行くのかな、と思っていたら、岸にいた人が近くのひもを引っ張った。すると、水の下から橋が現れ、島と岸をつないだ。なるほど…、こうなってるんだ。乗るのが楽しみになった。


それから少しすると、馬車の進みが遅くなり、お店の数が少なくなってきた。どうやら、お屋敷のある丘を登っているらしい。けっこう上の方まで来ると、街並みを望めた。太陽の光に、屋根がきらきらと反射していた。まぶしい。それはまるで、光に反射する、水のよう。もしかして、この辺りのお家の屋根って、金属でできてるのかな?

「うわ、光の反射、すごすぎ…。目くらましみたいだな…」

ルイも同じことを思っていたらしく、そうつぶやいた。すると、サーニャ様が口を開かれた。

「屋根の多くは金属でできているのよ。確か、この辺りの建物は戦争時代からのものも多かったはずだわ。その頃、この辺りには重要な基地があったらしくて、攻撃をたくさん受けたみたい。でも、金属屋根のおかげであまり影響が出ずに済んだそうで…。その名残で、中には攻撃を受けた跡が残っているところもあると聞いたことがあるわね。…って言っても、わたくしも見たことがないのだけど」

「あー…。シェーロン国とヴェリエ国の争いのことですよね?何かで教わったことがあります」

ルイのその言葉にサーニャ様はうなずかれた。どうやら、当たりらしい。

「それって、何年くらい前のことなんですか?」

もともと、元の世界にいた頃から歴史が好きだったので、そう聞いてみると、サーニャ様は少し考えてから答えて下さった。

「そうね…。確か、100年ほど前のお話だったはずよ。かなり古くなっているから、崩壊しないか、少し心配なのだけれど…。ただ、建て直す、というのもなかなか大変でしょうね…」


そんな話をしていると、馬車が止まった。窓から外を見ると、真横にさっきまでは遠くにあったお城がそびえ立っている。…ついに、来てしまった。すると、外側から馬車のドアが開けられた。

「それでは、降りましょうか。足元にお気をつけて」

サーニャ様がそうおっしゃって、一番最初に馬車を降りられる。私たちも馬車から降りた。その瞬間、ざあっと、強い風が吹いた。まるで、嵐の前兆のような、少し冷たくて、全てを持ち去っていきそうな、そんな風。風は、近くに落ちていた葉を巻き上げていった。少し、嫌な予感がする。怖いな…。すると、私の肩をルイがぽん、と叩いた。

「怖いなら、俺も一緒に行くけど、どうする?」

どうやら、見抜かれていたらしい。作戦では、私だけでネネ様のところに行くことになっていた。ルイやゼンさんが行くと、魔法の影響を受けてしまうかもしれないからだ。私は首を振った。

「大丈夫。確かに、ちょっと怖いけど、一人で行ける」

ルイは少し笑った。そして、唐突に小指を出してくる。

「?」

「約束、忘れるなよ。絶対だからな?」

私は大きくうなずいた。そして、私も小指を出した。二人の指が、重なった。


ゼンは、結花とルイのやり取りを楽しそうに見ていたが、不意に何かを感じ、屋敷を見た。感じたものは、強い魔法の気配。ゼンは、ここにヘルが来ているのかと思ったのだが、誰もいない。しかし、その気配は明らかに強まってきている。その気配が強すぎてめまいがした、その時だった。カツン、と靴音が聞こえた。結花たちにもその音が聞こえたらしく、その方を見た。姿を見せたのは、黒髪の少女。その少女が現れた瞬間、再び強い風が吹きつけた。その風に体を持って行かれそうになり、ゼンは必死にその場に留まる。しかし、その少女は微動だにせず、こちらを見ていた。そして、口を開く。


「―ようこそ。あなたたちが来るのを、心よりお待ちしておりました」

黒髪の少女―ネネはどこか冷たい笑みを浮かべ、そこに立っていた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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